兄のお嫁さんに嫌がらせをされるので、全てを暴露しようと思います

第5話・良い加減にして

「もう、やめてください…私が何かしましたか？貴方の損になる様なことを、何もしていないでしょう！良い加減、陰湿な事はやめて下さい！」

限界が来た私は、また嫌がらせをしに来た彼女を目の前に、こう叫んでしまった。　
叫んだ場所がいけなかった。場所は家族共有の食事場で、通りが良い場所なので、声もよく響く。私の悲鳴にも近い拒絶は家族の耳にも届いたのだろう。そして、ナタリーさんはそれを分かっていた。

「うるさ。なに、逆らうの？血が繋がってるくせして、誰もアンタの味方なんてしてくれないのに」

醜い表情と汚い言葉遣いの、普段兄や両親に見せるのとは全くの別人の様な有様に、私はまた真っ青になって震え出した。最早、彼女は生きるトラウマと化していた。

「いいよね、ちょっと綺麗で爵位が高かったら、学園でも賢姫だ天使だって騒がれて。ムカつくんだよ、そういうの」
「そんな、そんなこと…っ」
「邪魔なんだよ。折角玉の輿に乗れて、イケメンな兄弟にチヤホヤされると思ったのに！妹なんていらないし、この家に女なんて、本当は私一人でいいのに！」
「お、お兄様のこと、愛してるのではないの…？」
「バッッッカじゃないの？あ、だからアルフレッドもバカなんだ？ちょっと優しくしたら騙されてさ。好きなのは顔と金だけで、性格なんてこれっぽっちも好きじゃないっつーの！堅いし童貞っぽいし、これなら弟のレオン方がマシだった！」

その一言を聞いて怒りが込み上げるのと、兄が駆けつけてくるのはほぼ同時だった。

「っふざけないで！貴女なんて、貴女なんてっ、大嫌い…！家族じゃないわ！！絶対に認めない…！！！」

一瞬、口角を上げた彼女の瞳には、私ではなく私の背後にいた兄が映っていた。

「なんて事を言うんだ、ソフィア……！」

気付いて、私が何かを口にするよりも先に、ナタリーさんが兄に抱きついた。その際、押し退けられてよろけたが、彼女を抱きしめる兄にはそんな私は見えていない。
ナタリーさんは、私にしか見えないと確信して、笑みを浮かべていた。

それからと言うもの、兄は私をどことなく避ける様になり、両親は益々彼女を気遣う様になった。何をされて、何を言っても私からナタリーさんへの嫌がらせだと思われたし、両親はそんな私を端ないと、情けないと叱った。謝りなさい、と言われても、絶対に謝罪を口にしなかった私の態度も悪かったのだろう。最早、彼等の頭の中では、私が新しく来た兄の嫁をいびっている、という構図が確定していた。騙されているんだ、と訴える度に、彼等の顔には呆れが浮かんでいった。
その顔を見ると、意味もなく涙が出てきて、もう何も言えなくなった。

ナタリーという兄の選んだ女性は、私を地獄に突き落とし、その影で一人笑う様な最悪の人間だった。


＿＿そんな最中の事である。一ヶ月後に両家で食事会を開く、という旨の報せが、突然私の下に飛び込んできた。