1 / 6
一
しおりを挟む
◆
──今日も小さな訪問者達はたくさんいそうだ。
扉越しに、鳥の囀りと羽ばたく音が耳に聞こえてくる。
頭が痛い思いに駆られながらも、ぼくは二階のある部屋の扉を数回叩いた。
だが、返答はいつも通りにない。
ぼくは、やるせない思いに駆られながら、扉に手をかけ、力を込めて思い切りよく開き、足を踏み入れた。
大きく開いた窓から、差し込む昼の陽の光が目に眩しい。
使われていない乳白色カーテン。部屋の内装も白っぽいから、余計にそう見えるのかもしれない。
眩しさに手をかざし、目をすがめて前を見ると、ぼくの出現に驚いたのだろう鳥達の影が、大きな窓の外へ、光を受けて輝く柔らかな新緑の樹々を越え、澄み渡る青空へ向けて、飛翔する。
その訪問者達の去り行く軌跡をぼくは見送り、ひとつ大きく溜息をついた。
──やってられない。
大きな窓はいつでも開きっぱなし。その辺にパンとかの食べ忘れが置きっぱなし。啄み放題。
それはもう、鳥達に入ってこいっていってるって思われても仕方がないだろう。
今はいなかったみたいだけれど、もう慣れたヤツなんかは、ぼくが入って来ても逃げもしない。
扉を開けたぼくを確認して、綺麗な声で囀ったり、そのへんに置きっ放しのパンとかを啄んでいたりする。
そんな姿をかわいらしいと、つい頬をゆるめてしまう反面、後始末が大変だ。
鳥達がちらばらせてくれた食べ物とか、もう固まってしまった糞とか、抜けた羽毛とかやらが、そこかしこに引っ付いている状態を、そのままにしておくのは、やっぱり人の住まいと思うとダメに思える。
ここは人の住処であり、部屋の中だ。
ぼくはカーテンに手を伸ばして、少し窓を覆い、ざっと、目につく範囲を片付けはじめた。
そして、ふぅと大きく息をつく。
自然と視線が向いた方向には、椅子が並んである。
ぼくは部屋にふたつあるうちのひとつ、背もたれがゆるやかに傾斜した、脚の底が弓なりで上下に揺らすことが出来るようになっている木の椅子に、目をやった。
そこには風に青みがかった長い黒髪を遊ばせ、我関せずとばかりに、ゆったりと深く腰掛けている、ぼくの養い主、ファラドがいる。
窓から穏やかな風が吹き込み、カーテンが揺れる。
それは、ファラドの長い髪をさらさらと揺らしてぼくを撫でて去って行く。
手を伸ばしても擦り抜けてゆく風は、当たり前だけど掴もうとしても掴めない。
触れようとしても、さらりとかわされているようにも思える。
風としての存在はあるというのに。
あるのにないみたいに──
ぼくは彼の方へ近づき、溜息をひとつ、大きくついた。
ちらりと、ファラドの横顔をみる。形良い瞼に縁取られる睫毛。通った鼻筋。白磁のように滑らかな肌。
見惚れてしまうくらいに顔立ちは綺麗なのだけれど……。
ぼくは肩をすくめた。
鳥達が部屋に入ってきて囀っていても、聞こえていない。ぼくが入って来たことにも気が付かない。物音を立てて片付けをしていても、反応はない。
そう、彼は眠っているのだ。
──今日も小さな訪問者達はたくさんいそうだ。
扉越しに、鳥の囀りと羽ばたく音が耳に聞こえてくる。
頭が痛い思いに駆られながらも、ぼくは二階のある部屋の扉を数回叩いた。
だが、返答はいつも通りにない。
ぼくは、やるせない思いに駆られながら、扉に手をかけ、力を込めて思い切りよく開き、足を踏み入れた。
大きく開いた窓から、差し込む昼の陽の光が目に眩しい。
使われていない乳白色カーテン。部屋の内装も白っぽいから、余計にそう見えるのかもしれない。
眩しさに手をかざし、目をすがめて前を見ると、ぼくの出現に驚いたのだろう鳥達の影が、大きな窓の外へ、光を受けて輝く柔らかな新緑の樹々を越え、澄み渡る青空へ向けて、飛翔する。
