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番外 好きにならないはずがない
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僕はモブ。灰色の髪、灰色の目。目立たない存在。壁とか床とかレベルからは少しましなくらいの存在感。
だが、ただのモブではなく、実は前世の記憶がある。
妄想ではないはずだ。多分ない。
そう、僕はこの世界の中ではあっさりした顔だ。とはいえ、それなりには何故か整っていたりするのじゃないかな。間違いなく、前世よりはずっと顔がいい気がする。
キラキラしくはないし、鍛えてもいない。ただの閉じこもり魔法オタクだけど。
そして僕の生まれた家はありがたいことに伯爵家。
三男で、籠もって研究していても、放っておいてくれている。
元々陰キャラの僕は、今世も陰キャラらしい配役にどうも前世の死後してくれたようだ。
部屋に籠もって研究三昧。魔法が使える世界で、魔力があるのなら、使えるようにしたいよね?
そんな僕は、元々引きこもり。
こもって好きなのことが出来る財力万歳でもあった。
そしてここは、前世に読んだ小説の世界に非常に似通っていた──
◇
「わたしはアレリーヌ・フィナンといいます。あなたが好きです」
いつだったか──幼い頃、可愛らしい声で、可憐な幼女が告白している現場にたちあわせた。
淡い亜麻色の髪を背にふんわり靡かせ、長い睫毛に縁取られた大きな緑青の瞳を輝かせ、頬を赤らめ、薔薇色の小さな唇で可愛らしい告白の言葉を紡ぐ、薄桃色のドレスの印象的な幼女が目の前に立っていた。
彼女を見た瞬間、この世界が某小説世界に似通っていることと、彼女の名前や容姿がヒロインそのものだということにうすぼんやり気がついた。
乙女ゲームベースっぽい小説だって読んでいたからね。既視感あると思ったよ。
妹がいたのだったかな。本もある程度読んでいた。
女性が好きな感じの本って? と妹に聞いたら、これを貸してくれた。
内容は、ないな、ないないと思いながら読んでいた。せっかくだし、活字中毒だし、読めるものなら、読んでしまうさ。
ま、ある意味面白くもあったし。こういうのが女性は好きなのか。やっぱり世界違うわとも思った記憶がある。
僕ならま、このすみっこにいる魔法大好きモブだよねとか思った記憶のままに、彼に転生していたよ。
「好きです」
と、見つめてくる先には僕がいて、僕の後ろにちょうど誰かがいるのかと、つい後ろを振り向いてみたけれど、誰もいない──
小さい頃のヒロインと出会うのは、兄の方じゃなかったのかな?
おかしいのだけれど?!
混乱している僕に、アピールする可愛らしい幼女。
「ラフィラス・レリアドだけど、僕なの?」
間違えようもない地味な僕だけれど、間違えていない? と声をかける。
「そうです。レリアド伯爵第三令息のラフィラスさま、ラフィラスさまと呼ばせていただいても、よろしいでしょうか?」
距離を詰めてくる。
幼女なはずなのに、さすがヒロインだなのかな。
でも、攻略対象というか、恋のお相手は、うちの今世の滅茶苦茶キラキラした兄じゃないの?
なんでヒロインだろう可愛い女の子が、僕から離れないの?!
◆
「ラフィラス様」
きらきらした少女が鈴を転がすような声で、僕の名を呼ぶ。
この世界の類似している小説のヒロインの名を持つ少女。とても愛らしい。ひたむきに僕を見つめてくれる眼差し。
幼女の時だけのものだろう、何かの気の迷いか、物珍しさかもとか思っていた。
学院に通うようになっても、アレリーヌは、好意を寄せてくれているように見える。
経験値ゼロの僕は、内心ドキドキだ。
まともに声が出なかったり、掠れたり、つっかえたりしても、僕を見ながら、小首を傾げて待っていてくれる。
そして何か答えると、花が咲くように綺麗に嬉しそうに微笑んでくれる。
そんなの好きにならない訳ないじゃないか。
滅茶苦茶周りのやっかみがきついけれど、僕は彼女が好きだ。でも、彼女はヒロイン。
もし他の方を選んだとしたら、ちゃんと祝福しようと思っている。仕方ないだろう? 彼女はきっとヒロインなのだから。
僕は身を引く気だ。
だって困らせたくはない大事な女性だ。
もちろんまともでおかしくない男でなければ許さないが。モブでも小説の記憶もある程度はあるしね。やる時はやるよ。結構魔法では名はあげているからね。
まぁ──今のところこんな僕に対してひたむきに好意をよせてくれているけれど──
「ラフィラス様」
微笑みを浮かべて見上げる白い制服姿が眩しい。
好きだから、もしがあれば手放すつもりだけれど、好きだからこそちゃんと手放すことが出来るのか、実は不安だ。
end
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