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7. ストーカー宣言かな

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    ◇
 ――転移だ。


 そういえば彼といれば、移動楽だったな。指をぱちりと鳴らせば、目的地に到着するとか滅茶苦茶便利だった。ぜひ現実にいて欲しいと思うくらいに。一瞬で着いてしまうからね。

 ゲームの中、惜しげもなく彼は私のために魔法を使ってくれていた。君が望むならとかなえてくれた。こんなの堕落するわと思うくらいに。

 幻の美貌の魔法使いラフィラエル――ただ、他の攻略対象者や男性には関わらせてくれなかったけれど。





「お待たせしたね。はい、到着。そして、消毒。僕以外の男の目に晒されていたからね」
 ふわっと何か爽やかな風のような感触がした。 そういえば、ゲームの中でも消毒とか、よくそういうのされていたかも。見たら減るとか言っていた時もあったっけな? 見ただけで減ったらびっくりだ。
 そんなことを思いながら色々から気をそらそうとする。
 そらしきれないけれどね。夢よ、何故こんなにリアルっぽいんだ? と愚痴りながら。


 そして彼は掴んでいた手を離して、腕を広げて少し屈んで私に笑いかけてくる。
 私ひとりに美貌を惜しみなく垂れ流す魔法使い。


 一方の私は先程までの近すぎるくらい近距離の接触の影響で、顔が赤く染まったまま。体は硬直したまま動けない。ほぼ距離ゼロで、男性からこんな接触なんて今までなかったからね。

 これってさっきまで抱き締められていたのかな? 
 ない。感触とか、なんとかよくわからない。情報が処理出来ない。

「我が愛しの君。迎えが遅くなって悪かったね。僕の美しい君をこれ以上他の奴らに見せていたくはなかったから、転移したよ」

 近い近い。怖い怖い。すっととおった鼻筋とか、形良い唇とか、目を逸らそうとしても見える。長い黒髪がさらさらと私にかかったり、さっきまで抱き締められていたのだとか思ったり、匂いを感じたり……。

 夢でも無理。耐性全くないの。かたまって動けない。
 物語で読んだり、ゲームをしている訳じゃない感触が妙にリアルだ。夢よ、私の夢。なんでこんなに現実味があるの。夢なのに。

 今だって滅茶苦茶綺麗な顔が近いし、息触れ合いそうに近く感じる。怖いくらい近い。つい視線をそらして、気持ちを逃がそうとする。全然だめだけれど――
 

「ちょっと失礼。本当に君は可愛いね」
 微笑まれ、ふわっと、腕をまわされ軽々抱き上げられてソファに座らされた。
 柔らかくて肌触りがいい。

「僕の可愛い人。ゆっくり息をすって、吐いて。ゆっくりでいいからね。大丈夫、大丈夫だから」
 そんな声をかけてくれるその声がとても優しい声色で……。ほぅと少し大きく息をついた。

 動けないのは、ばればれだったのだろう。ありがたいかもしれないけれど、これはこれで恥ずかしい。




 私は目をあげた。視界には落ち着いた部屋。

 特に豪華に見えるものでもないが、よく見れば細工の施されたアイボリーの壁、使いやすそうな家具は凝った作りをしていた。きっと高級なのだろう。装飾を見ているだけでも楽しい。
 窓には落ち着いた深緑のカーテンがかかっている。

 ――見たことがあるような気がする?

 どこかしていたゲームでみた彼の拠点の一つの屋敷の部屋に似ている気がした。
 

 



       ◇
 しかし、この夢、いつ覚めるのだろう? とうとう私が書いていた話の登場人物もいなくなった。


 ヒーローとヒロインびっくりしているだろうな。いや、周りの人達もか。
 急に私達消えただろうし。


「今度の名はエルテンシアだね? 美しい名だ。僕の愛しい人。永遠の恋人。何処へでも僕は君を追いかけて捕まえるよ。君は僕のものだからね」


 彼は、私に笑みを向けてくる。

 笑みは綺麗だ。声も美声だ。スタイルもいいキラキラした美貌の魔法使いだ。

 ――そんな彼の、私へのストーカー宣言か? ストーカーですよと本人へ高らかに公言するスタイルなのか?

 私の夢! 何言わせているの?!


 
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