その訪問者達の去り行く軌跡をぼくは見送り、ひとつ大きく溜息をついた。
──やってられない。
大きな窓はいつでも開きっぱなし。その辺にパンとかの食べ忘れが置きっぱなし。啄み放題。
それはもう、鳥達に入ってこいっていってるって思われても仕方がないだろう。
今はいなかったみたいだけれど、もう慣れたヤツなんかは、ぼくが入って来ても逃げもしない。
扉を開けたぼくを確認して、綺麗な声で囀ったり、そのへんに置きっ放しのパンとかを啄んでいたりする。
そんな姿をかわいらしいと、つい頬をゆるめてしまう反面、後始末が大変だ。
鳥達がちらばらせてくれた食べ物とか、もう固まってしまった糞とか、抜けた羽毛とかやらが、そこかしこに引っ付いている状態を、そのままにしておくのは、やっぱり人の住まいと思うとダメに思える。
ここは人の住処であり、部屋の中だ。
ぼくはカーテンに手を伸ばして、少し窓を覆い、ざっと、目につく範囲を片付けはじめた。
そして、ふぅと大きく息をつく。
自然と視線が向いた方向には、椅子が並んである。
ぼくは部屋にふたつあるうちのひとつ、背もたれがゆるやかに傾斜した、脚の底が弓なりで上下に揺らすことが出来るようになっている木の椅子に、目をやった。
そこには風に青みがかった長い黒髪を遊ばせ、我関せずとばかりに、ゆったりと深く腰掛けている、ぼくの養い主、ファラドがいる。
窓から穏やかな風が吹き込み、カーテンが揺れる。
それは、ファラドの長い髪をさらさらと揺らしてぼくを撫でて去って行く。
手を伸ばしても擦り抜けてゆく風は、当たり前だけど掴もうとしても掴めない。
触れようとしても、さらりとかわされているようにも思える。
風としての存在はあるというのに。
あるのにないみたいに──
ぼくは彼の方へ近づき、溜息をひとつ、大きくついた。
ちらりと、ファラドの横顔をみる。形良い瞼に縁取られる睫毛。通った鼻筋。白磁のように滑らかな肌。
見惚れてしまうくらいに顔立ちは綺麗なのだけれど……。
ぼくは肩をすくめた。
鳥達が部屋に入ってきて囀っていても、聞こえていない。ぼくが入って来たことにも気が付かない。物音を立てて片付けをしていても、反応はない。
そう、彼は眠っているのだ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
会うたびに、貴方が嫌いになる
黒猫子猫(猫子猫)
恋愛
長身の王女レオーネは、侯爵家令息のアリエスに会うたびに惹かれた。だが、守り役に徹している彼が応えてくれたことはない。彼女が聖獣の力を持つために発情期を迎えた時も、身体を差し出して鎮めてくれこそしたが、その後も変わらず塩対応だ。悩むレオーネは、彼が自分とは正反対の可愛らしい令嬢と親しくしているのを目撃してしまう。優しく笑いかけ、「小さい方が良い」と褒めているのも聞いた。失恋という現実を受け入れるしかなかったレオーネは、二人の妨げになるまいと決意した。
アリエスは嫌そうに自分を遠ざけ始めたレオーネに、動揺を隠せなくなった。彼女が演技などではなく、本気でそう思っていると分かったからだ。
もう一度だけ。
しらす
恋愛
私の一番の願いは、貴方の幸せ。
最期に、うまく笑えたかな。
**タグご注意下さい。
***ギャグが上手く書けなくてシリアスを書きたくなったので書きました。
****ありきたりなお話です。
*****小説家になろう様にても掲載しています。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる