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第二章 宿屋の経営改善
間も無くリニューアルオープンです
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あっという間に食べ終わってしまい、ごちそうさま、と告げれば、エノキダさんがまたぽつりと言った。
「…腹減ったら、いつでも来い。余りもんで良かったら、食わせてやるからよ」
「…まじっすか。そんなこと言われたら毎食来ちゃいますよ?」
エノキダさんの口元に、今度こそ正真正銘の苦笑いが浮かんだ。
と思ったら、思わぬ逆襲を食らうことになった。
「…いい人、いるんだってな。そいつの飯、食わなくていいのか?」
「ブフッ…」
思わずむせる。
い、いい人って…もしかしてリーシャのこと、かな?
なんで知ってんだろう。
もしかしたらローグさんたちがいろいろ吹き込んだのかもしれない。
それにしても、「いい人」って古風な表現だな…俺も小説でぐらいしか聞いたことがない。
「いや、それはそのぅ…誤解です」
どう答えていいものかわからずとりあえずそれだけ答えると、意外にもエノキダさんが真剣な顔で続ける。
「当たり前の幸せってのは、失ってはじめて気づくもんだ。…と、余計なこと、しゃべりすぎたな。ま、忘れてくれ」
エノキダさんはそれだけ言うと、ひらひら手を振って厨房の奥へと引っ込んでしまった。
当たり前の幸せ、か…。
確かに、今の俺は恵まれているのだろう。
それが当然のことではなくて、奇跡的な偶然に支えられているものだということは、さすがの俺も自覚している。
だから、今できることは、俺を支えてくれている人たちや、この世界に少しでも恩を返すことだろう。
「ごちそうさまでした」
もう一度、姿は見えないがエノキダさんに礼を告げて食堂を後にする。
本当に久しぶりの「ご馳走」という感じだった。
とはいえ、まだまだこの先やることは山積みだ。
のんびりと食後のデザートなんかを楽しんでいる余裕はない。
そうこうするうちに、数日があっという間に過ぎていく。
時には寝る間も惜しんで準備に駆けずり回り、あっという間に時間が経ち、その日がやってくる。
光陰矢の如しとは本当によく言ったもんだよ。
でも、何かに向かって全力で頑張るのは楽しいもんだなぁと思う。
俺は、本当は銀行でもこういう仕事がしたかったんだ。
「いよいよ、今日からですね」
「うむ」
「とうとうだねぇ」
突貫ではあるもののなんとかリニューアル工事を終え、文字通り生まれ変わったミストラルの食堂に俺たちは集まっている。
少なくとも外見的には見違えるほど綺麗になったし、水回りと家具も刷新されたので、中もほとんど新築のようになっていた。
まさしくファサドさまさまである。
先立つものがあるって、ありがたい。
ここに集まっているのは、俺やローグさん夫妻だけではない。
食堂「あすか」を預かるエノキダさんはもちろんのこと、アレクじいさんとリーシャ、そしてファサドとアレアの親娘にリン、花売りのメルと関係者が勢ぞろいだった。
これだけの人が集い、支えてくれていると思うと、いよいよ頑張って結果を出さねばならないという気持ちになる。
と決意を新たにしたと思ったら、早速バチバチしている女子二人がいるんですが…。
「なーんでアンタまでいるのよ」
「…そのセリフ…そのまま返す…」
「うちはパパ…じゃない、お父様が投資しているのだから、投資家としてきたのよ!」
「パパのお金…あなたのお金じゃない…」
「キーッ!どっちでもいいでしょ!いつかアタシのお金になんのよ!」
リーシャとアレアが犬の喧嘩のようにフーフー言いながら早速ぶつかり始めていた。
…君たち、もうちょっと仲良くできないのか。
ファサドも知らん顔で口笛とか吹いているし。
このオッさん…娘に頭が上がらないのをごまかしてやがるな。
さて、この場をどう収めたものかと悩んでいると、それまで黙って見ていたメルが、しれっと割って入った。
「…腹減ったら、いつでも来い。余りもんで良かったら、食わせてやるからよ」
「…まじっすか。そんなこと言われたら毎食来ちゃいますよ?」
エノキダさんの口元に、今度こそ正真正銘の苦笑いが浮かんだ。
と思ったら、思わぬ逆襲を食らうことになった。
「…いい人、いるんだってな。そいつの飯、食わなくていいのか?」
「ブフッ…」
思わずむせる。
い、いい人って…もしかしてリーシャのこと、かな?
なんで知ってんだろう。
もしかしたらローグさんたちがいろいろ吹き込んだのかもしれない。
それにしても、「いい人」って古風な表現だな…俺も小説でぐらいしか聞いたことがない。
「いや、それはそのぅ…誤解です」
どう答えていいものかわからずとりあえずそれだけ答えると、意外にもエノキダさんが真剣な顔で続ける。
「当たり前の幸せってのは、失ってはじめて気づくもんだ。…と、余計なこと、しゃべりすぎたな。ま、忘れてくれ」
エノキダさんはそれだけ言うと、ひらひら手を振って厨房の奥へと引っ込んでしまった。
当たり前の幸せ、か…。
確かに、今の俺は恵まれているのだろう。
それが当然のことではなくて、奇跡的な偶然に支えられているものだということは、さすがの俺も自覚している。
だから、今できることは、俺を支えてくれている人たちや、この世界に少しでも恩を返すことだろう。
「ごちそうさまでした」
もう一度、姿は見えないがエノキダさんに礼を告げて食堂を後にする。
本当に久しぶりの「ご馳走」という感じだった。
とはいえ、まだまだこの先やることは山積みだ。
のんびりと食後のデザートなんかを楽しんでいる余裕はない。
そうこうするうちに、数日があっという間に過ぎていく。
時には寝る間も惜しんで準備に駆けずり回り、あっという間に時間が経ち、その日がやってくる。
光陰矢の如しとは本当によく言ったもんだよ。
でも、何かに向かって全力で頑張るのは楽しいもんだなぁと思う。
俺は、本当は銀行でもこういう仕事がしたかったんだ。
「いよいよ、今日からですね」
「うむ」
「とうとうだねぇ」
突貫ではあるもののなんとかリニューアル工事を終え、文字通り生まれ変わったミストラルの食堂に俺たちは集まっている。
少なくとも外見的には見違えるほど綺麗になったし、水回りと家具も刷新されたので、中もほとんど新築のようになっていた。
まさしくファサドさまさまである。
先立つものがあるって、ありがたい。
ここに集まっているのは、俺やローグさん夫妻だけではない。
食堂「あすか」を預かるエノキダさんはもちろんのこと、アレクじいさんとリーシャ、そしてファサドとアレアの親娘にリン、花売りのメルと関係者が勢ぞろいだった。
これだけの人が集い、支えてくれていると思うと、いよいよ頑張って結果を出さねばならないという気持ちになる。
と決意を新たにしたと思ったら、早速バチバチしている女子二人がいるんですが…。
「なーんでアンタまでいるのよ」
「…そのセリフ…そのまま返す…」
「うちはパパ…じゃない、お父様が投資しているのだから、投資家としてきたのよ!」
「パパのお金…あなたのお金じゃない…」
「キーッ!どっちでもいいでしょ!いつかアタシのお金になんのよ!」
リーシャとアレアが犬の喧嘩のようにフーフー言いながら早速ぶつかり始めていた。
…君たち、もうちょっと仲良くできないのか。
ファサドも知らん顔で口笛とか吹いているし。
このオッさん…娘に頭が上がらないのをごまかしてやがるな。
さて、この場をどう収めたものかと悩んでいると、それまで黙って見ていたメルが、しれっと割って入った。
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