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5. 謎の貴公子
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◇
「失敬」
騒つく声が、遠巻きに聞こえる中、すっと涼やかで耳触りのいい美声が聞こえた。何故かどこかで聞いた覚えがある気がする。思い込みだろうか?
視線を声の方へやると、そこには艶やかな黒髪を長く背に流し、長いまつ毛に縁取られた切長の紫の瞳を細めた美貌の貴公子が悪役令嬢――私に微笑みかけている。見たことあるようなないような? まぁ夢だし色々混ざっている可能性や自分が作っている可能性もあるかな。
そして、なんだろうこの展開。
彼は、ヒーローに向き直った。
「ではエルテンシア嬢とは婚約関係はなくなるということで宜しいですね?」
「そうなりますね」
あ、ヒーロー言葉遣いが改まったわ。良かった知らない方につっけんどんなことをするようなことがなくて。その辺りの分別はあるわね。よかった。
ちょっとほっとする。
「ありがとうございます」
と返す彼の声を聞く。
いや、本当美声だわ。まぁヒーローこちらも実は美声だけれど、今ずっと聞いている声ほぼ罵声だったからね。
ヒロインも鈴を転がしたような声よ。全く今声を出してないけれど。
悪役令嬢だって、綺麗な声ではあるのよ。
うちの子せっかくだからみんな綺麗で可愛いがねキャラ作りの時にどうしても発動してね。ついついね。
どうせならと頭もよくしたはずなのに、うちのヒーロー残念すぎる。私が頭良くないからな。うまくよく書けないのもあるか。
本当、心底残念よね。頭がいいも色々あるけど。
恋狂いのせいかもかな。怖いね。そういうことかな?
もしかして、状態異常で知性とかもがくんと落ちているのかもだ。なんだかそんな気もしてきた。場合によっては落ちそうじゃない?
――しかし、こんな場面私は書いてないのだけれどな。
夢のアレンジか? とうとう創作してきたか。と言っても私の夢だから私か。
とか考えている間に、黒髪の彼は、私のそばにやってきていた。悪役令嬢に何か用かな?
つい、見上げてしまう。背、思うより高いな。
黒いマントがひるがえる。彼がそばに立った位置がよかったのか、ちょうど視界からヒーローが見えにくくなる。睨まれていたい訳じゃないから、ありがたいけど、近いな。距離。少し自然に見えるように距離をあけた。
ふんわりと彼からいい匂いが香るくらい近いのはどうかと思うしね。
「エルテンシア、書面や手続きはおって用意する」
視界からほとんど消えたヒーローの声が聞こえた。
契約だものね。口頭だけじゃ無理ですよね。ですよね。
確か適当に考えたけど、署名だけすればいいようなかんじにしたのだったかな? 特に設定してなかったか。
ならそれでいけるかな?
そんなことを思っていると、
「書面でしたら、こちらに用意がありますので、どうぞお使い下さい。さぁエルテンシア嬢も署名を」
恭しく差し出された羽根ペンを受け取り言われるまま、つい署名する。
早く縁が切れるならいいかなって。睨まれっぱなし嫌だし。夢でもね。うちの子でもね。うちの子だからよりかな。
ヒーローも署名したかな? しかし、準備いいな、さくさく進むよ。
彼も嬉しそうに見えるのだよね。気のせいじゃなければ。
しかも、何故こんな書面持って動いているのだろう? ご都合キャラ?
うーん、でも、この人――やはり既視感あるな。
なんだろう? 見たことあるような? うちの子にこんな子はいなかったと思うけど?
「どうぞ、こちらを。では、間違い無いですね?」
「そうだ。この悪女と婚姻など虫唾がはしる」
悪役令嬢こそ、ヒーローと婚姻する気ないですからね。
ヒロインと仲良くね。言わなくても仲良くするはずだけど。
「では、私が貰い受けても、構いませんね?」
「ああ……」
ヒーローの言葉を遮り、そのまま言葉を被せる。
「はい、言質はいただきました。貰い受けます。返してくれと言われても返しません」
「いや、エルテンシアは追放しないと罰を受けさせなければ……」
ヒーローは黒髪の貴公子に一生懸命語りかけているが、全く取り合わないで私に向き直る。
「失礼致します。エルテンシア・マライエ嬢、どうか私、ラフィラエル・カランテアと婚約して下さい」
黒いマントをひるがえし、すっとひざまずかれる。
白皙の美貌の主に、きらりと光る紫色の瞳で見上げられ、告げられた言葉の意味を考えることに時間がかかった。
――そんな設定、私の話にはありませんでした。
夢よ、これは救済なの?
ほら、ヒーローもヒロインも唖然としているわ。
「我が麗しのエルテンシア嬢、この私はあなたから、はいという返事しか、聞く気はありません」
そう言って微笑む謎の貴公子。
押し滅茶苦茶強いな。
つい頬が赤らんだ。こんなこと言われたことないからね。
あれ? ラフィラエル・カランテアって、確かしたことがある乙女ゲームのひとつの登場人物のような?
