前世は婚約者を奪った悪役令嬢でした

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「・・・・・・」
その日は、私の誕生日会と賑わう日のはずでした。

「マリアお嬢様！！！」

鋭利な刃物が白いドレスを貫き脇腹部分を赤く染める。

執事やメイドに囲まれ、私は地面に倒れこむ。痛みで意識が朦朧として来る中、誰かが私を抱きかかえた。
「お・・・じょ・・さ、ま」
私を抱き抱えたのはお父様だった。
血だらけの私を見て涙を流しながら何度も私の名前を呼んでいる。
ああ、お父様も泣いているんだ。ごめんね……私がクーデリアの婚約者を奪ったばかりに……ごめんなさい。

恋愛に手段を選ばなかった私の結末はこうなってしまったんだね。でも、後悔はないよ。だって、大好きな人と結ばれて幸せだったんだから。
例えそれが悪魔の諸行だったとしても好きな人と一緒になれたのだから悔いはない。
薄れゆく意識の中、最後に見えたのは泣き叫ぶ父と幼い弟の悲痛な顔だった。

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「っ！」
目を覚ますと見慣れた天井があった。
はぁはぁと息が乱れ、心臓が激しく鼓動している。
（今の夢は一体？）
まだ、頭がぼんやりする中で先程の夢を思い返してみる。
あれって前世だよね。しかも、悪役令嬢として死ぬ時の。まさか、転生して乙女ゲームの世界に生まれ変わるなんて思わなかったよ。
いや、そもそもここが本当に乙女ゲームの世界なのか怪しいよね。もしかしたら、ここは現実世界かもしれない。そうだ！きっとそうに違いないわ！！だって、魔法なんて存在しないし魔物もいないもの。それに、公爵家の娘がこんな普通の庶民みたいな生活を送ってないわよね。うん、絶対違うわ。これは現実なのよ。
「マリア様、大丈夫ですか？」
「え？」
ふと、隣を見ると心配そうな表情をしたクレアがいた。どうやら、うなされていたらしく起こしてくれたらしい。
「大丈夫……」
「そうですか。それなら良かったです。朝食の準備が出来ていますので準備が出来たら食堂に来てくださいね」
そう言って、クレアは部屋から出て行った。
（やっぱり、あれは前世の記憶なのかな……？）
だとしたら、あの後どうなったんだろう。
私は死んで、生まれ変わったって事でいいんだよね？ なら、どうして今の私はこんなに胸が苦しいのだろう。まるで、心臓を鷲掴みされたように痛いのだ。
もし、あれが前世だったら今の私はどうなってしまうのだろうか。
「……考えても仕方ないよね」
どうせ、私にはどうすることも出来ないんだし考えるだけ無駄ね。今は、今世を楽しむことに専念しよう。