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最終章 ちょっと変わった二人きりの冒険者パーティー
ちょっと変わった二人きりの冒険者パーティー
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焚き火がパチパチと火花を散らしている。
アリアは白湯を片手に、揺れる炎を見つめていた。
ソルピアニ王国を出たふたりは、ルブスト連合国に来ていた。
以前、行こうとして行けなかった国。
アークが少しだけ滞在していたという国。
なんだか少し縁があるような気がして、この国を選んだ。
どうして今、焚き火を見つめているのかというと依頼の真っ最中だからだ。
国民の日常的なお困りごとには冒険者。
そんな文化は王国も連合国も変わらないらしい。
最近、森に住み着いたという狂暴なモンスターを退治すべく、野営で泊まり込み。
なんだか『冒険者』って感じがして、アリアはちょっと楽しんでいる。
隣ではラキスがいつものように葉巻をくわえて紫煙をくゆらせていた。
アリアはラキスの口元を見ながら話し掛ける。
「ねえ、前から聞こうと思ってたんだけど」
「なんだ?」
「それ、美味しいの?」
「不味いと思っていたら、わざわざ買わん」
そうだろうけど。
期待していた答えはそれじゃない。
もっとハッキリ言ってやろう。
「ラキス、お願いがあるんだけど」
「なんだ?」
「ボクも吸ってみたい」
ラキスが葉巻を吸う姿はちょっと格好イイ。
なんだか大人って感じがする。
だからアリアはずっと興味があった。
もし美味しかったら、ラキスと並んで葉巻を吸うのも悪くない。
悪くないどころか、イイ。すごくイイ。
大人の男女、といった絵面を想像してアリアはニヤける。
だけど残念なことに、ラキスの返事はとても素っ気ないものだった。
「子どもにはまだ早い」
「あっ! またボクのこと子ども扱いした! これでも、もうすぐ十七になるんだぞ」
アリアはいつものようにあしらわれ、いつものように食って掛かる。
しかしすぐに致命的な一撃を喰らってしまった。
「葉巻を吸うと成長が止まるぞ」
「んなっ!? ……ほ、本当に?」
「ああ」
「背も伸びなくなる?」
「そうだ」
「胸も?」
「そうだな」
「…………やめとく」
アリアは齢十六、秋で十七になる。
成人した身ではあるが、まだまだ自身の身体的成長に望みは捨てていない。
特に胸は!
まだまだ成長を止めてもらっては困る。
葉巻には憧れるけど、胸の成長と引き換えにすることは断じて出来ない。
なんなら、ラキスと出会った頃と比べれば結構大きくなっている(アリア調べ)。
ちゃんと成長している。
女子三ヶ月会わざれば刮目して見よ、だ。
毎日会ってるラキスは、気づいてくれているだろうか。
「ねぇ、ラキス」
「なんだ?」
「まだ後払いには足りない?」
「……まだだな」
いま少し間があった。
そのとき、アリアはふとある疑問に思い当たった。
「……えい」
ラキスの空いた方の手。
アリアは彼の左手を掴むと、そのまま自身の胸へと押し当てた。
むにゅ。
小ぶりだが少し張りのある胸が、掌に押されて歪に形を変える。
「「…………」」
沈黙がふたりを包んだ。
どれくらいの時間そうしていただろう、なんて考える間もないくらい一瞬だった。
先に動いたのはもちろんラキスの方だ。
大慌てで左手を引き戻し、万歳するように掌を挙げている。
「なっ……、いきなり、なにをっ!!」
声が裏返っている。
焚き火の明るさではハッキリ見えないけど……顔、赤くない?
