8 / 32
第8話 勧誘
しおりを挟む
「改めて自己紹介しようー」
小野寺さんが何やら懐からゴソゴソと取り出して渡してくる。
「どうもお世話になっとります、私こういうものでして」
そこにはこう記されていた。
『白の騎士団序列第4位 前衛隊長兼人事部長 小野寺隆文』
「サラリーマンかっ」
思わず突っ込んでしまうと、照れ臭そうに小野寺さんが笑った。
「いやぁ、この歳になると現実とゲームを分けて演じる、なんて器用な真似はできんのでな」
「そんなもんですか…」
「そんなもんよ」
小野寺さんは、テカテカと光る坊主頭をポンとひとつ叩く。
それから真剣な表情になった。
「このゲームはPKアリだからな、さっきの奴らもフェアじゃないが、
違法行為ってわけでもない。以降気をつけるんだな」
「はい、ありがとうございます…本当に助かりました。
あ、俺はリョウキって言います」
ニアもぺこぺこと頭をさげる。
「ありがとうございます…ニアです」
「まぁいいってことよ。幸い収穫もあったことだしな」
そう言って小野寺さんはじっと俺を見つめる。
さすがにドキドキ…はしないが、気まずい。
「ニアくんを守ったあの一撃、実に見事だった」
「いや、ほんのまぐれで…」
「確かにカウンターできたのは偶然かもしれん。
だが、ニアくんの前に立ったのは、君の意志だろう」
面と向かって改めて言われると、何とも恥ずかしくなる。
頬が熱くなり、思わずうつむいてしまった。
「その意志のあり方を、見事と言った」
「夢中だっただけです。でも、ありがとうございます」
「これまで何度も初心者狩りのPKに遭遇したが、大半の若造はパートナーを見捨てて逃げ出すぞ」
やれやれ、といかにもオヤジ臭い口調で小野寺さんがぼやいた。
「逃げ出す」という言葉に、少しだけ苦い思いがこみ上げる。
俺だって、最初は逃げようとしたんだ。
最初から最後までカッコ良くいられたわけじゃない。
レア、とニアを蔑んだクリムゾンの奴らを、俺が糾弾する資格はないのかもしれない。
確かに俺にも、所詮はレア、という考えがよぎったのだ。
小野寺さんは、黙り込んだ俺の肩を今度こそ優しくぽん、と叩く。
「何はともあれ、君は逃げないことを選んだ。結果オーライだ」
「そうですよ、あのクリムゾンの呼吸する生ゴミさんたちよりずっと素敵ですわ」
アイシャにそう言われても、まっったく褒められている気がしない。
むしろ、けなされてる…?
あれ…ちょっと快感…?
と、今度はニアに睨まれる前に真剣な表情で取り繕う。
良かった、今回は気づかれていない。
突然、小野寺さんがびしっと俺を指差した。
「そこでだ、リョウキくん。良かったら、我ら白の騎士団の入団試験を受けてみないかね」
「入団試験?」
「そうだ。自分たちで言うのも何だが、ルンデスでは1、2を争うトップギルドだぞ。
君が何をしたいかは知らんが、いずれにせよソロプレイは効率が悪い」
「なるほど…」
ルーンデスティニー、略してルンデスって言うのか。
はじめて知った。
にしても、小野寺さん…見た目はともかく、精神年齢は若々しいようだ。
「それに、次もまた守りきれるとは限らんぞ」
「それは、確かに…」
「(惚れたんだろう?)」
いきなり顔を近づけてそう囁かれ、俺はあわてて首を振る。
「そ、そんなんじゃないですよ!」
「…何がですか?」
怪訝そうな顔で会話に加わろうとするニアに、
あわてて弁解する。
「いやいや、なんでもないなんでもない」
「うむうむ、青年よ女を抱け、だな」
「死んでおきなさいマスター」
ニヤニヤする小野寺さんを、アイシャが容赦なく弓でぶっ叩いた。
とはいえ、だ。
白の騎士団がトップギルドだとしたら、こんなにありがたい話はない。
特に攻略目標を決めているわけではないが、というかロクにゲームの知識はないが、
小野寺さんの言うとおり、ソロプレイは効率が悪すぎる。
というか、MMOである以上、ソロを貫く理由はあまり無い。
何より、ニアをロストしたくはなかった。
「ニアはどう思う?ギルドに入ること」
ニアがはっとした表情を浮かべ、それから真剣に頷いた。
「私は、小野寺さんもアイシャさんもいい人だと思います。
だから、リョウキさんが良ければ、試験を受けてみてもいいんじゃないですか」
「わかった」
小野寺さんに頭をさげる。
「試験を受けます、よろしくお願いします」
「そうかそうか、まぁ試験と言っても形式的なものだから安心しろ」
ガッハッハ、と小野寺さんが豪快に笑う。
その言葉がとんでもない大嘘だと知るのは、もうしばらく先のことになる。
小野寺さんが何やら懐からゴソゴソと取り出して渡してくる。
「どうもお世話になっとります、私こういうものでして」
そこにはこう記されていた。
『白の騎士団序列第4位 前衛隊長兼人事部長 小野寺隆文』
「サラリーマンかっ」
思わず突っ込んでしまうと、照れ臭そうに小野寺さんが笑った。
