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第二章 宿屋の経営改善
お父様を紹介されるようです
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「アレア、サコンだけど入るぞっ!」
たとえ風呂に入っていても聞こえるように大声を出すと、中から何かを取り落とすような大きな音がした。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってなさい!!」
…待つこと数分後。
きちんと衣服は身につけているものの、髪を濡らしたアレアが息を切らしながら扉を開けてくれた。
どう見ても風呂上りです。ありがとうございました。
「…ほんとに風呂に入ってんじゃん…あぶねぇ!」
「わたしが嘘をつくような人間に見えると?」
リンが心外だ、とでもいうように肩をすくめる。
こいつ、確信犯だ…。
「そういう問題かよ…クビになるんじゃなかったのか?」
「面白い光景が見れるなら、私のクビなんて安いものだ」
自分の雇用より面白さを優先するその姿勢、嫌いじゃないけど俺を巻き込まないでほしい…。
「ちょっと、二人で何わけのわかんない会話してんのよ!?」
「いえ、ではわたしはこれで消えますのでお二人でどうぞご・ゆ・っ・く・り」
わざとらしく「ごゆっくり」を強調していうやいなや、忍者のようにさささっと消えていくリン。
その素早い身のこなしに唖然とするが、気を取り直して本題に入ることにする。
「えー、あー、その、なんだ。実は今、宿屋のお手伝いをしてて、ちょっと相談に乗ってもらえないかと思ってね」
「あ、あら、武器屋はクビになったのかしら?」
「いや、そうじゃない」
「なんだ、つまんない」
なぜか残念そうにするアレア。
いや、人の不幸を喜ばんでほしい。
「とりあえずのところ、アレクさんのところは大丈夫そうなんで、次は『ミストラル』の改善を頼まれたんだよ」
「ミストラル…ああ、昔は結構流行ってたって話だけど、今はだいぶ…あれね」
ストレートな表現は避けたようだが、やはり街の人々から見てもミストラルはやばいんだな…。
そういう評判が一度ついてしまうと、イメージの悪化は避けられない。
旅人たちもある程度そういったイメージに影響を受けるから、ますますお客さんが減るという悪循環だ。
「そう、正直経営が危ない。だからなんとかテコ入れをしたいんだ」
「武器店で見せた辣腕再びってところかしら」
「そんな大したもんじゃないけど、でも俺にできる限りのことはしたい…で、だ」
「先立つものが必要ってところかしら?」
さすが商売人の娘だけあって、話が早い。
俺の訪問目的を早くも察してくれたようだった。
「そう、その通り。ちょっとしたキャンペーンを張りたいんだけど、宿屋だから少し手を入れるにしてもそれなりにお金がかかりそうなんだ」
「まぁ、設備が勝負の商売だものね…」
「率直に言って、お金を貸してくれるところを探してる」
「なるほど…お金についてはまだアタシもお父様から教わってないのよね」
「そうか…」
アレアならひょっとしたらと期待をかけていたので、失望が顔に出てしまったのだろう。
慌てたようにアレアが言葉を続ける。
「あー、まぁあんたさえよかったら、お父様に紹介してあげてもいいわよ。自分で直接いろいろ聞いたら?」
「え、お父さんを…?いいのかな」
それは正直すごく助かる。
けど…ちょっとおっかない気もする。
アレアのお父さんは貴族の称号も持っているということだし、これだけの豪商を束ねる人なのだ。
ひとかどの人物ということだろう。
「べ、べつに変な意味で紹介するんじゃないからね。あくまで困っているあんたを助けようと…」
「変な意味ってどんな意味…」
「うっさいわね、ちょっとここで待ってなさい」
たとえ風呂に入っていても聞こえるように大声を出すと、中から何かを取り落とすような大きな音がした。
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってなさい!!」
…待つこと数分後。
きちんと衣服は身につけているものの、髪を濡らしたアレアが息を切らしながら扉を開けてくれた。
どう見ても風呂上りです。ありがとうございました。
「…ほんとに風呂に入ってんじゃん…あぶねぇ!」
「わたしが嘘をつくような人間に見えると?」
リンが心外だ、とでもいうように肩をすくめる。
こいつ、確信犯だ…。
「そういう問題かよ…クビになるんじゃなかったのか?」
「面白い光景が見れるなら、私のクビなんて安いものだ」
自分の雇用より面白さを優先するその姿勢、嫌いじゃないけど俺を巻き込まないでほしい…。
「ちょっと、二人で何わけのわかんない会話してんのよ!?」
「いえ、ではわたしはこれで消えますのでお二人でどうぞご・ゆ・っ・く・り」
わざとらしく「ごゆっくり」を強調していうやいなや、忍者のようにさささっと消えていくリン。
その素早い身のこなしに唖然とするが、気を取り直して本題に入ることにする。
「えー、あー、その、なんだ。実は今、宿屋のお手伝いをしてて、ちょっと相談に乗ってもらえないかと思ってね」
「あ、あら、武器屋はクビになったのかしら?」
「いや、そうじゃない」
「なんだ、つまんない」
なぜか残念そうにするアレア。
いや、人の不幸を喜ばんでほしい。
「とりあえずのところ、アレクさんのところは大丈夫そうなんで、次は『ミストラル』の改善を頼まれたんだよ」
「ミストラル…ああ、昔は結構流行ってたって話だけど、今はだいぶ…あれね」
ストレートな表現は避けたようだが、やはり街の人々から見てもミストラルはやばいんだな…。
そういう評判が一度ついてしまうと、イメージの悪化は避けられない。
旅人たちもある程度そういったイメージに影響を受けるから、ますますお客さんが減るという悪循環だ。
「そう、正直経営が危ない。だからなんとかテコ入れをしたいんだ」
「武器店で見せた辣腕再びってところかしら」
「そんな大したもんじゃないけど、でも俺にできる限りのことはしたい…で、だ」
「先立つものが必要ってところかしら?」
さすが商売人の娘だけあって、話が早い。
俺の訪問目的を早くも察してくれたようだった。
「そう、その通り。ちょっとしたキャンペーンを張りたいんだけど、宿屋だから少し手を入れるにしてもそれなりにお金がかかりそうなんだ」
「まぁ、設備が勝負の商売だものね…」
「率直に言って、お金を貸してくれるところを探してる」
「なるほど…お金についてはまだアタシもお父様から教わってないのよね」
「そうか…」
アレアならひょっとしたらと期待をかけていたので、失望が顔に出てしまったのだろう。
慌てたようにアレアが言葉を続ける。
「あー、まぁあんたさえよかったら、お父様に紹介してあげてもいいわよ。自分で直接いろいろ聞いたら?」
「え、お父さんを…?いいのかな」
それは正直すごく助かる。
けど…ちょっとおっかない気もする。
アレアのお父さんは貴族の称号も持っているということだし、これだけの豪商を束ねる人なのだ。
ひとかどの人物ということだろう。
「べ、べつに変な意味で紹介するんじゃないからね。あくまで困っているあんたを助けようと…」
「変な意味ってどんな意味…」
「うっさいわね、ちょっとここで待ってなさい」
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