「いや、ほら。後払いがまだダメなら、利息くらいは払っておこうと」
アリアも恥ずかしくないわけではない。
男の人に胸を触らせるなんて初めてのことだ。
だけど、狼狽しているラキスを見ていたら逆に冷静になれた。
「手付金も、利息も、いいっ、いらないっ」
「でも、『カラダで払う』って言ったのはボクだしぃ」
アリアは確信した。
ラキスは女性に慣れていない。
いつも子ども扱いしてくるラキスに、圧倒的優位を取れている状況。
アリアはいま『恥ずかしい』よりも『楽しい』が圧倒的に勝っていた。
「おまえ、顔がニヤケてるぞっ」
「えー? そんなことないよぉ。えへへへ」
「もう隠す気もないじゃないか!」
よくよく考えると、彼がアリア以外の女性と話しているところを見た覚えがない。
もしかしたら、プレシア姉さんとも一度も会話してないんじゃないだろうか。
逆に言えば、アリアとだけは話している。
アリアは彼が話す唯一の女性ということ。
(それは、それで。すごくイイ)
今夜、アリアの笑顔はとどまるところを知らない。
§ § § § §
それは仕方のないことだった。
ラキスは女性を知る前に、戦場にとらわれ、憎悪にしばられ、青春を失っていた。
戦場から戻った先は男所帯の宮廷。
女性との出会いなど無いまま、気がつけばさらに五年が過ぎていた。
アリアと話せたのは……失礼なことだが亡くなった弟と重ねていたから。
出会った頃の彼女は、身体つきは貧相なうえに一人称がボク。
本人は第二王女だと言っていたが、正直、全くそうは見えなかった。
だから『弟が生きていたらこんな感じだろうか』なんて考えながら話していた。
本人には口が裂けても言えないが。
しかし最近のアリアは、身体つきが少しずつ女性らしくなってきている。
だんだん、弟とは重ならなくなってきていた。
いや、重ねることが出来なくなってきていた。
ちょっと前に不意打ちで受けたキス。
あれも良くなかった。
あのとき、一気に彼女を女性だと意識してしまった。
そんなアリアがいま、いたずらっ子のような笑顔でこちらを見ている。
ラキスの弱点を掴んで調子に乗っている。
そしてそれすらも、ちょっとカワイイとラキスは思ってしまっている。
しかし、これ以上は男の沽券にかかわる。
ラキスは葉巻を吸い、ふぅーっと煙を前方にはいた。
「けほっ、けほけほ。ちょっ、ラキス! これはズルいっ」
アリアが顔をしかめ、両手をパタパタさせて煙を散らした。
「調子に乗るな」
「えー、いいじゃん。たまには」
「ダメだ。……サモン」
ラキスはゴブリンを召喚する。
ゴブリンの弓兵とドラゴブリン。
コスパが良くて、戦闘能力の高いお気に入りのゴブリン達だ。
「ご、ゴブリン出すほど!?」
「動くなよ」
「ぼ、暴力は良くないと思う」
「じっとしていろ」
「ブモオオオオオオオォォォォォ!」
「ぎゃああああああああ!」
アリアの後方で豚と牛が混ざったような鳴き声がした。
その鳴き声に驚いてアリアが悲鳴をあげている。
刹那、ドラゴブリンが剣を構えて飛び掛かり、弓兵が素早く三本の矢を放った。
ズズウゥゥン、と音を立ててモンスターの身体が地面に倒れた。
「え? なに? なんなの!?」
「ターゲット……だといいが」
アリアのすぐ後ろ。
豚と牛が混ざったような鳴き声をあげていたモンスターが倒れている。
その姿も豚と牛が混ざったような見た目をしていた。
身体は豚、大きさは牛。
顔は……牛ベースだが、鼻は豚だ。
「ブモオオオオオオオォォォォォ!」
「ブモオオオオォォォォ!」
「ブモオオオオオオオオオオォォォ!」
遠くで同じような鳴き声がいくつか聞こえた。
さっきのは仲間を呼ぶ声だったのかもしれない。
「まだ、いるみたいだね……サモン」
アリアもドライアドを召喚した。
コスパが悪い炎馬は、緊急事態でもない限り開店休業。
「さあ、仕事するぞ。サモン」
夜の森を移動するなら、斥候は外せない。
ラキスは葉巻を消して立ち上がり、ゴブリンを召喚した。
「はぁい」
アリアも荷物を持って歩き出す。
元宮廷召喚士と元王女の、ちょっと変わった二人きりの冒険者パーティー。
ラキスはこのパーティーをちょっとだけ気に入っている。
【了】
【※重要なおしらせ】
こちらで本作品は完結となります。
ここまでなんと約14万字!!
最後までお読み頂いた皆様には感謝しかありません。
もし「面白かった」「ちゃんと完結させてエラい!」「続編に期待しているゾ」と思ったら、感想を頂けると喜びます!!
