32 / 106
29話
しおりを挟む
二口食堂に入ると今日も魚の焼ける良い匂いがふんわりと漂い、空腹が程よく刺激される。
今日は魚にしようなんて考えていると、店主である二口明恵さんがいつもの割烹着を着て現れた。
「いらっしゃい。好きな席に掛けて待っててね」
「はい」
猫田さんが返事をして、近くの席へ移動すると、七海は相当お腹が空いているのかすぐにメニュー表を取り出した。
私はいつも通りその隣に腰掛け、メニューを覗き込むとやはりどの料理も美味しそうで腹の虫が早く飯を寄越せと言わんばかりに騒ぐ。
「私は鯖の塩焼きにしようかな。桂里奈は?」
「私もそれにする」
どうやら魚の気分は私だけでは無かったらしい。
そうして全員が何を食べるか決めた頃、二口さんがどこからともなく現れて。
「決まったかい?」
「き、聞いてたんですか?」
猫田さんは少し怯えたような反応を見せ、二口さんはおかしそうに笑う。
「何度も来てくれるから何となくで分かるんだよ。盗み聞きはしてないから安心しな」
「そ、そうでしたか。じゃあ、注文の方を……」
注文を全て聞き終えて厨房へ戻って行く二口さんを見送っていると、何かを思い出した様子で七海が。
「そう言えばさー、店の少し先に黒いセダン止まってたよね。こんな狭い通りに路駐は頭悪いと思うの」
「お前に頭悪いって言われるやつも哀れだな」
「おっかしーなー、私の方が学歴高いんだけどなー?」
ニコニコの笑みを浮かべてにらみ合いを始め、その仲が良いのか悪いのか分からないやり取りはいつ見ても飽きない。
と、状況的に不利と判断したらしい猫田さんが話を逸らすように。
「そ、そう言えば深川が自称神の喋れる蛇を拾ったらしいんだよ。お前らなんか心当たり無いか?」
「話逸らすなー!」
七海が慌てて逃がすまいとばかりに食らいつくが、他の先輩たちは蛇に興味津々な様子で。
「それ本当か? どんな声してるんだ?」
「アニメの声優のようなカッコいい声です。中身はポンコツですけど」
木綿谷先輩の質問にそう答えると、次は猫田さんに噛み付いていた筈の七海が。
「もしかして桂里奈の次の彼氏? 男誑しだねぇ」
「ペットだし彼氏なんて出来たこと無いし!」
まさかの男誑し認定に思わず言い返すと七海は驚いた様子で目を見開く。
「彼氏できたこと無いの? そんなに可愛いのに?」
「揶揄わないでよ」
一度も告白されたことが無いのに可愛いはずが無い。揶揄うのは辞めて欲しいものだ。
そんな会話をしている間にワゴンを押して二口さんが現れ。
蛇のことで盛り上がっていた先輩たちは、それによって更に騒がしくなった。
今日は魚にしようなんて考えていると、店主である二口明恵さんがいつもの割烹着を着て現れた。
「いらっしゃい。好きな席に掛けて待っててね」
「はい」
猫田さんが返事をして、近くの席へ移動すると、七海は相当お腹が空いているのかすぐにメニュー表を取り出した。
私はいつも通りその隣に腰掛け、メニューを覗き込むとやはりどの料理も美味しそうで腹の虫が早く飯を寄越せと言わんばかりに騒ぐ。
「私は鯖の塩焼きにしようかな。桂里奈は?」
「私もそれにする」
どうやら魚の気分は私だけでは無かったらしい。
そうして全員が何を食べるか決めた頃、二口さんがどこからともなく現れて。
「決まったかい?」
「き、聞いてたんですか?」
猫田さんは少し怯えたような反応を見せ、二口さんはおかしそうに笑う。
「何度も来てくれるから何となくで分かるんだよ。盗み聞きはしてないから安心しな」
「そ、そうでしたか。じゃあ、注文の方を……」
注文を全て聞き終えて厨房へ戻って行く二口さんを見送っていると、何かを思い出した様子で七海が。
「そう言えばさー、店の少し先に黒いセダン止まってたよね。こんな狭い通りに路駐は頭悪いと思うの」
「お前に頭悪いって言われるやつも哀れだな」
「おっかしーなー、私の方が学歴高いんだけどなー?」
ニコニコの笑みを浮かべてにらみ合いを始め、その仲が良いのか悪いのか分からないやり取りはいつ見ても飽きない。
と、状況的に不利と判断したらしい猫田さんが話を逸らすように。
「そ、そう言えば深川が自称神の喋れる蛇を拾ったらしいんだよ。お前らなんか心当たり無いか?」
「話逸らすなー!」
七海が慌てて逃がすまいとばかりに食らいつくが、他の先輩たちは蛇に興味津々な様子で。
「それ本当か? どんな声してるんだ?」
「アニメの声優のようなカッコいい声です。中身はポンコツですけど」
木綿谷先輩の質問にそう答えると、次は猫田さんに噛み付いていた筈の七海が。
「もしかして桂里奈の次の彼氏? 男誑しだねぇ」
「ペットだし彼氏なんて出来たこと無いし!」
まさかの男誑し認定に思わず言い返すと七海は驚いた様子で目を見開く。
「彼氏できたこと無いの? そんなに可愛いのに?」
「揶揄わないでよ」
一度も告白されたことが無いのに可愛いはずが無い。揶揄うのは辞めて欲しいものだ。
そんな会話をしている間にワゴンを押して二口さんが現れ。
蛇のことで盛り上がっていた先輩たちは、それによって更に騒がしくなった。
15
お気に入りに追加
1,445
あなたにおすすめの小説
私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。
彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。
それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。
そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。
公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。
そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。
「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」
こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。
彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。
同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。
もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
衝撃で前世の記憶がよみがえったよ!
推しのしあわせを応援するため、推しとBLゲームの主人公をくっつけようと頑張るたび、推しが物凄くふきげんになるのです……!
ゲームには全く登場しなかったもふもふ獣人と、騎士見習いの少年の、両片想いな、いちゃらぶもふもふなお話です。
魔王様に気に入られたので魔界で暮らします。
下菊みこと
恋愛
ある日元公爵令嬢ジャンティー・ノワールは、弱っていた魔王フォンセ・ディアーブルを自分の血を分け与えて助ける。フォンセはジャンティーを気に入って、身分剥奪、国外追放処分を受けて生活に困窮するジャンティーを魔界へ連れ帰る。今まで誰かに愛されたことのない孤独なジャンティーはフォンセに直ぐに心を開く。これは二人の、日常とかトラブルとかその他もろもろのお話。
小説家になろう様にも掲載しています。
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
~転生令嬢の異世界奮闘記~最強スキル<魅了>を駆使して掴むのは女の幸せ?!はたまた天下か?!
紫陽花
恋愛
初めての告白で振られた日、失意の中で帰宅中、交通事故でこの世を去った。
しかし、守護天使によって異世界へ転生することとなる。
守護天使から授けられたスキルは、<魅了>の魔眼と<変身魔法>。
舞台は、ヴァン王国。
王太子シャルルマーニュの婚約者候補として舞踏会に招待された。
スキルを活かして、今度こそ幸せになる!と美姫は意気込む。
掴むことができるのは、女の幸せか?!はたまた天下か?!
※※この話は、転生少女美姫の異世界奮闘記です。※※
不定期更新ですm(。>__<。)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる