上 下
46 / 106

41話 

しおりを挟む
 一通り話を聞いた鬼塚社長は何か考えるような素振りを見せる。 
 連れて来いと言われてしまうのだろうかと予想を立てていると、鬼塚社長はふむと一つ頷いて。

「その蛇が嫌がらなければだが、ここに連れて来てくれないか? 何なら、あんたが働いてる間はこちらで預かったって構わない」

「本当に大丈夫ですか? その……かなり上から目線でものを言って来ますけど」

「構わない。そういうのは慣れてるからな」

 何となくどこぞのブラック企業の社長を思い出した私は、彼のその言葉に少し納得した。
 
「そうだな、帰ってからその蛇に確認を取って、それから俺に連絡をしてくれ」

「分かりました。その……酷いことはしないですよね?」

「俺は話すだけだから安心しろ。それにロリコンでも無いしな」

 釘を刺すようにロリコンを否定した鬼塚社長に、心を見透かされたような気分になりながら私は愛想笑いを浮かべて見せた。
 どうやら私が内心で少し疑っている事に気付いていたらしい。流石は社長である。
 そう考えつつ、話せる事は話した私は立ち上がり。

「で、では、私は仕事に戻りますね」

「おう、頑張ってな」

 短く激励の言葉をくれた鬼塚社長に私は一礼して社長室を出た。
 緊張から開放されて肩が軽くなったような幻覚を覚えながら清掃の行き届いた廊下を歩き、エレベータの方へ向かっていると、不意に窓に映る絶景に目が吸い込まれた。
 雲一つ無い青空に照らされ、生き生きとしたこの街の景色は不思議な魅力を持ち、気付けば足が止まっていた。

「ここの景色、素晴らしいでしょう」

 唐突に声を掛けて来たのは、さっき私が遅れることを傘部長へ伝えに行っていた天狗木さんだった。
 
「はい、本当にいい景色です」

「私も休憩時間はここに来て眺めるんですよ。ここに来るのは自由ですから、来たい時に来てくれて構いませんよ」

「本当ですか? でしたら、またいつかここにお邪魔します」

 私はそれだけ言って天狗木さんに一礼し、慌ててエレベーターの方へ向かう。
 本当はもう少しぼーっと眺めていたかったが、そんな事をして仕事をサボっているわけにはいかないのである。
 自分にそう言い聞かせながら私の部署がある階層まで降り、エレベーターを出て足早に自席に向かうと、コピーを取ろうとしていたらしい七海が。

「おはよー。社長に呼び出されて何話されたの?」

「この前話した喋る蛇のことを聞かれただけだから気にしないで」

 少し心配したような声色を感じ取り、その優しさに嬉しく思いながら答え、自分の席に着いた私はパソコンの電源を付ける。 
 と、横で作業をしながら猫田さんが。

「まさか蛇の話がもう社長に知られてるとは驚いたな。会いたいとか言われたのか?」

「はい。良かったら連れて来てくれないかって話されました」

「記憶喪失みたいなこと言っていたよな。案外社長がその正体突き止めたりするかもな」

 私としても正体が気になるから是非突き止めて欲しいものだ。
 そんな事をぼんやりと考えながらいつも通り作業に入った私は知る由も無かった。

 ――ミワの正体がとんでもない大物であることを。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

あかり
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

悪役令嬢の悪行とやらって正直なにも悪くなくない?ってお話

下菊みこと
恋愛
多分微ざまぁ? 小説家になろう様でも投稿しています。

『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯
ファンタジー
 VRMMO『無題』をプレイしていた雪乃の前に表示された謎の選択肢、『この世界から出る』か『魔王になる』。  魔王を拒否して『この世界から出る』を選択した雪乃は、魔物である樹人の姿で異世界へと放り出されてしまう。  人間に見つかれば討伐されてしまう状況でありながら、薬草コンプリートを目指して旅に出る雪乃。  自由気ままなマンドラゴラ達や規格外なおっさん魔法使いに助けられ、振り回されながら、小さな樹人は魔王化を回避して薬草を集めることができるのか?!    天然樹人少女と暴走魔法使いが巻き起こす、ほのぼの珍道中の物語。 ※なろうさんにも掲載しています。

何度も死に戻りした悪役貴族〜自殺したらなんかストーリーが変わったんだが〜

琥珀のアリス
ファンタジー
悪役貴族であるルイス・ヴァレンタイン。彼にはある目的がある。 それは、永遠の眠りにつくこと。 ルイスはこれまで何度も死に戻りをしていた。 死因は様々だが、一つだけ変わらないことがあるとすれば、死ねば決まった年齢に戻るということ。 何度も生きては死んでを繰り返したルイスは、いつしか生きるのではなく死ぬことを目的として生きるようになった。 そして、一つ前の人生で、彼は何となくした自殺。 期待はしていなかったが、案の定ルイスはいつものように死に戻りをする。 「自殺もだめか。ならいつもみたいに好きなことやって死のう」 いつものように好きなことだけをやって死ぬことに決めたルイスだったが、何故か新たな人生はこれまでと違った。 婚約者を含めたルイスにとっての死神たちが、何故か彼のことを構ってくる。 「なんかおかしくね?」 これは、自殺したことでこれまでのストーリーから外れ、ルイスのことを気にかけてくる人たちと、永遠の死を手に入れるために生きる少年の物語。 ☆第16回ファンタジー小説大賞に応募しました!応援していただけると嬉しいです!! カクヨムにて、270万PV達成!

鳥籠令嬢は伯爵魔法使いに溺愛される

麻麻(あさあさ)
恋愛
ルナはエヴァンズ家の邪魔者だった。 妹や義母に嫌味を言われメイドのお下がりを着て過ごす毎日。 そんな時、思い出すのは母が話してくれた魔法使いが出てくるお伽話だ。 しかし、妹が社交界で「野蛮な」魔法使いが花嫁を探しているとルナに話す。 魔法使いなんて空想のものとルナは思っていたが義母と妹はルナを野蛮と噂される魔法使い伯爵との婚約を勝手に決められてしまうが。 ※他のサイトに載せていた作品です ※ザマァ系、捨てられ令嬢ものが好きな人はお気に入りや感想もらえると嬉しいです(^^)

訳あり侯爵様に嫁いで白い結婚をした虐げられ姫が逃亡を目指した、その結果

柴野
恋愛
国王の側妃の娘として生まれた故に虐げられ続けていた王女アグネス・エル・シェブーリエ。 彼女は父に命じられ、半ば厄介払いのような形で訳あり侯爵様に嫁がされることになる。 しかしそこでも不要とされているようで、「きみを愛することはない」と言われてしまったアグネスは、ニヤリと口角を吊り上げた。 「どうせいてもいなくてもいいような存在なんですもの、さっさと逃げてしまいましょう!」 逃亡して自由の身になる――それが彼女の長年の夢だったのだ。 あらゆる手段を使って脱走を実行しようとするアグネス。だがなぜか毎度毎度侯爵様にめざとく見つかってしまい、その度失敗してしまう。 しかも日に日に彼の態度は温かみを帯びたものになっていった。 気づけば一日中彼と同じ部屋で過ごすという軟禁状態になり、溺愛という名の雁字搦めにされていて……? 虐げられ姫と女性不信な侯爵によるラブストーリー。 ※小説家になろうに重複投稿しています。

出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??

新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。

処理中です...