上 下
11 / 11

番外2 挨拶

しおりを挟む


    ◇

 慣れるまで待つよと言われた通り、彼は待ってくれている。


 彼ならちょろい私なんて幾らでもどうにでも、丸め込めるだろうにね。

 ――待つか……。

 魔法でも洗脳でもなんでも軽くしてしまえる能力もあるだろうに、されている感はない。勿論そうされたい訳じゃないけれど。

 私自身にそこまで自分が彼に好かれるような価値があるような気はしない。なのに、彼は全力だ。本当、この私でいいのかと思うのだけれど。

 私でいいのですか? と聞いても私がいいと答えてくれる――それこそ状態異常じゃあ? と思うくらい。
 

 私の目からしてみれば、ラフィラエル自体が老若男女誰でも望まれそうなのにな。それが何故私。エルテンシアになったから、エルテンシアの中の人になった感がするから、姿ではそこそこ釣り合うかな?


 ――まだ夢の続きみたいな気さえする。
 ラフィラエルがそばにいることも。存在自体が夢みたいな人だしな。そんな人に執着されているなんて……。




 少しずつ少しずつねとゆっくり彼がいる空間に、私が慣れるようにしてくれている。

 とても大事にされているみたいでやはり嬉しい気がして――夢みたいだと思う。

 たまに強めに抱きしめられたり、僕から離れないって言ってとか、望まれるけれどね。
 それもなんだか内心嬉しい気がしてきている。恥ずかしいけれど。


 しかし、離れないでか――彼から離れるとか無理じゃないかな。
 物理的に。彼から私が逃げることが出来る気はしないよ。そもそも屋敷の敷地外に出るとかすら無理だし。

 好奇心でこっそり外に出ることが出来るか試してみようとしたけれど、普通に出来そうになかったし。
 そっとと思っても、気付くとラフィラエルがふっと現れて――。

 ストーキングレベル高いな。高いよね。転移魔法もおてのものだし。マーキングされているよね。されているか。無理ゲーでした。ですよねって。

 ゆっくりであれ、なんであれ私を離す気なさげ。ゲーム設定でも執着強かったしな。
 何故あの世界のゲームにラフィラエルがいたの? とかそういう系の話が気になって聞こうとしても、さらっと話が変えられたりするけれど。

 謎の多いお人だ。

 転生ってことは、あの世界の私はもういないのだろうな。記憶はないのだけれど。どれだけ生きたとかもわからない。既に元と思っている名前さえ記憶にない。

 とか、考える隙間もほとんどなく、ラフィラエルがそばにいたり、何かしてくれたりで。


 怠惰に飼い慣らされるというか、堕落するというか、甘やかされ過ぎて、いない生活出来るのかなというのか。
 構われることに慣れてきてしまって、いない少しの間がなんだか変な気すらして、まずいかもと思う。依存しつつある自覚もある。思う壺なのかな。

 

 



      ◇

 次のステップねと、おはようとおやすみの挨拶だよと朝と夜、頬にくちづけられるようになった。

 そっと抱き寄せられるあたたかな腕の感触。さらさらと黒い髪がかかってくすぐったい。
 ついみじろぐと、俯き加減に私を真っ直ぐに見つめてくる紫の双眸。
 思わず身をすくめて、目を閉じてしまう。

「おはよう。エルテンシア」
 
 間近に声が聞こえて、小さく柔らかな感触が頬に。触れる吐息。心臓が早鐘を打つようだ。

 ついそのまま強く目を閉じて固まっていると、
「目をぎゅっと閉じて僕のくちづけを待っているエルテンシアは可愛いけれど、可愛すぎて悪戯してしまうよ」
 そう言って、もう片方の頬にも、額にも、瞼にもくちづけが落とされた。

 恥ずかしいなんてものじゃない。顔から火を吹きそうだ。声が出ない。

「はい、エルテンシア、そろそろ目を開いて。もっとしたくなるから。して欲しいならそのままでもいいけれども」
 それは困ると目を開くと、近すぎる距離にラフィラエルの顔がある。

 思わず目を逸らすと、彼は私の両手に両手を絡めた。

 これ、恋人つなぎとか言われるやつじゃないかな? 


