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  Ⅱ 愛しき人

 惚れさせたくて

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翌朝。
丘の上にそびえる領主の館に招かれたG達は、応接室に飾られた絵画や立派な柱時計に目を奪われていた。

「今回の一件で二人には大きな借りを作ってしまったな。
白聖祭を無事に終える事が出来たのも貴殿らの助けがあればこそだ。
私に出来る範囲で最大限の褒美を贈らせて欲しい」

ファランはそう言ってG達を労うと、宝物庫から運ばせた宝の品々を机いっぱいに広げてみせた。

「先の大戦でめぼしい武具は王国に徴収されてしまったが、遠見の水晶球に嘘つき鏡、ヘタレバックル等、珍しい品には事欠かぬぞ。
どれも売れば一億ジュラは下らない逸品ばかりだ。
好きなだけ持って行くが良い」
「あの、ファラン様。
それよりGは惚れ薬と言うものが欲しいのですが」
「か、仮にそれがあったとして。
貴殿はそれを誰に使うつもりなのだ?」

ファランはモジモジしながらGをちらりと見た。

「それはもちろん、にほ……」

ユリカの突き刺すような視線を感じて言葉を失う。

「ファラン様。
私が欲しいのはイケメン男子との出会いなんですけど、そう言う魔法のアイテムってありますか?」
「そんなものはない。
まったく、貴殿らと来たら異性の事しか頭に無いのか?
転生者とは世界を救済する存在であろうに」

年下のファランから呆れられ、二人は身を縮こませる。
そこに一人のメイドが慌てた様子でやってきた。

「ファラン様、大変です。
街が不死竜ノーライフドラゴンに襲われています!」
「なんだと?!」

椅子を蹴って立ち上がると魔法の呼鈴を鳴らし、ファランは全使用人を直ちに召集した。

「マリエッタ、状況を」
「初撃のブレスで兵士の三分の一が戦闘不能。
祭の為に増員していた警備兵二百が長槍パイクと弓矢で応戦しているものの、長くは保ちそうにありません」
「……不死竜め。
冒険者ギルドに急ぎ協力を要請しろ!
民間人の中にも志願する者がいれば、武具を与えて隊列に加えてやれ」
「近隣の町へ応援を要請しますか?」
「増援の到着など待っている余裕はない。
現存する兵力のみで凌ぎ切るぞ。
セツハとディガロは私と不死竜迎撃に当たれ。
他の者は教会の神官達と共に民間人を誘導し、安全な場所まで避難させてくれ」
「……あのう」
「なんだ!」

張り詰めた表情でファランがGに怒鳴った。

「僕がちょっと行って倒してきましょうか?」
「……思い上がるな。
いくら貴殿がS級冒険者でも、天災に等しき不死竜だけは倒せない。
それにこれはマラカーンの問題だ」

ファランはそう言うと、使用人と連れ立って足早に館を出ていった。
広い屋敷に取り残されたGとユリカは、いたたまれない気持ちに陥っていた。

「ファランに遠慮する事なんてないわ。
これ以上被害が拡大する前に不死竜を倒すのが最善策でしょ?」
「……ううん。
でしゃばるのは好きではありませんが、やむを得ませんね。
街が壊滅しては、あの惚れ薬が買えなくなってしまいますし」
「それについてはどうでもいいわ。
さぁ、街を救いに行きましょう!」

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