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Ⅲ 竜殺しの英雄
天空の光
しおりを挟む「針術結界、朱雀」
湖から七つの火柱が上がり、分厚い氷を瞬時に溶かした。
その拍子にディガロの体が水中へと沈み、お預けを食らった不死竜の大顎が頭上を通過する。
九死に一生を得て湖底に目を凝らすと、銀色に輝く小さな光が見えた。
「……こんなところに結界を。
森の活性化は目眩まし、次の布石を打つ為の下準備だったッスね」
大空を舞っていた紅の朱雀が急降下し、不死竜の体を炎の爪で引き裂いた。
「やったッスか?!」
水際から陸に這い上がったディガロが叫ぶ。
「いいえ」
氷の息の反撃を受けて片翼が蒸発した炎鳥は、山間に激突してそのまま消滅した。
「針術結界、白虎、青龍」
東西二ヶ所の結界から霊獣を同時に召喚すると、セツハの体がぐらりとよろめいた。
今日だけでかなりの術を行使している。
魔力が枯渇した体は、すでに限界に達していた。
「セッちゃん、いま助けるッス!」
酷い凍傷に歩く事を諦め、地を這うディガロが叫ぶ。
「……助、ける?」
その姿をぼやけた瞳で一瞥すると、セツハは衰弱しきった体を大地に横たわらせた。
「セッちゃん‼」
体が重い。
結界の光が弱まり、喚び出された二体の獣が霧のように薄れてゆく。
「……霊獣が?!」
間に合わないのは解っている。
それでもディガロは大地を掴み、不死竜に向けてがむしゃらに前進し続けた。
大気に透過した霊獣を蹴散らすと、不死竜は倒れたセツハの体を掴み前肢で握りしめた。
「あぁっ!」
全身を襲う苦痛に表情を歪ませる。
やっぱり、無理だったんだ。
残酷な現実にディガロは唇を噛み締めた。
たった二人でこんな化け物に勝てる筈が無い。
せめてこの足さえ、動いてくれれば-。
(……終わりです)
「せ、セッちゃん?!」
その時、Gリンクを通じてディガロの頭にセツハの声が響いた。
「なにを弱気になってるッス!
諦めたらそこで人生終了ッスよ‼」
「うああぁーーっ‼」
ボキリ、と骨の砕ける音。
(姉ちゃんっ、姉ちゃん!
セッちゃんが殺されてしまうッス‼)
無理を承知で助けを求めたディガロに、
(う~るさいにゃっ!)
ネムネムの怒鳴り声が返ってきた。
(なんでそんなに怒ってるッスか?!
と、とにかく直ぐに助け)
(姉ちゃんはいま取り込み中にゃ~!)
「ディガロさん……。
私は先ほど『終わり』と言いました」
「えっ?」
「針術結界、四獣相応」
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