 手にはラフィラエルの手の指の感触。近すぎる距離に顔が体があって――


「じゃあ次はエルテンシア」
 そして挨拶ということは、私もする話になっている訳で逃げられない。


 多分、絵になると思うよ。スチルレベル高いよ。綺麗だろうと思う。

 でもね、中身私だもの。

 白皙の美貌。頬を差し出されて、次は君の番だよ、はいどうぞとお膳立てされても、簡単に出来る訳がない。されるのだって恥ずかしいのにするなんてもっとだ。

 でも、挨拶。
 そうだ、そういうの普通にする国の人になりきれ私。文化の違いだ文化の。挨拶らしいから、挨拶なのだよね?

 頬にチュッてするだけ、するだけするだけ……だけか? 
 想像しているだけで、何かが削られていくわ。ガリガリ削られる私の中の何か。




 そうでなくとも先程の挨拶の衝撃にまだ鼓動がかなり早い。私ばかりドキドキしているのかなと思いながら、まじまじとラフィラエルを見る。


 しかし、滑らかな肌だな。鼻高い。睫毛長い。眼の形も綺麗。なんだろう、この造形美。美麗すぎる。

 今はせめて目を閉じてとお願いして、目は閉じてもらっている。見られながらは無理かなって。

 だから視線がない分つい凝視してしまった。綺麗だよね。綺麗なもの好きだからね。
 

 ――頬に指をあてて代わりとか、ばれてしまうかな? ばれるよね。

 私は自分の唇を触った。荒れていないな? 荒れようないか、何かあればラフィラエルが治癒でもなんでもかけてくれているものね。

 ――私の唇でこの綺麗な頬にか。

「エルテンシア?」
 催促だよね。待っているよね? 
 私は深呼吸をした。ラフィラエルが望んでいるし、やれば出来る。出来るよ、出来る。

 照準をあわせて、目を閉じて――

 えいって軽く顔をぶつけてみた。唇に肌の感触。
 よし、出来たよね? 
 
「おはようございます」
 目を開くと、ラフィラエルは笑っていた。

 何か間違えた? 首を傾げて見上げると、
「おはよう、エルテンシア。そんな感じだと僕が頬じゃなくて唇を君の方へ向けていても気がつかないでしてしまいそうだね」
 くすくす笑って抱きしめてくるけれど、今のは頬なのよね? 

 ――もしかして、唇奪っちゃった?

 いや、まぁ婚約もしているし、いいのじゃないかと思うし、思うけど――。
 顔から火を吹きそうだ。手はとられたままだから真っ赤だろう顔を隠せない。そんな私に優しく微笑みかけてくる。


「大丈夫だよ。君の唇へのくちづけは、今世の誓いのくちづけまでおあずけって決めているからね。君が望むなら吝かではないけれど」

 そう言って、赤面する私の鼻先に鼻先を擦り寄せた。


            end




















        後書き


 お気に入り、しおりありがとうございます。しおり動かして下さっていた方もありがとうございます。最後まで読んでくれている? 大丈夫な方が存在する? ありがとうございますという感じです。


 誰かはいるよね? ポイント全員ブラウザーバックじゃないよね? といつも通りドキドキしながら様子を見ていました。更新のたびに、嫌になった? なったかな? キャラこうしたけれど嫌じゃない? とかドキドキしてました。

 向いてない。自分向いてないよと思いながらでしたが、それでも綿密さ美味しいの? 勢いで行くよ、気分でGOです。

 ざっくばらんな設定当初は、誰かの創作物本の婚約破棄現場でしたが、ひどいなこれで自作のということにしました。おかげでよりご都合万歳でいいかってなりました。

 ご都合ということにしようではなく、がっつりご都合で。キャラが微妙でも素人自作宣言、よしこれだでいきました。
 本人の主観ですので、それがいい悪いもないです。彼女はそうだなので。


 そしてふと確か、ゲームの攻略キャラと混ぜちゃえも気分ででした。
 作られたゲームは整合性あるよね。うちはかなりご都合万歳にしているけれど。
 まぁゲームの攻略対象というキャラだけならいいか。はいご都合キャラいらっしゃいでご都合です。

 ヒーロー、ヒロインと書いていたせいで、彼らの名前なんだっけ感半端なかったです。わかりやすいからいいかと思いましたが。名前出たの一回きり、家名すら出してなかったけれど、まぁいいか。


 魅了で状態異常。真実の愛とは? 何故かこうなりました。


 今回は病ませないぞ、暗く病ませないようにしようが裏のコンセプトでした。

 でも立派なストーカーで依存させて自分から離れないようにしたい系キャラ。病み、病みかな? 

