上 下
1 / 11

1. 夢にしても

しおりを挟む



     ◇
 私は物語を読むことが好きだ。

 ゲームとかもストーリー性のあるものが好きだった。まぁアクションゲームとかがまともに出来ないという理由もない訳じゃないけど。そういうゲームって、気づけばすぐに残機なしになる程度の技能の持ち主だからね。出来る人から見れば、何故そうなる? だろうけれど。

 それはとにかく、私は本にしろ、シミュレーションゲームにしろ文字を、語られる物語を読むことは好きだった。


 そこに紡がれた物語を読んでいる間は別世界にいることが出来る気がして、ついついのめり込んでしまう。

 色々な人になった気持ちになって右往左往したり、喜んだり、悲しんだり。
 そんなふうに自分ではない他の誰かに感情移入したり、俯瞰的に見たり。物語りで語られることのなかったことを終わった後を想像したり、そこに登場した人物や事象について考察したり。

 おかげでちょっと自分も書いてみたくなった。

 書いてみたけれど――凄いご都合になりすぎて、途中でだめだわと思って止まった。

 やっぱり物語書いている人達すごいなと思う。私が綿密に設定とか考えることが苦手なのかもしれないけれど。

 やっぱり書き手より、読み手がいいかな。

 でも好きなように好きに書くのもそれはそれで楽しい気もする。

 言葉って難しい。頭の中で想像したことをいざ書こうと思っても、思うようにはいかなくて。
 表現することが難しい。もどかしくて仕方がなくなったりもするけれど、書きたいところだけたまに書き散らしては、だめだなって投げてを繰り返していた。

 気軽なのはやはり読み手だったり、ゲームだったりかな。そりゃそうだよね。





 そうね、まぁ確かに物語に入り浸るように、読み耽っていたと思う。

 思うけど……――。



 何故今私は、目の前で金髪碧眼、美貌の貴公子に糾弾されているの?!



 気がつけば、修羅場の真っ只中にいましたはないわ。




     ◇

 私はいつ寝落ちたのだろう? ここはいつもの自分の自室ではない。夢だろう、これは。

 何故か煌びやかな白を基調とした建物の中にいる。
 普通にないよね? そんなドレスとかを身にまとう貴婦人みたいな人達が目に見える。貴公子みたいな人達も。

 足を踏み入れたことはないが、コスプレ会場か? にしては、なんだか凄く重厚感がある。お高そうというか、オートクチュール感があるというか、よくわからないけれどそんな感じというか。

 そもそも私が何故か滅茶苦茶高そうな足首もすっぽり隠れるひだの多いドレスを着ている。なんだろう? 首がやけに重い。手をやるとずっしり重い。

 なんか凄い綺麗な紅の宝玉が嵌め込まれた首飾りがじゃらりと音をたてた。重いわ、これは。

 自分が動くと衣擦れの音がする。ドレスか。高そうだけれどなんだろう、赤と黒で派手。悪目立ちするよね? くらい派手。私の好みではない。
 いや、綺麗だよ、綺麗だとは思うのだけれど、悪のなんとかとかが着ていそうというか、全体像はよく見えないけれどそんな感じというか。なんだか覚えがあるような? なんだろうこの既視感。夢だからか?
 

 私、物語は物語として自分は関係のないところで読むのは好きだよ。でもね、当事者になりたいかと聞かれたら、どうしてもどうしても、どうしても仕方ないとしてもモブだ。背景でいい。ヒロインとか柄じゃない。主人公サブその辺りはダメだ。


 しかし――ぐるりと見渡す。これ、なんか覚えがある気がする。こんな経験ないはずなのに。


 周りの貴婦人みたいな人達は、扇で顔を隠しつつも私達をちらりちらりと見ているみたい。そりゃこんな場所で修羅場が展開されたら、気になるよね。貴公子みたいな人達の視線も感じる。

 逆に遠ざかっていく人も見えなくないけど。潮が引いていくようだ。

 潮干狩り出来そうかな。

 そちらも気持ちはわかるよ。巻き込まれたら大変だものね。私も一緒にそっとこの場から退場したいのだけれど、対峙している彼が逃してくれそうにない。

 ターゲットオン――私。

 勘弁して欲しいな。泣けてきそう。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

処理中です...