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Ⅳ 凶禍
胸に咲く花
しおりを挟む飛行スキルを使って一足先にマラカーンに戻ったGは、舘の扉を勢いよく開けた。
「おかえりなさいませ」
「マリエッタさん!
二本足さんは、二本足さんはどこですか?!」
「……ごめんなさい」
マリエッタが沈痛な面持ちで頭を下げる。
「クレード様が突然やって来て、王都に連れ去ってしまいました。
皆で必死に止めたのですが、聞き入れては頂けず」
「解りました、王都ですね!」
クレードを追うべく、くるりと踵を返すG。
そこへ-。
「行ってどうすると言うのだ?」
踊り場の手摺に手をかけたファランが、ゆっくりと階段を下りてきた。
まだその顔色は悪く、足下はふらついている。
「二本足さんを救出します」
「……三年前。
王城で原因不明の爆発が起こった。
それから少しして、王の命を狙い国家転覆を企てた咎で第二王子が国外へと追放された。
王位継承権を剥奪されたその少年は商船に密航してヴァルサーンに戻ると、絶対王政から民主化への移行を望む反乱軍に匿われたそうだ。
ずいぶん前に行商人から聞いた噂話ゆえ失念していたが、その第二王子とはG。
貴殿の事ではないのか?」
ファランはGの瞳を真っ直ぐに見据えた。
「……そうだと言ったら、王国軍に突き出しますか?」
「Gさん?!」
Gは飛行スキルを使ってマントを翼へと変えた。
離陸の為に腰を落とし、羽が細かな震動を開始する。
「国家に忠誠を誓う領主としてはそうせざるを得まい。
だが、貴殿とユリカ嬢には借りがあるのでな」
ファランはそう言って微笑むと、再び厳しい顔つきに戻った。
「相手は一人で小国の軍隊を壊滅させる程の力をもつ、あのクレード王子だ。
闇雲に懐に飛び込んでも勝ち目はないぞ」
「でも、Gには時間がないのです!」
「……時間?」
黙り込むGの表情から深い事情がある事を察したファランは、それ以上の追及を諦めた。
自分がどれだけ理詰めで引き止めたとしても、少年は死地へと赴いてしまうだろう。
もしもこの身が領主などではなく、ただの町娘であったなら、胸を焦がす思いの丈を打ち明けてでも引き留めたのかも知れない。
しかし、そう出来ない自らの立場を恨むと共に、ファランはそれに救われてもいた。
目の前の少年には前世から想い続けた女性がいるのだ。
実る筈のない恋ならば、蕾の内に枯らしてしまう方がいい。
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