 何だろうね? うちの魔法使い系のキャラ、基本何でもありになりがちです。



 一応番外甘めなつもりです。恋愛カテ恋愛カテと呟きながらです。

 お気に入り、しおりいただいた方ありがとうございますの番外、お気に召さなかったらごめんなさい。
 恋愛カテなのに、大丈夫かなで、これでも頑張ってみてました。目指せ溺愛とか思いながら。でも大型犬とか言い始めてしまった。おかしいな


 そしてやはり気になるなで番外改稿しました。通知いくかもなら、追加で番外があればいいかで番外追加とそうなりました。改稿してもしても結局少しして読み直すとああってなるのですけどね。

 ですが、今回クッキーどこにいった? があまりに残念かなで。

 まだ書きたいかもという気持ちもあったからもですが。なんでもありな魔法使いが便利すぎて。ちゃんと待てが出来るベタ懐きの大型犬イメージにうっかりなりましたけれどね。

 この子のどの辺りが好きなの? ラフィ? と今思いながらでもありますが。そう思っていたら、語りの子が不安になってきてしまってあまり書くと暗がりが広がるかもで散らしてました。

 ラフィラエル、充分ふたりきり、他の誰も見せない……洗脳じゃないかなとか、言えないようなことははぐらかしているだろうねとか思いながら。主観はエルテンシアだからね。わからないよね。


 当社比増えましたが減っていくお気に入りやしおりを見つつ、期待外れならごめんなさいと思っています。
 

 過去作見てくださっている方もおられるのかポイント動いたり、お気に入りいれていただいたものもあり、ありがたく思います。
 やはり恋愛強いか。
 覗いてみたけど見るんじゃなかった方はごめんなさい。暗いのは暗めです。

 ヒロインのにしろ、今回のにしろ、ワンパターンすぎますね。バリエーションだけ変えているかんじですし。義弟、義兄、魔法使い監禁エンドか。

大まかに、夢か→転移→監禁。
もてない女性主観。まぁそんなでも楽しんでくださる方がいらっしゃるのかな? ですが、つたないものですが、楽しんでいただける方がいらっしゃいましたら幸いです。
しおりを挟む
script?guid=on

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

【1/23取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

君は番じゃ無かったと言われた王宮からの帰り道、本物の番に拾われました

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ココはフラワーテイル王国と言います。確率は少ないけど、番に出会うと匂いで分かると言います。かく言う、私の両親は番だったみたいで、未だに甘い匂いがするって言って、ラブラブです。私もそんな両親みたいになりたいっ!と思っていたのに、私に番宣言した人からは、甘い匂いがしません。しかも、番じゃなかったなんて言い出しました。番婚約破棄?そんなの聞いた事無いわっ!! 打ちひしがれたライムは王宮からの帰り道、本物の番に出会えちゃいます。

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【1/21取り下げ予定】悲しみは続いても、また明日会えるから

gacchi
恋愛
愛人が身ごもったからと伯爵家を追い出されたお母様と私マリエル。お母様が幼馴染の辺境伯と再婚することになり、同じ年の弟ギルバードができた。それなりに仲良く暮らしていたけれど、倒れたお母様のために薬草を取りに行き、魔狼に襲われて死んでしまった。目を開けたら、なぜか五歳の侯爵令嬢リディアーヌになっていた。あの時、ギルバードは無事だったのだろうか。心配しながら連絡することもできず、時は流れ十五歳になったリディアーヌは学園に入学することに。そこには変わってしまったギルバードがいた。電子書籍化のため1/21取り下げ予定です。

処理中です...