何故こんなことになっているの?!
「失敬」
騒つく声が、遠巻きに聞こえる中、すっと涼やかで耳触りのいい美声が聞こえた。何故かどこかで聞いた覚えがある気がする。思い込みだろうか?
視線を声の方へやると、そこには艶やかな黒髪を長く背に流し、長いまつ毛に縁取られた切長の紫の瞳を細めた美貌の貴公子が悪役令嬢――私に微笑みかけている。見たことあるようなないような? まぁ夢だし色々混ざっている可能性や自分が作っている可能性もあるかな。
そして、なんだろうこの展開。
彼は、ヒーローに向き直った。
「ではエルテンシア嬢とは婚約関係はなくなるということで宜しいですね?」
「そうなりますね」
あ、ヒーロー言葉遣いが改まったわ。良かった知らない方につっけんどんなことをするようなことがなくて。その辺りの分別はあるわね。よかった。
ちょっとほっとする。
「ありがとうございます」
と返す彼の声を聞く。
いや、本当美声だわ。まぁヒーローこちらも実は美声だけれど、今ずっと聞いている声ほぼ罵声だったからね。
ヒロインも鈴を転がしたような声よ。全く今声を出してないけれど。
悪役令嬢だって、綺麗な声ではあるのよ。
うちの子せっかくだからみんな綺麗で可愛いがねキャラ作りの時にどうしても発動してね。ついついね。
どうせならと頭もよくしたはずなのに、うちのヒーロー残念すぎる。私が頭良くないからな。うまくよく書けないのもあるか。
本当、心底残念よね。頭がいいも色々あるけど。
恋狂いのせいかもかな。怖いね。そういうことかな?
もしかして、状態異常で知性とかもがくんと落ちているのかもだ。なんだかそんな気もしてきた。場合によっては落ちそうじゃない?
――しかし、こんな場面私は書いてないのだけれどな。
夢のアレンジか? とうとう創作してきたか。と言っても私の夢だから私か。
とか考えている間に、黒髪の彼は、私のそばにやってきていた。悪役令嬢に何か用かな?
つい、見上げてしまう。背、思うより高いな。
黒いマントがひるがえる。彼がそばに立った位置がよかったのか、ちょうど視界からヒーローが見えにくくなる。睨まれていたい訳じゃないから、ありがたいけど、近いな。距離。少し自然に見えるように距離をあけた。
ふんわりと彼からいい匂いが香るくらい近いのはどうかと思うしね。
「エルテンシア、書面や手続きはおって用意する」
視界からほとんど消えたヒーローの声が聞こえた。
契約だものね。口頭だけじゃ無理ですよね。ですよね。
確か適当に考えたけど、署名だけすればいいようなかんじにしたのだったかな? 特に設定してなかったか。
ならそれでいけるかな?
そんなことを思っていると、
「書面でしたら、こちらに用意がありますので、どうぞお使い下さい。さぁエルテンシア嬢も署名を」
恭しく差し出された羽根ペンを受け取り言われるまま、つい署名する。
早く縁が切れるならいいかなって。睨まれっぱなし嫌だし。夢でもね。うちの子でもね。うちの子だからよりかな。
ヒーローも署名したかな? しかし、準備いいな、さくさく進むよ。
彼も嬉しそうに見えるのだよね。気のせいじゃなければ。
しかも、何故こんな書面持って動いているのだろう? ご都合キャラ?
うーん、でも、この人――やはり既視感あるな。
なんだろう? 見たことあるような? うちの子にこんな子はいなかったと思うけど?
「どうぞ、こちらを。では、間違い無いですね?」
「そうだ。この悪女と婚姻など虫唾がはしる」
悪役令嬢こそ、ヒーローと婚姻する気ないですからね。
ヒロインと仲良くね。言わなくても仲良くするはずだけど。
「では、私が貰い受けても、構いませんね?」
「ああ……」
ヒーローの言葉を遮り、そのまま言葉を被せる。
「はい、言質はいただきました。貰い受けます。返してくれと言われても返しません」
「いや、エルテンシアは追放しないと罰を受けさせなければ……」
ヒーローは黒髪の貴公子に一生懸命語りかけているが、全く取り合わないで私に向き直る。
「失礼致します。エルテンシア・マライエ嬢、どうか私、ラフィラエル・カランテアと婚約して下さい」
黒いマントをひるがえし、すっとひざまずかれる。
白皙の美貌の主に、きらりと光る紫色の瞳で見上げられ、告げられた言葉の意味を考えることに時間がかかった。
――そんな設定、私の話にはありませんでした。
夢よ、これは救済なの?
ほら、ヒーローもヒロインも唖然としているわ。
「我が麗しのエルテンシア嬢、この私はあなたから、はいという返事しか、聞く気はありません」
そう言って微笑む謎の貴公子。
押し滅茶苦茶強いな。
つい頬が赤らんだ。こんなこと言われたことないからね。
あれ? ラフィラエル・カランテアって、確かしたことがある乙女ゲームのひとつの登場人物のような?
何故こんなことになっているの?!
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