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 Ⅷ 死期と式

 火花

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 人払いを終えた後。
ウェディングドレスに身を包み不安そうな視線を向けるユリカに、クレードは白い歯を見せて微笑んだ。

「心配要らないよ、ユリカ。
僕らの新たな門出には、前世のしがらみなど不要だ。
そんなものはすべてここで断ち切ってしまおう。
不埒な弟との決闘を御許し頂けますか、父上?」
「……余はお前達の父として、兄弟同士が争う姿など見とうはない。
しかし、クレードが次の国王となった時。
三年前や今日と同じように障害となって立ちはだかるのがジークロハネ、お前だと言うのなら、今この場で決着をつけるのが良いのやも知れぬ」

ヴァルサーン七世はユリカを連れて部屋の隅まで下がると、黄金の椅子に弱々しく腰を下ろした。

「ジークロハネよ。
お前の腕では兄に敵わぬ事は明白。
だが、神聖な式の進行を遮った罪は重い。
せめて最後は王族らしく散るが良い」
「……そんな。
クレード様、ジークロハネ様、決闘なんて止めて下さい!」

ユリカの願いも虚しく、クレードは立て掛けてあった愛剣を手に取って構えた。

「ここは祈りを捧げる神聖なる場所、更には王の御前だ。
互いにチートスキルは封印しようじゃないか」
「……望むところです。
G、ブレイド!」

ゴキブリの触角のように二又に分かれた刃の柄を握り、Gも同様の型に構える。
共に同じ師に学び、同じ技を使う兄弟だが、並外れた運動神経を持つGの更に上をクレードはいっていた。

「はぁっ!」

剣と剣がぶつかり、火花が弾ける。
胸の痛みを堪えながらも、クレードの連撃に必死に食らいつくG。
広い大聖堂を駆け回り、二人の王子の命のやり取りは壮絶を極めた。
-互角。
ユリカの目にはそう映っていた。
まるで写し稽古のように、二人の動きが重なる。
どちらかが果てるまで戦いが終わらないと知りつつも、Gにもクレードにも死んで欲しくなかった。

「うぅ……」

右肩を斬られ、Gが呻き声をあげる。
深紅の床に同じ色の雫が滴り落ちた。

「逃げ回るのは前世から得意だったよな、弟くん。
だが、所詮はそれだけ。
お前はただの無力な害虫だ!」

振り下ろされた刃がGの頭蓋骨を砕いたかに見えた瞬間。
Gの剣が蔦のように巻き付き、その一撃を防いだ。

「……おかしな真似を。
スキルは無しだと言った筈だが」
「この剣は、国を追われてから異国の地で手に入れたものです。
二本足さん考案のスキルではありませんよ」

魔剣テンタクルスをしならせてクレードの剣を押し返すと、Gは渾身の力でそれを弾き飛ばした。
弧を描いて宙を舞った刀が床へと突き刺さる。

「さぁ、終わりです」

Gが剣を喉元に突き付ける。

「ジークロハネ様、お願い!
クレード様を殺さないで!」

その言葉に動揺し、視線が逸れたほんの一瞬。
Gに僅かな隙が生まれた。

「やはり害虫おまえは、死ぬべきだよ!」

剣を奪い取ったクレードの一閃がGの胸に鮮血の華を咲かせた。

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