私にヒロインは無理です

古部 鈴

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一 早く目が覚めないかな……

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     ◇
 ──これは夢か? 
 夢だろう。これは──こんなのありえなさすぎる。

 目に映るのは重厚な装飾が施された空間。シャンデリアの灯りと、楽器の奏でる音が優雅に流れる煌びやかな舞踏会。
 
 そして目に留まったのはあり得ない髪の色と、古めかしくも精巧なレースやフリルの多い、襞をたっぷりとった裾の長い、見るからに高価だろうドレスの貴婦人達や豪奢な夜会服を纏う貴公子達。

 髪も金銀赤とかなら外国の方かな? なかんじだろうけど、でもね、水色とか紫とか緑とかないよね? 

 何にせよ、美形美形美形。どこを向いても男女ともども衣装もドレスアップされている美形だらけだ。

 でもなんだろう? なんだか見たことがある気がする? そんな光景──


 私は苦しさに、ふぅとひとつ息をついた。


 ──きついなこれ。

 腰とか胸とかかな? 締め付けが苦しい。ぎゅうぎゅう体を締められているかんじがする。

 着ている服がまた重い。なんだ、この重さは。
 存在感のある首飾りかな? が首元に鎮座している感触がする。それがまたずっしり重い。重さで首がもげそう。

 少し俯くと髪にも耳にも飾りがついているのか爽やかな金属音が聞こえた。全体的に重い。

 そのまま着ている服を見ると、光沢のある淡い青の綺麗で素晴らしい布地。シルクとかかな? 周りの皆と同じで裾は床につくくらい長く、襞も多くてそれは重くもなるよねという気がするそんなドレスを着ていた。

 まずありえない。

 こんなの着たことなんてない、怖い。汚しそう。
 でも何故か見たことのある気がする衣装。

 これ、いいのかな? 引きずっている? 

 女性見ている限り私だけじゃないし、歩くとこれだと綺麗な飴色の板張りの床を、掃除している気がする。

 こんな衣装着ている段階で、やっぱり夢だよね? と思うのだけど……本当すごい締め付け。あまり知識ないのだけれど、これがコルセットによるものなのかな? どうなっているかわからないし、よく知らないのだけれど。
 
 苦しい。重い。真面目に苦しい。それにしてもリアルな夢だ。
 こんな苦しいリアルさいらないかな。夢にあれこれ求めるのもかもだけれど。

 



「疲れたのかい、ラーリア」
 どこからか低く甘やかな美声。何故か聞き覚えのある男性の声がラーリアと呼ぶ声が聞こえる。

 その名前にも記憶があった。

 しばらく前にやっていた乙女ゲームのヒロインの名前。

 そうだ。
 今いるその場所がゲームのスチルで見た光景そっくりなのだ。

 内心笑いがこみあげた。
 
 夢だろう──これは。普通に夢なのだろう。

 こんなくっきりはっきりした夢、見たことない気がするけれどね。まぁ覚えていないだけかもしれないだけかな。



       ◇
 
 昏き星に導かれし小夜曲というマイナーなのか、私は聞いたことがなかった乙女ゲームをしばらく前にはじめてみていた。


 ついポピュラーなものではなく、少しはずしたところで、ちょっとはずれた時期に何気なくはまるのはよくある自分だ。

 今回は店頭で通り過ぎようとして、それでも視線は棚に向いて、ついタイトルを追いながら歩いていた時、ふと目に止まった。

 ──乙女ゲームか。

 迷ったけれど、気になったしで購入してやり始めた。



 昔、気まぐれに一回した後、乙女ゲームというジャンルのものはずっとしていなかった。出来る気がしなかったからもある。

 ものはためしと、何も考えずに初めて乙女ゲームをした時、攻略対象達から告白さえ受けず、ゲームが終了してしまったのは苦い思い出だ。
 誰を攻略しようとか思ってなかったのも悪かったのかもしれない。

 恋愛からかけ離れたことを何故かしているみたいなのよね。

 最早ゲームですら恋愛に向かないくらいの恋愛音痴だ。

 もちろん現実に恋人なんて夢また夢。さっぱりだった。関わり方もわからないし、取り扱い謎だし、男性苦手なのかもだし、もういいかな無理な気がするしと、思いすらしていた。

 ゲームですらフラグとかへし折っているのかもしれないのだから、現実でなんてそりゃどうしようもないよね。

 折るつもりがなくても折っているみたいだしね、フラグ。

 そんなフラグクラッシャーでも、初めてのエンドから、ちゃんと攻略対象と恋仲というものにこのゲームはしてくれた。
 凄いな。思うままで恋愛エンドになるよ、この私が。
 
 ある意味感動した。多分感動の仕方が違うのだろう。

 初めて乙女ゲームで恋愛エンドに。

 だけどこれ考えるまでもなく閉じ込められているし、監禁エンドな気がする。バッドエンドじゃないかな? 

 いや、ちゃんとヒロインとくっついているし、ハッピーエンドなのかな? まぁ当人達がいいならいいのだろうけど──私はやっぱりちょっとせめて初めはノーマルなスカッとハッピーな雰囲気が良かったかな? 

 初めてから監禁エンド。重いね。ゲームだけど。

 ノーマルなスカッとハッピーってそれも人それぞれだろうけど。好みは好き好きだしね。監禁もありなのかな? よくわからないけれど。

 
 まぁむしろ一人でも攻略出来ているしな。この私が。上出来かもしれないけどね。
 でも気をつけて色々変えているつもりだけど、なんで同じルートに乗っているのかな?


 まぁハッピーエンドのその先がハッピーかはわからないし、監禁エンドのその先にハッピー……あるのかな? 

 監禁ハッピーラッキーって思う洗脳が先に待つとか? そんなことを考えていると、声がもっと近づいてくる。



 見上げると攻略対象達が目の前。私を見ている。
「ラーリア」
 と、口々に呼びかけ、笑顔で私だけを見つめる美貌の主達。

 ──なんてことなの? 
 夢だとしても、ヒロインが私とかないわ。
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