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Ⅳ 凶禍

 希望と代償

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「ヘルキュイアスは私の力で魔界へと送還しました。
貴方にはこんなところで死んで貰っては困りますからね」
「……Gは、この手で人を殺めてしまいました。
仲間であり、なんの罪もない二人を」
「それはあの魔神にたぶらかされての事でしょう。
貴方がその身を犠牲にし、愛する人を助けようとした事実は揺らぎませんよ」

慈愛に満ちた女神の慰めにも、Gの罪の意識が払拭される事はなかった。
人として生まれ変わり、大好きなユリカと同じ時間を過ごしても、その本性は人類の根絶を望む醜い害虫ゴキブリそのままだったのだ。

「もっとも忌み嫌っていた筈の人間達と同じ過ちを、Gは犯してしまったのです。
理不尽な暴力による虐殺……これは、どんな理由があろうと赦されるべき事ではありません」

Gは精神空間から、動かなくなったセツハとネムネムの姿を見詰めた。
そして、その亡骸の前で泣きじゃくる猫族の少年を。

「……ならばペナルティと引き換えに、私の力で二人の命を助けてあげましょうか?」

女神の申し出に項垂れていたGは顔を上げた。

「自然界の法則を曲げるのです。
前回同様、その代償にユリカさんから貴方に関する記憶を頂きますよ。
それと、もう一つ……」

女神の提示した条件はあまりに残酷なものだった。
Gはもう一度、二人の亡骸に目を向けた。
セツハ達の協力がなければユリカは今頃、命を落としていた筈だ。

「……お願いします」
「記憶の消去を行えば貴方にとってとても不利な状況となりますが、本当に宜しいのですね?」
「はい。
どうか二人の命を助けて下さい」

闇の空間に光が満ち、二人の精神体を溶かしてゆく。
Gの意識が現実世界への回帰を始めたのだ。

「貴方の目が覚めた時、二人は息を吹き返している筈です」
「有り難うございます、転生神様」

その言葉に女神が微笑む。

「私は虫の子の稀有な恋物語がどのような結末を迎えるのかが知りたいだけ。
よって、貴方がたの戦いに介入するのも今回だけです。
ではGよ、励みなさい」

ゆっくりと目を開けた。
ヘルキュイアスが引き起こした破壊の痕跡は失われ、ラウォール山はすっかり元通りに復元されている。
三人の仲間は惨殺される前の姿で、Gの周りに集まっていた。

「Gさん。
大丈夫ッスか?」

ディガロの言葉にGは頷くと、ガバッと飛び上がった。

「皆さんの方こそ、ご無事ですか?!
足とか胸とか、なんともなってないですか!」

その慌てように三人は顔を見合わせる。
取り分けて目立つ外傷は見当たらない。

「不死竜を倒して急に倒れたと思ったら、ゴキブリさんはいったい何を言ってるにゃ?
それより、早く!
早くクレードを追い掛けるにゃよ!」
「……え?」


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