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第二章 宿屋の経営改善

夢を見ていたようです

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いつのまにか、夢を見ていた。
元の世界で、銀行員だった頃の夢だ。
会社の方針で「投資信託」という商品をガンガン売ろう、ということに決まった頃の記憶だった。
夢の中の俺は、どれだけ頑張っても投資信託の販売ノルマを達成できず、上司に詰められていた。

投資信託とは株式や債券を組み合わせた金融商品で、自分で売買するのが面倒な人向けに、プロがまとめて売買を請け負いますよ、という仕組みだ。
プロに任せれば必ず儲かる…なんてことはなく、投資信託の価格は市場実勢によっては恐ろしいほど値下がりすることもある。
1万円で購入した投資信託が、半年後には2,500円にまで下落していた…なんてことも実際にあったりする。

もちろん俺たち銀行員は「絶対に値上がりしますよ」なんてことは言えない。
金融庁という監督官庁から厳しい規制を受けているし、金融商品取引法だの金融商品販売法だのといった法律にも縛られている。
とはいえ、いくらでも抜け道はあるものだ。
「『個人的には』いいんじゃないかと思いますよ、『絶対に』とは言えませんが」などといったギリギリの表現で勧誘すればいいのだ。
金融商品の購入時には必ず同意書を書いてもらうが、大体のお客さんはよくわからないまま「銀行員が薦めるなら大丈夫だ」と思ってサインしてしまう。
なんのことはない。
怪しい壺売りとやっていることはそんなに変わりはないのである。

もちろん値下がりしたら怒りの電話が掛かってくることもある。
そりゃ、自分の資産が一晩で2割も3割も減っていたら腹も立つだろう。
しかし銀行がその損失を補填することはもちろん無い。
預金と違って、投資信託などの金融商品は基本的に自己責任の一言で処理されてしまう。
薦められたとはいえ、最終的に買うことを決めたのはあなたでしょ、というわけだ。
従って損失が出たら、まるまる自分が引き受けることになる。

何より旨味があるのは、投資信託は販売手数料を取れることだ。
商品によって違うが、販売者である銀行は、概ね2~3%の手数料をもらう。
例えば100万円の投資信託を買うお客さんだったら、手数料率が3%であれば、3万円まるまるノーリスクで頂戴できるわけだ。
後でお客さんの投資信託が値下がりしても、銀行が3万円を返すことはないし、お客さんの損失を補填する義務も無い。
銀行にとってこれほど美味い商売はあるまい。
金融業界では、こうした手数料を「フィー」と呼び、フィーを取れる商品を「フィービジネス」と言うところもある。

銀行の本業であるお金の貸し出しは、いまやほとんどニーズがなく、かつてのように儲けることは難しい。
世の中が進歩し、銀行からお金を借りなくても、お金を集める手法が増えたということもあるし、そもそも大規模な設備投資が必要な産業が衰退したということもある。
そこで、フィービジネスで着実に稼ぎ出す、という手法にシフトしつつあるのだ。

100万円を定期預金に入れてもらうよりも、投資信託を買ってもらって3万円抜いた方が銀行としては旨味が大きい。
そりゃ、投資信託をがんばって売ろうとするわけである。
俺はどうしてもそこが納得いかなくて、例えば老後の資産なんかを預けに来る人には薦められなかった。
虎の子のお金を、そんなリスクの高い商品にぶち込ませるなんて、良心の呵責に耐えられなかったからだ。
しかし、毎日投資信託の営業成績が店内でメール回覧され、下位に居るままだと支店長から恫喝されることもあった。

「お前は売る気が無いのか」

「金融資産に余裕がある方にはお勧めしていますが…僕の担当にはあまりそういう方はいないので…」

「ゴタゴタ言わずに、とにかく投信を薦めとけばいいんだよ。いいか、営業は成績が全てだ。成績が悪い奴に人権なんかないぞ」

いま思うと無茶苦茶なパワハラだが、こうして夢にまで見るほど嫌な記憶として染み付いているらしい。
なんとか言い訳を考えて説教を終わらせよう…と焦ったところでふと目が覚めた。
嫌な汗をかいたな、などとぼんやりした頭で考えていると、目の前にリーシャの寝顔があった。

「おわぁぁぁっ!?」

慌ててベッドから転げ落ち、したたかに腰を打ち付けてしまった。
なんだ!?どうしてリーシャが寝てるんだ…
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