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第二章 宿屋の経営改善

女傑がいるようです

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「1日1組でも泊めて、口コミが広がっていけばもっともっとお客さんがきてくれるようになりますよ」

「私からも、付き合いのある商人たちに勧めておこう」

貴族らしく優雅に杯を傾けながら、少し酔った口調でファサドが言う。
そうだ、この人なら近隣の国の事情に詳しいかもしれない。
昼に聞いて少し引っかかっていたので、色々と教えてもらおう。

「ところで今日のお客さんが言ってたんですが、お隣のアルバレストは今荒れてるんですか?」

「そうだな…私も直接見たわけではないが、相当ピリピリしているようだ」

「王女様も行方不明だとか」

「ああ、混乱に紛れて侍女がなんとか連れ出したという話だ……とはいえ、その後の行方はさっぱりわからないらしい」

「案外、この国に逃げ込んでるかもしれませんね」

半分冗談で言うと、ファサドが意外にも真剣な顔で頷く。

「いや、実際その可能性はあるかもしれん。アルバレストの新王から、我が国に対して申し入れもあったと聞いている」

「王女を見つけたら引き渡せ……ってことですか?」

「ああ、大方そんなところだろう。まぁ、フォルトゥナ大公が怒って使者を追い返したって話だが」

フォルトゥナ大公……はじめて聞く名前だな。

「フォルトゥナ大公って有名な方なんですか?」

そう聞くと、ファサドが驚いたように俺を見る。
どうやら、この国では相当な有名人らしい。

「そうか、転生者だから知らないのも無理はないか。フォルトゥナ大公は我が国を支える軍神とも言われる方で、国王陛下の右腕だ」

「へぇ……そんなに強い方なんですね」

「うむ……今は王都防衛総司令にして、王国軍で唯一人元帥杖を授けられている。しかもたいへん美しいお方でな」

「ええっ、女性なんですか?」

「そうなのだ……が」

当然のように男だろうと思っていたので、驚きを禁じ得ない。
ましてや軍人として最高位たる「元帥」に叙されるとは、とんでもない女傑なのだろう。
世界で最も先進的な軍隊であろうアメリカ合衆国軍でさえ、これまでに女性の将官はごくわずかしか存在していないのだ。
陸軍資材集団の司令官を務めたアン・ダンウッディ陸軍大将。
宇宙飛行士にして、第14空軍司令官を務めるスーザン・ジェーン・ヘルムズ空軍中将。
そしてプログラム言語COBOLを開発したスーパープログラマー、グレース・ホッパー海軍准将などが有名なところだろう。
とはいってもダンウッディ陸軍大将は兵站、すなわち軍事装備や補給、人員輸送などの後方任務を司る司令官だし、ヘルムズ空軍中将とホッパー海軍准将は技術者としての側面も強い。
近年ではようやく日本の自衛隊などでも、生粋の戦闘職の女性将官がぽつぽつと誕生し始めて話題になっているが、まぁそれだけ珍しい事例ということなのだ。
軍隊とはやはり男の世界であり、女性といえば主として医療職や後方支援といった役割がメインというイメージがまだまだ強い。

「エル・アジル王国は、女性でも軍に入れるんですね」

「いや、それがもちろん入れなかったんだよ。しかしフォルトゥナ大公がそれはおかしいといって、兄である国王を説得してしまった」

フォルトゥナ大公は国王の妹なのか… となると、王女にして大公にして元帥なのか。
なんかすげぇチートキャラだな。
もはや主人公感あるぞ。

「でも妹さんの意見を聞き入れたのなら、お兄さんもずいぶん開明的ですね」

「それがそうでもないんだな。フォルトゥナ大公が剣で打ち負かして力で認めさせたという噂だよ」

「マジっすか…めっちゃつぇぇ…」

「しかもタチが悪い、といっては失礼だが、フォルトゥナ大公は剣の腕前を隠していたらしいんだな。誰もそんなに強いことを知らなかったらしい」

「すげーかっこいいですね」

「兄君としては面目丸潰れなので、王城内では箝口令が敷かれたそうなんだが、まぁ人の口に戸は立てられないってやつだね」

「で、自分も軍に入って元帥にまで上り詰めたんですか?」

「それも無理やりもぎ取ったらしいよ。当時の王国軍の総元締めの将軍に、元帥杖を賭けた勝負を挑んでね。これまたあっさり剣で打ち破ったらしい」
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