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第二話・エシルとグレース
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両親はエシルにいつも甘く優しい。
「さすがエシル、本当に貴方は優しいわね。いいわ、姉妹で行くと伝えておくから」
「グレースはエシルより先に生まれたのに、エシルのあとをついて回るばかりだからなあ。グレース、少しはエシルから自立したらどうだ」
「ママ、パパ、そんなこと言ったら可哀想よ!お姉ちゃんは私よりお勉強ができるし、歌が上手でえ、楽器も弾けるじゃない!私なんか、なんにもできないのに…」
「そんなことないわよ!貴方は素直で可愛くて、国1番の美人と言われているんだから。自信を持ちなさい」
目の前で繰り広げられる茶番を死んだような目で見ながら、グレースは諦めの溜息を吐いた。
奇形児とも捉えられかねない醜い長女を産んだ後、二人の良いところばかりを受け継いだ次女が産まれれば、そりゃあ可愛いのだろう。おまけに無口で陰気なグレースと違って、妹のエシルはよく笑いよく食べよく話す。病弱で迷惑をかけてばかりのグレースに比べてエシルは庭を駆け回るほど元気だし、国1番の醜女と言われる自分と並べれば眩いほどに美しい。
差が出ないよう接する方が無理な話だ。グレースだって、それは分かっている。
「いいかグレース、エシルに言い寄る男達から、姉のお前が守ってやるんだぞ」
「いい?グレース。隣国はエシルの美しさ目当ての男が沢山いるの。悪い狼からあの子を守ってあげるのが姉としての貴女の役目よ」
「……はい、お父様、お母様」
グレースの瞳がまた、暗く沈んだ。この人たちはいつだってエシルの姉としてのグレースしか求めない。エシルの付属品としてのグレースしか。
「やだあ、ママ、パパ!むしろお姉ちゃんを私が守ってあげなきゃ!」
「何言ってるの、エシル」
「そうだぞ、グレースはお前よりも先に産まれたんだから、下の兄弟を守るのは当然のことだ」
あなた、わたしが醜いことを分かって言ってるでしょう、なんて言葉をグッと喉の奥に押し込み、グレースはただ黙って3人の会話を聞いていた。暖かく美しい自分を除いた3人家族。私さえいなければ、という卑屈な考えを、両親は心の中で何度思ったことだろう。
「お姉ちゃん、隣国には夢みたいに美しい王子様がいるんですって。楽しみね!」
「……そうね…」
「お姉ちゃんのドレスのデザイン、私とお揃いにしましょう!髪飾りとか小物は別に良いけど、ドレスは私とお揃いにして、仲良しなんだよってみんなに教えてあげなきゃ!」
その時の妹の顔が醜悪な優越感に歪んだのを、グレースは他人事のように見ていた。
彼女は私に同じ格好をさせたがる。
その方が、二人の容姿の差が顕著に分かるからだ。口では「仲良しだから」なんて取り繕っていても、こうして見せる優越感の滲んだ嘲笑が彼女の本心を伝えていた。
いつだって比較されて勝る方にいるエシルにとって、グレースがどれだけ惨めなのか知るはずもないし、グレースがエシルの立場に取って代わることだって一生ないだろう。
「…………………そうね…」
呟くように返事をしながら、グレースは隣国に思いを馳せた。きっとどこの土地だって変わらない。私は醜く、エシルは美しい。それだけが残酷なまでに正しいのだ、と。
「さすがエシル、本当に貴方は優しいわね。いいわ、姉妹で行くと伝えておくから」
「グレースはエシルより先に生まれたのに、エシルのあとをついて回るばかりだからなあ。グレース、少しはエシルから自立したらどうだ」
「ママ、パパ、そんなこと言ったら可哀想よ!お姉ちゃんは私よりお勉強ができるし、歌が上手でえ、楽器も弾けるじゃない!私なんか、なんにもできないのに…」
「そんなことないわよ!貴方は素直で可愛くて、国1番の美人と言われているんだから。自信を持ちなさい」
目の前で繰り広げられる茶番を死んだような目で見ながら、グレースは諦めの溜息を吐いた。
奇形児とも捉えられかねない醜い長女を産んだ後、二人の良いところばかりを受け継いだ次女が産まれれば、そりゃあ可愛いのだろう。おまけに無口で陰気なグレースと違って、妹のエシルはよく笑いよく食べよく話す。病弱で迷惑をかけてばかりのグレースに比べてエシルは庭を駆け回るほど元気だし、国1番の醜女と言われる自分と並べれば眩いほどに美しい。
差が出ないよう接する方が無理な話だ。グレースだって、それは分かっている。
「いいかグレース、エシルに言い寄る男達から、姉のお前が守ってやるんだぞ」
「いい?グレース。隣国はエシルの美しさ目当ての男が沢山いるの。悪い狼からあの子を守ってあげるのが姉としての貴女の役目よ」
「……はい、お父様、お母様」
グレースの瞳がまた、暗く沈んだ。この人たちはいつだってエシルの姉としてのグレースしか求めない。エシルの付属品としてのグレースしか。
「やだあ、ママ、パパ!むしろお姉ちゃんを私が守ってあげなきゃ!」
「何言ってるの、エシル」
「そうだぞ、グレースはお前よりも先に産まれたんだから、下の兄弟を守るのは当然のことだ」
あなた、わたしが醜いことを分かって言ってるでしょう、なんて言葉をグッと喉の奥に押し込み、グレースはただ黙って3人の会話を聞いていた。暖かく美しい自分を除いた3人家族。私さえいなければ、という卑屈な考えを、両親は心の中で何度思ったことだろう。
「お姉ちゃん、隣国には夢みたいに美しい王子様がいるんですって。楽しみね!」
「……そうね…」
「お姉ちゃんのドレスのデザイン、私とお揃いにしましょう!髪飾りとか小物は別に良いけど、ドレスは私とお揃いにして、仲良しなんだよってみんなに教えてあげなきゃ!」
その時の妹の顔が醜悪な優越感に歪んだのを、グレースは他人事のように見ていた。
彼女は私に同じ格好をさせたがる。
その方が、二人の容姿の差が顕著に分かるからだ。口では「仲良しだから」なんて取り繕っていても、こうして見せる優越感の滲んだ嘲笑が彼女の本心を伝えていた。
いつだって比較されて勝る方にいるエシルにとって、グレースがどれだけ惨めなのか知るはずもないし、グレースがエシルの立場に取って代わることだって一生ないだろう。
「…………………そうね…」
呟くように返事をしながら、グレースは隣国に思いを馳せた。きっとどこの土地だって変わらない。私は醜く、エシルは美しい。それだけが残酷なまでに正しいのだ、と。
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