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生き残ることと、生きることは違うんだ

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俺の名前は山田太郎。
ちょっとばかり戦国時代が好きなただの二流大学生である。

最近はスマホで出た「信長のやべぇ」というソーシャルゲームをぽちぽち楽しむのが日課だ。
この「信長のやべぇ」というゲームは、パソコンやコンシューマ機でも大人気作の移植で、リリース前から話題になっていた。
熱狂的なファンも多い硬派な歴史SLGがスマホ版としてどう生まれ変わるのか、誰もが着目していた。

が、結局のところ、ただのガチャゲーになってしまった。
このご時世、どうしたって収益性を考えると、「ガチャ」のシステムは搭載せざるを得なかったらしい。
とにかくガチャで有力な武将を引いて天下布武を目指す、という廃課金御用達ゲームになってしまっていた。

とはいえガチャがあるところにリセマラがある。
リセマラ、すなわちリセットマラソン。
ゲーム序盤だけをプレイしてある程度ガチャを引く。
そこでおめあての武将が出なければデータを消去してやり直す。
それを延々と繰り返す、素晴らしく非生産的な行為である。
が、無課金でいいキャラを引くための手法として、ここ数年で急速かつ広くあまねく世の中に浸透した言葉である。

かくいう俺山田太郎も、決して裕福な学生ではないのでもちろんリセマラをする。
狙うはもちろん織田信長一択。
最高レアリティの星5武将である。

 が、でねぇ。
 まったくでねぇ。
 確率は公表されていないが、1%程度ではないかとネットの掲示板などでは囁かれていた。
 
 「殿…!?この武将は…!!!!」
 
 デッデーン!!
 
 「おめでとうございます、星3姉小路頼綱殿が馳せ参じましたぞ!」
 
 うっわ、また姉小路頼綱かよ…もう20回は見たぞ。
 確率いじってんじゃねーのか、ぐらいに同じ星3ばかりが出る。
 また最初からやり直さなければならないので、本当に苦痛なのである。
 ならさっさとやめればいいのだが、星5が出た時の脳汁爆発感がたまらないので、やめられないのだ。
 要するにパチンコ中毒とおなじで、こんな依存性の高い悪質なコンテンツが世の中をまかり通ってるんだから世も末だよな、とも思うが、脳は快楽に従順なのである。
 
 もうすっかり手順を覚えたリセマラをまた最初からはじめる。
 集中してやるのは苦痛なので、だらだらテレビを見ながらだ。
 
 ムービーはスキップ、戦闘はボタン連打。
 もう何度見たことやら。
 
 10分ほどしこしこと頑張ればレアガチャ画面にたどり着く。
 この瞬間だけはつい真剣になって集中してしまう。
 今度こそ……頼むぜ!
 
 せいやっ!
 レア武将を呼び出す、召し抱えボタン(謎の名称である)を祈りを込めて押し込んだ。
 
 スマホの画面が徐々に虹色の光で埋まっていく……!
 こ、この演出は星5確定……!!
 
 き、き、き、きたああああああああああああああ!!
 もう信長でも家康でも秀吉でもなんでもいいから星5出たらさっさとゲーム始めるぞおおお!!
 
 迫り来る快感に脳が弾けそうになった瞬間、俺の身体が一瞬で光に包まれあっという間に意識がぷつんと消えた。
 
 それからどれぐらいの時間が経ったのだろう。
 ふと気がつけば、豪華な和室の畳の上に座っている。
 
 「あれ…俺の部屋に畳なんてないはずだけど……」
 
 何気なく自分の手を見ると、なぜか手甲のようなものをつけているではないか。
 
 「え、あれ?」
 
 手甲だけではない。
 妙に身体が重いと思ったら、全身が鎧兜で武装されていた。
 
 「え、ええーっ!?」
 
ご丁寧に腰には大小の刀も帯びている。
というか、このいでたちって…

「あ、星5信長だ……」

そうなのだ。
俺はあれほど恋い焦がれた星5信長になっていた。
なんでか知らないが、ともかくなっていたのだから仕方がない。

「と、とりあえずこの部屋から出れるのかな……」

どうやら城の一室らしき大広間をおそるおそる調べてみるが、見事に出口がない。

「ひょっとして……キャラを呼び出すためだけの画面だから、出口が実装されていない?」

刀で斬れないかと思って抜こうとしてみるが、抜けない。
完全に鞘と刀身が一体化しているようだ。

「これも……この画面で抜くことはないから、実装されていない?」

……試行錯誤すること数十分は経ったろうか。 
 結論として、俺はこの部屋から出れないし、歩き回る以外の何もできないことがわかった。
 どうやら、「信長のやべぇスマホ版」の武将召し抱え画面における武将に転生してしまったようだ。
 
そして、極めて限定的な局面に転生してしまった上に、ゲームを進めるべき俺がゲームの中にいるので、これ以上進みようがないということも理解した。
俺はひとり思った。

「かの戦国に転生されて生き残れるのかえ」

結論として、何も起きないので生き残り続けることはそれほど困難ではなさそうだった。
スマホの電池が切れても、たぶんサーバが生きている限りは大丈夫だろう。
少なくともこのゲームがサービス終了するまでは、俺は延々とこの部屋で呆然とするほかはないようだった。

しかし、生き残ることと、生きることはーーー悲しいまでに違うことだった。
ーそのうち俺は、考えるのをやめた。
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