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楽園の涯
8 継承者
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リースベットの訃報が山賊団全体に知れ渡り、副長のテオドル・バックマンが布告担当官の役割から開放されると、今度は別の、より深刻な問題が彼の双肩にのしかかった。
バックマンは目下のところ、首領を失った集団の、暫定的な取りまとめ役という立場なのだ。誰かが正式にリースベットの後任者となり、物寂しく空いたままの玉座に座らねばならない。問題はその玉座が、輝かしい権力の座どころか拷問椅子にさえ見えることだ。立場に付随する重責に、だれも候補者として手を上げたがらない。
バックマンは山賊団の主要な人物たちを食堂に招集し、さっそく問題の解決に取り掛かった。
「さて、偉大な創始者を失った山賊は、散り散りになって、職を失った鉱山労働者と山道のごろつきに戻るか?」
「冗談だろ?」
「嫌よそんなの」
「同感だ。悪いが俺は、そんなに諦めのいいほうじゃなくてね」
「しかし、あの頭領の代わりか……」
拠点の拡張工事などを指揮していたクリンゲンバリがつぶやく。彼は元鉱夫たちの代表という立場だ。
他にはアウロラ・シェルヴェンとエステル・マルムストレム、ドグラスやヨンソン、鑑定士オスカリウスなどが顔を並べている。その後ろには、長老と呼ばれている盲目の老人の姿もあった。彼がこうした場所に居合わせることは珍しい。
「……リースベットは出ていく時、後をアウロラちゃんに任せたいと言っていたわ」
エステルの言葉で、全員の視線がアウロラに集まった。
「私……? 無理よそんなの!」
アウロラは全身を使って否定する。
「だって……リーダーって、戦えればいいってわけじゃないでしょ」
「俺が言うのも何だが、アウロラの言う通りだ。先陣きって戦う力と、人を指示して動かす力は違う」
「なるほど、じゃあ副長のお前が繰り上がるってことか? 俺はそれでも構わねえぞ」
しばらくのあいだ腕を組んでなりゆきを傍観していたドグラスが、ひとつの穏当そうな道を示した。
山賊団の人数が十人を超えた頃から、バックマンが方針を示し、それにリースベットが賛同するという流れで、集団としての性格が確立されてきていた。その点でバックマンは中心人物だったとも言え、彼を指導者に推す者はおそらくドグラスだけではないだろう。
だが当人には、どうやらその気はないようだ。
「俺みたいなのがトップに立つってのは、この山賊団にとっちゃあまりいい選択肢じゃねえな」
「それはお前が、ノーラントの人間じゃねえからか?」
少なくとも食堂内にいる者たちの中で、バックマンの肌だけが際立って浅黒い。移民以外はみな一様に白い肌をもつリードホルムにあって、明確に出自の異なる存在であることは一目瞭然だった。
バックマンは目下のところ、首領を失った集団の、暫定的な取りまとめ役という立場なのだ。誰かが正式にリースベットの後任者となり、物寂しく空いたままの玉座に座らねばならない。問題はその玉座が、輝かしい権力の座どころか拷問椅子にさえ見えることだ。立場に付随する重責に、だれも候補者として手を上げたがらない。
バックマンは山賊団の主要な人物たちを食堂に招集し、さっそく問題の解決に取り掛かった。
「さて、偉大な創始者を失った山賊は、散り散りになって、職を失った鉱山労働者と山道のごろつきに戻るか?」
「冗談だろ?」
「嫌よそんなの」
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「……リースベットは出ていく時、後をアウロラちゃんに任せたいと言っていたわ」
エステルの言葉で、全員の視線がアウロラに集まった。
「私……? 無理よそんなの!」
アウロラは全身を使って否定する。
「だって……リーダーって、戦えればいいってわけじゃないでしょ」
「俺が言うのも何だが、アウロラの言う通りだ。先陣きって戦う力と、人を指示して動かす力は違う」
「なるほど、じゃあ副長のお前が繰り上がるってことか? 俺はそれでも構わねえぞ」
しばらくのあいだ腕を組んでなりゆきを傍観していたドグラスが、ひとつの穏当そうな道を示した。
山賊団の人数が十人を超えた頃から、バックマンが方針を示し、それにリースベットが賛同するという流れで、集団としての性格が確立されてきていた。その点でバックマンは中心人物だったとも言え、彼を指導者に推す者はおそらくドグラスだけではないだろう。
だが当人には、どうやらその気はないようだ。
「俺みたいなのがトップに立つってのは、この山賊団にとっちゃあまりいい選択肢じゃねえな」
「それはお前が、ノーラントの人間じゃねえからか?」
少なくとも食堂内にいる者たちの中で、バックマンの肌だけが際立って浅黒い。移民以外はみな一様に白い肌をもつリードホルムにあって、明確に出自の異なる存在であることは一目瞭然だった。
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