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Ⅷ 死期と式
結婚式をぶっ壊せ
しおりを挟む朝陽が昇る少し前から反乱軍は障害物で道を塞ぎ、街の中に罠を仕掛ける作業に追われていた。
式が始まるのは午前十時。
城に隣接する大聖堂に二百名を越す有力貴族と楽士隊、各教派の司祭達が勢揃いし、ヴァルサーン七世と女神ティアナサの神像の前で新郎新婦が誓いを交わす。
式自体はそこまで複雑ではないが誓約を求められる伝統的な項目が多岐に及び、ここぞとばかりに長い祝辞で媚を売る貴族が跡を絶たない為、終わりが夕方になる事も珍しくない。
昨夜は胸の痛みで結局一睡もできず、何度か呼吸も止まりかけた。
その度に己の心臓にGショックを撃つ事で、辛うじて息を吹き返していた。
しかし、消耗する一方の体では魔力も回復せず、実際は立っているのも辛い状態だ。
一分が、一秒が、とても長く感じる。
「ゲボプリ……違った、もうジークだったわね」
Gは動きにくい女装ではなく、いつもの服に茶褐色のマントを羽織っていた。
遠目に見れば大きなゴキブリに見えなくもない。
「その名前はお願いですから忘れて下さい。
Gは、ただのGです」
じき、十時を迎える。
ヴァルサーン城に向かう貴族の馬車が慌ただしく往来を行き来していたのも先程まで。
現在ではクレード王子とユリカ姫の姿を一目見ようと押し掛けた群衆によって、城門前はすっかり埋め尽くされていた。
予想を遥かに越える厳戒態勢の警備には、一分の隙もない。
反乱軍の面々はそれぞれの手に小型魔銃を携え、街の各地で合図を待っていた。
ドーーーンッ!
十時を告げる教会の鐘の音が響き、青空に花火が打ち上がる。
それは彼らの狼煙だった。
一人、また一人と空を見上げていた人々がくしゃみを連発する。
灰に混じって降り注いだのは、火薬のなかに大量に仕込ませた胡椒の粉末。
たちまち大混乱に陥るコンバットの街中で、マスクを被った反乱軍の面々は一斉に行動を開始した。
城壁の外を警備していた兵士達にショックガンの衝撃が襲い、ドミノ倒しのように倒れてゆく。
「て、敵襲ーっ!
反乱軍だ、反乱軍が攻めてきたぞー!」
体が痺れて動けなくなった味方の兵士を見た者が警鐘を鳴らす。
四ヶ所の兵舎の入り口から続々と増援が出てきたところを、五人一組で編成された反乱軍の部隊が迎え撃つ。
一定の距離を保ちながら飛び道具で戦闘不能に追い込み、敵の勢いが勝ってくると予め仕掛けておいた罠のある場所まで誘導して一網打尽にする。少数精鋭と呼ぶに相応しい機動力だ。
そしてそれを可能にしているのが、Gの二つのスキルである。
どれだけ数で勝る大群であろうと位置を完璧に把握され、死角からの攻撃で戦力を削られればひとたまりもない。
G達の狙い通り、騒ぎの収拾がつかなくなった王国軍はとうとう城内に配置していた兵をも投入し、躍起になって彼らを追い立て始めたのだった。
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