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楽園の涯

3 山道にて 3

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 ロブネルが休憩所の手すりに腰掛けると、黙りこくっていた旅人が唐突に口を開いた。
「……奇遇きぐうとは思わんか、こんなところで出会おうとは」
 旅人がフードを下ろし、怪訝けげんな顔のロブネルが顔をのぞき込む。そこには見知った、しかしさほど親密ともいえない顔があった。
「てめえ……ミルヴェーデン……」
「久しいな、ロブネルよ」
「何者だ?」
「……昔の仕事仲間だ」
 みすぼらしい姿の旅人は、かつてロブネル、フェルディンとともにリースベットたちに戦いを挑んだ、蓬髪ほうはつの剣士ミルヴェーデンだった。賞金稼ぎとして同行した半年ほどの間、彼の求道者ぐどうしゃ然とした行動原理をロブネル――を含む同行者全員――は全く理解できず、ほとんど会話らしい会話もなかった。
 エイデシュテットもロブネルも警戒した様子で、起きているのか眠っているのか分からないミルヴェーデンの顔を凝視している。
「……こんなところで、何をやってやがる?」
「剣の道も絶たれたゆえ、今やもない旅人よ」
「てめえらしいじゃねえか」
「そう思うか。……ときに、故国へ帰り師の元へ帰参した折、いろいろと面白い話を聞いてな。興味はないか?」
「……てめえの“面白い”に共感した記憶はねえな」
 ミルヴェーデンは愉快ゆかいそうに笑う。この状況下でなぜそのように笑えるのか、ロブネルにはやはり理解できなかった。
「そうであったな……しかし、そちらの御仁ごじんはどうかな? 師は今や、カッセル王国軍の指南役も務めておられる。わしと違って政治にも明るい方だ」
「……なんじゃと?」
 ミルヴェーデンがエイデシュテットを横目で見た。エイデシュテットの顔が猜疑さいぎにゆがむ。
「行商で諸国を回る出入りの者が、リードホルムでこんな噂を聞いたそうな。……エイデシュテットなる者が、己が祖国を売り渡して逃げ去ろうとしている、という」
「てめえ……!」
 場が一挙に色めき立ち、ロブネルは外套がいとうの懐に手を入れた。ミルヴェーデンは余裕ありげに笑っているが、細い目の奥には射抜くような鋭い眼光が宿っている。
「なるほど、強請ゆすりというわけか」
「……ふん」
 右の口角を上げていやらしく笑うエイデシュテットを、ミルヴェーデンが一瞥いちべつする。
「旦那、この気違きちがいはそういう奴じゃねえ。それだけは確かだ」
「……どういうことじゃ?」
「ほう、貴様はそう思うのか? ともに賞金稼ぎなどしておったではないか」
「その間てめえが、一度だってフェルディンの野郎からまともに金を受け取ったことがあったか?」
「それは儂が山賊の一件以外、まともに剣を振るわなんだからだ。だが、あれは律儀りちぎな青年でな。宿代などはすべて払ってくれておったわ。儂の方に借りがあるのは明白。それを踏み倒してここにいる儂を、ずいぶんな業突張ごうつくばりとは思わんか」
屁理屈へりくつを……」
 たちこめる殺気をからかうように詭弁きべんろうする、意外なほど饒舌じょうぜつなミルヴェーデンに、ロブネルは調子をくじかれていた。
 エイデシュテットはキョロキョロと周囲を見渡している。馬車はあるが、それを走らせる馬と御者がまだ戻ってきていない。
「さて、無用な問答も大概たいがいにしておこうか」
 ミルヴェーデンがゆっくりと立ち上がった。
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