それと……本作は「第15回ファンタジー小説大賞」に参加しています。タイトルの近くに投票バナーがありますので、皆様の清き一票をお待ちしております。
アリアは白湯を片手に、揺れる炎を見つめていた。
ソルピアニ王国を出たふたりは、ルブスト連合国に来ていた。
以前、行こうとして行けなかった国。
アークが少しだけ滞在していたという国。
なんだか少し縁があるような気がして、この国を選んだ。
どうして今、焚き火を見つめているのかというと依頼の真っ最中だからだ。
国民の日常的なお困りごとには冒険者。
そんな文化は王国も連合国も変わらないらしい。
最近、森に住み着いたという狂暴なモンスターを退治すべく、野営で泊まり込み。
なんだか『冒険者』って感じがして、アリアはちょっと楽しんでいる。
隣ではラキスがいつものように葉巻をくわえて紫煙をくゆらせていた。
アリアはラキスの口元を見ながら話し掛ける。
「ねえ、前から聞こうと思ってたんだけど」
「なんだ?」
「それ、美味しいの?」
「不味いと思っていたら、わざわざ買わん」
そうだろうけど。
期待していた答えはそれじゃない。
もっとハッキリ言ってやろう。
「ラキス、お願いがあるんだけど」
「なんだ?」
「ボクも吸ってみたい」
ラキスが葉巻を吸う姿はちょっと格好イイ。
なんだか大人って感じがする。
だからアリアはずっと興味があった。
もし美味しかったら、ラキスと並んで葉巻を吸うのも悪くない。
悪くないどころか、イイ。すごくイイ。
大人の男女、といった絵面を想像してアリアはニヤける。
だけど残念なことに、ラキスの返事はとても素っ気ないものだった。
「子どもにはまだ早い」
「あっ! またボクのこと子ども扱いした! これでも、もうすぐ十七になるんだぞ」
アリアはいつものようにあしらわれ、いつものように食って掛かる。
しかしすぐに致命的な一撃を喰らってしまった。
「葉巻を吸うと成長が止まるぞ」
「んなっ!? ……ほ、本当に?」
「ああ」
「背も伸びなくなる?」
「そうだ」
「胸も?」
「そうだな」
「…………やめとく」
アリアは齢十六、秋で十七になる。
成人した身ではあるが、まだまだ自身の身体的成長に望みは捨てていない。
特に胸は!
まだまだ成長を止めてもらっては困る。
葉巻には憧れるけど、胸の成長と引き換えにすることは断じて出来ない。
なんなら、ラキスと出会った頃と比べれば結構大きくなっている(アリア調べ)。
ちゃんと成長している。
女子三ヶ月会わざれば刮目して見よ、だ。
毎日会ってるラキスは、気づいてくれているだろうか。
「ねぇ、ラキス」
「なんだ?」
「まだ後払いには足りない?」
「……まだだな」
いま少し間があった。
そのとき、アリアはふとある疑問に思い当たった。
「……えい」
ラキスの空いた方の手。
アリアは彼の左手を掴むと、そのまま自身の胸へと押し当てた。
むにゅ。
小ぶりだが少し張りのある胸が、掌に押されて歪に形を変える。
「「…………」」
沈黙がふたりを包んだ。
どれくらいの時間そうしていただろう、なんて考える間もないくらい一瞬だった。
先に動いたのはもちろんラキスの方だ。
大慌てで左手を引き戻し、万歳するように掌を挙げている。
「なっ……、いきなり、なにをっ!!」
声が裏返っている。
焚き火の明るさではハッキリ見えないけど……顔、赤くない?