「いやぁ、この歳になると現実とゲームを分けて演じる、なんて器用な真似はできんのでな」
「そんなもんですか…」
「そんなもんよ」
小野寺さんは、テカテカと光る坊主頭をポンとひとつ叩く。
それから真剣な表情になった。
「このゲームはPKアリだからな、さっきの奴らもフェアじゃないが、
違法行為ってわけでもない。以降気をつけるんだな」
「はい、ありがとうございます…本当に助かりました。
あ、俺はリョウキって言います」
ニアもぺこぺこと頭をさげる。
「ありがとうございます…ニアです」
「まぁいいってことよ。幸い収穫もあったことだしな」
そう言って小野寺さんはじっと俺を見つめる。
さすがにドキドキ…はしないが、気まずい。
「ニアくんを守ったあの一撃、実に見事だった」
「いや、ほんのまぐれで…」
「確かにカウンターできたのは偶然かもしれん。
だが、ニアくんの前に立ったのは、君の意志だろう」
面と向かって改めて言われると、何とも恥ずかしくなる。
頬が熱くなり、思わずうつむいてしまった。
「その意志のあり方を、見事と言った」
「夢中だっただけです。でも、ありがとうございます」
「これまで何度も初心者狩りのPKに遭遇したが、大半の若造はパートナーを見捨てて逃げ出すぞ」
やれやれ、といかにもオヤジ臭い口調で小野寺さんがぼやいた。
「逃げ出す」という言葉に、少しだけ苦い思いがこみ上げる。
俺だって、最初は逃げようとしたんだ。
最初から最後までカッコ良くいられたわけじゃない。
レア、とニアを蔑んだクリムゾンの奴らを、俺が糾弾する資格はないのかもしれない。
確かに俺にも、所詮はレア、という考えがよぎったのだ。
小野寺さんは、黙り込んだ俺の肩を今度こそ優しくぽん、と叩く。
「何はともあれ、君は逃げないことを選んだ。結果オーライだ」
「そうですよ、あのクリムゾンの呼吸する生ゴミさんたちよりずっと素敵ですわ」
アイシャにそう言われても、まっったく褒められている気がしない。
むしろ、けなされてる…?
あれ…ちょっと快感…?
と、今度はニアに睨まれる前に真剣な表情で取り繕う。
良かった、今回は気づかれていない。
突然、小野寺さんがびしっと俺を指差した。
「そこでだ、リョウキくん。良かったら、我ら白の騎士団の入団試験を受けてみないかね」
「入団試験?」
「そうだ。自分たちで言うのも何だが、ルンデスでは1、2を争うトップギルドだぞ。
君が何をしたいかは知らんが、いずれにせよソロプレイは効率が悪い」
「なるほど…」
ルーンデスティニー、略してルンデスって言うのか。
はじめて知った。
にしても、小野寺さん…見た目はともかく、精神年齢は若々しいようだ。
「それに、次もまた守りきれるとは限らんぞ」
「それは、確かに…」
「(惚れたんだろう?)」
いきなり顔を近づけてそう囁かれ、俺はあわてて首を振る。
「そ、そんなんじゃないですよ!」
「…何がですか?」
怪訝そうな顔で会話に加わろうとするニアに、
あわてて弁解する。
「いやいや、なんでもないなんでもない」
「うむうむ、青年よ女を抱け、だな」
「死んでおきなさいマスター」
ニヤニヤする小野寺さんを、アイシャが容赦なく弓でぶっ叩いた。
とはいえ、だ。
白の騎士団がトップギルドだとしたら、こんなにありがたい話はない。
特に攻略目標を決めているわけではないが、というかロクにゲームの知識はないが、
小野寺さんの言うとおり、ソロプレイは効率が悪すぎる。
というか、MMOである以上、ソロを貫く理由はあまり無い。
何より、ニアをロストしたくはなかった。
「ニアはどう思う?ギルドに入ること」
ニアがはっとした表情を浮かべ、それから真剣に頷いた。
「私は、小野寺さんもアイシャさんもいい人だと思います。
だから、リョウキさんが良ければ、試験を受けてみてもいいんじゃないですか」
「わかった」
小野寺さんに頭をさげる。
「試験を受けます、よろしくお願いします」
「そうかそうか、まぁ試験と言っても形式的なものだから安心しろ」
ガッハッハ、と小野寺さんが豪快に笑う。
その言葉がとんでもない大嘘だと知るのは、もうしばらく先のことになる。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
隷属の勇者 -俺、魔王城の料理人になりました-
高柳神羅
ファンタジー
「余は異世界の馳走とやらに興味がある。作ってみせよ」
相田真央は魔王討伐のために異世界である日本から召喚された勇者である。歴戦の戦士顔負けの戦闘技能と魔法技術を身に宿した彼は、仲間と共に魔王討伐の旅に出発した……が、返り討ちに遭い魔王城の奥深くに幽閉されてしまう。
彼を捕らえた魔王は、彼に隷属の首輪を填めて「異世界の馳走を作れ」と命令した。本心ではそんなことなどやりたくない真央だったが、首輪の魔力には逆らえず、渋々魔王城の料理人になることに──
勇者の明日はどっちだ?
