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24話 ペット?

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「それじゃ、大村のことは私に任せといてね」

「うん、お願いね」

 高校を卒業してからのことや思い出話を存分に楽しんだことで、来た時よりもスッキリした様子の澪は「また来るね」とだけ言うと、アパートを去って行った。
 私は見えなくなるまで見送り、部屋に戻って澪の使ったコップの片付けを始めながらふと気付く。
 ――友人と話をするのは数年振りであると。

 大村では働くばかりで友人なんて出来ず、あやかしデジタルは友人と呼んでも間違いでは無いが、澪のように自分の素で話せるほどの関係を持つ人はまだいない。
 そもそも考えてみると、今の私は自分で思っているよりも孤独だったのかもしれない。

 そんな考えのせいで寂しさに包まれながらコップを棚に仕舞っていると、不意に食器の影を何かが動いたことに気付いた。
 黒い悪魔が湧いたのかという不安から慌てて殺虫スプレーを手に取り、念には念を入れて弟が誕生日プレゼントという名目で送って来たガスマスクと軍手を身に着けて慎重に棚の中から食器を取り出す。
 幾つか取り出したところで棚の奥に土汚れが見え始め、黒い悪魔では無いのかと疑問に思いながら取り出していく。

 すると光から逃げるようにして皿の後ろに隠れようと試みる太い尻尾が見え、黒い悪魔でもネズミでもないと察した私は好奇心に押される様にして取り出すペースを早める。
 そうして一番端の味噌汁用の茶碗の反対側に頑張って隠れるが、ほとんど隠せていないそれに少し微笑ましく思いながら退けると、必死に隠れていたそれの正体が露わになった。
 ――私が大好きな蛇である。

 それも珍しいことに全身が真っ白で美しさのある個体で、犬や猫よりも蛇が好きな私からすればその可愛らしさは破壊的である。
 怯えた様子でこちらを見つめる細長い目に何となく守ってあげたい欲が湧き上がりつつ、その細長い体に手を近付ける。
 警戒した様子だったその眼は、手が触れると同時にまるで安心したように頭を近付ける。
 こんな簡単に懐柔出来てしまった事実に内心驚いていると、白蛇は私の手に頭を擦り付け、人に慣れている事から誰かが飼っていた蛇なのだろうと理解する。

 ツルツルなその感触を少し楽しんだ私はその細い体を持ち上げ、取り合えず部屋の隅に置いてある買ってから一度も使っていないバケツに入れてやり、その中でにょろにょろしている間にスマホで飼い方を検索する。
 チラと目を向けると白蛇はこちらをじいっと見つめていて、その可愛らしさに思わず微笑みながら。

「私が飼ってあげるから安心してね」

「ほう、見る目のある子娘よ。吾輩を死ぬその時まで養い給え」

「えっ」

 突然ダンディーな声で話始めた白蛇のせいで脳が停止し、部屋の中にはしばし静寂が訪れた。
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