「いや、ほら。後払いがまだダメなら、利息くらいは払っておこうと」
アリアも恥ずかしくないわけではない。
男の人に胸を触らせるなんて初めてのことだ。
だけど、狼狽しているラキスを見ていたら逆に冷静になれた。
「手付金も、利息も、いいっ、いらないっ」
「でも、『カラダで払う』って言ったのはボクだしぃ」
アリアは確信した。
ラキスは女性に慣れていない。
いつも子ども扱いしてくるラキスに、圧倒的優位を取れている状況。
アリアはいま『恥ずかしい』よりも『楽しい』が圧倒的に勝っていた。
「おまえ、顔がニヤケてるぞっ」
「えー? そんなことないよぉ。えへへへ」
「もう隠す気もないじゃないか!」
よくよく考えると、彼がアリア以外の女性と話しているところを見た覚えがない。
もしかしたら、プレシア姉さんとも一度も会話してないんじゃないだろうか。
逆に言えば、アリアとだけは話している。
アリアは彼が話す唯一の女性ということ。
(それは、それで。すごくイイ)
今夜、アリアの笑顔はとどまるところを知らない。
§ § § § §
それは仕方のないことだった。
ラキスは女性を知る前に、戦場にとらわれ、憎悪にしばられ、青春を失っていた。
戦場から戻った先は男所帯の宮廷。
女性との出会いなど無いまま、気がつけばさらに五年が過ぎていた。
アリアと話せたのは……失礼なことだが亡くなった弟と重ねていたから。
出会った頃の彼女は、身体つきは貧相なうえに一人称がボク。
本人は第二王女だと言っていたが、正直、全くそうは見えなかった。
だから『弟が生きていたらこんな感じだろうか』なんて考えながら話していた。
本人には口が裂けても言えないが。
しかし最近のアリアは、身体つきが少しずつ女性らしくなってきている。
だんだん、弟とは重ならなくなってきていた。
いや、重ねることが出来なくなってきていた。
ちょっと前に不意打ちで受けたキス。
あれも良くなかった。
あのとき、一気に彼女を女性だと意識してしまった。
そんなアリアがいま、いたずらっ子のような笑顔でこちらを見ている。
ラキスの弱点を掴んで調子に乗っている。
そしてそれすらも、ちょっとカワイイとラキスは思ってしまっている。
しかし、これ以上は男の沽券にかかわる。
ラキスは葉巻を吸い、ふぅーっと煙を前方にはいた。
「けほっ、けほけほ。ちょっ、ラキス! これはズルいっ」
アリアが顔をしかめ、両手をパタパタさせて煙を散らした。
「調子に乗るな」
「えー、いいじゃん。たまには」
「ダメだ。……サモン」
ラキスはゴブリンを召喚する。
ゴブリンの弓兵とドラゴブリン。
コスパが良くて、戦闘能力の高いお気に入りのゴブリン達だ。
「ご、ゴブリン出すほど!?」
「動くなよ」
「ぼ、暴力は良くないと思う」
「じっとしていろ」
「ブモオオオオオオオォォォォォ!」
「ぎゃああああああああ!」
アリアの後方で豚と牛が混ざったような鳴き声がした。
その鳴き声に驚いてアリアが悲鳴をあげている。
刹那、ドラゴブリンが剣を構えて飛び掛かり、弓兵が素早く三本の矢を放った。
ズズウゥゥン、と音を立ててモンスターの身体が地面に倒れた。
「え? なに? なんなの!?」
「ターゲット……だといいが」
アリアのすぐ後ろ。
豚と牛が混ざったような鳴き声をあげていたモンスターが倒れている。
その姿も豚と牛が混ざったような見た目をしていた。
身体は豚、大きさは牛。
顔は……牛ベースだが、鼻は豚だ。
「ブモオオオオオオオォォォォォ!」
「ブモオオオオォォォォ!」
「ブモオオオオオオオオオオォォォ!」
遠くで同じような鳴き声がいくつか聞こえた。
さっきのは仲間を呼ぶ声だったのかもしれない。
「まだ、いるみたいだね……サモン」
アリアもドライアドを召喚した。
コスパが悪い炎馬は、緊急事態でもない限り開店休業。
「さあ、仕事するぞ。サモン」
夜の森を移動するなら、斥候は外せない。
ラキスは葉巻を消して立ち上がり、ゴブリンを召喚した。
「はぁい」
アリアも荷物を持って歩き出す。
元宮廷召喚士と元王女の、ちょっと変わった二人きりの冒険者パーティー。
ラキスはこのパーティーをちょっとだけ気に入っている。
【了】
【※重要なおしらせ】
こちらで本作品は完結となります。
ここまでなんと約14万字!!
最後までお読み頂いた皆様には感謝しかありません。
もし「面白かった」「ちゃんと完結させてエラい!」「続編に期待しているゾ」と思ったら、感想を頂けると喜びます!!
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