これは、異世界から召喚された勇者が剣ではなくフライパンを片手に厨房という名の戦場を駆け回る戦いの物語である。
Ancient Unfair Online ~万能武器ブーメラン使いの冒険記~
草乃葉オウル
ファンタジー
『Ancient Unfair Online(エンシェント アンフェア オンライン)』。
それは「不平等」をウリにした最新VRMMORPG。
多くの独自スキルやアイテムにイベントなどなど、様々な不確定要素が織りなすある意味自由な世界。
そんな風変わりな世界に大好きなブーメランを最強武器とするために飛び込む、さらに風変わりな者がいた!
レベルを上げ、スキルを習得、装備を強化。
そして、お気に入りの武器と独自の戦闘スタイルで強大なボスをも撃破する。
そんなユニークなプレイヤーの気ままな冒険記。
※小説家になろう様にも投稿しています。
魔王の右腕、何本までなら許される?
おとのり
ファンタジー
カクヨムでフォロワー5000人を超える作品に若干の加筆修正を行ったものです。
表紙はAIによる自動生成イラストを使用していますので、雰囲気だけで内容とは特にシンクロしていません。
申し訳ないですが、Ver.4以降も更新する予定でしたが今後の更新はありません。続きを読みたい方はカクヨムを利用してください。
Ver.1 あらすじ
親友に誘われ始めたGreenhorn-online
ハルマはトッププレイヤーの証である魔王を目指す親友を生産職としてサポートしようと思っていた。
しかし、ストレスフリーにひとりを満喫しながら、マイペースに遊んでいただけなのに次から次に奇妙なNPCのお供が増えていく。
それどころか、本人のステータスは生産職向けに成長させているだけで少しも強くなっていないはずなのに、魔王として祭り上げられることになってしまう。
目立ちたくないハルマは仲間を前面に出しては戦いたくなかった。
生産職のDEX振りプレイヤーであるハルマは、いかにして戦うことになるのか!?
不落魔王と呼ばれるまでの、のんびりプレーが始まった。
―― ささやかなお願い ――
ゲーム内の細かい数字に関しては、雰囲気を楽しむ小道具のひとつとしてとらえてくださいますようお願いします。
現実的ではないという指摘を時々いただきますが、こちらの作品のカテゴリーは「ファンタジー」です。
行間にかんして読みにくいと指摘されることもありますが、大事な演出方法のひとつと考えていますのでご容赦ください。
公開済みのパートも、随時修正が入る可能性があります。
病弱な私はVRMMOの世界で生きていく。
べちてん
SF
生まれつき体の弱い少女、夏凪夕日は、ある日『サンライズファンタジー』というフルダイブ型VRMMOのゲームに出会う。現実ではできないことがたくさんできて、気が付くとこのゲームのとりこになってしまっていた。スキルを手に入れて敵と戦ってみたり、少し食事をしてみたり、大会に出てみたり。初めての友達もできて毎日が充実しています。朝起きてご飯を食べてゲームをして寝る。そんな生活を続けていたらいつの間にかゲーム最強のプレイヤーになっていた!!
アルケディア・オンライン ~のんびりしたいけど好奇心が勝ってしまうのです~
志位斗 茂家波
ファンタジー
新入社員として社会の波にもまれていた「青葉 春」。
社会人としての苦労を味わいつつ、のんびりと過ごしたいと思い、VRMMOなるものに手を出し、ゆったりとした生活をゲームの中に「ハル」としてのプレイヤーになって求めてみることにした。
‥‥‥でも、その想いとは裏腹に、日常生活では出てこないであろう才能が開花しまくり、何かと注目されるようになってきてしまう…‥‥のんびりはどこへいった!?
――
作者が初めて挑むVRMMOもの。初めての分野ゆえに稚拙な部分もあるかもしれないし、投稿頻度は遅めだけど、読者の皆様はのんびりと待てるようにしたいと思います。
コメントや誤字報告に指摘、アドバイスなどもしっかりと受け付けますのでお楽しみください。
小説家になろう様でも掲載しています。
一話あたり1500~6000字を目途に頑張ります。
《異世界ニート》はニセ王子でしかも世界最強ってどういうことですか!?
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
秋月勇気は毎日筋トレしかやることのないダメニート。そんなある日風呂に入っていたら突然異世界に召喚されてしまった。そこで勇気を待っていたのは国王と女宮廷魔術師。二人が言うにはこの国の家出していなくなってしまったバカ王子とうり二つの顔をしているという理由だけで勇気をその国の王子になりすませようということだった。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる