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ジュニエスの戦い
81 終幕 2
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「やれやれ、困ったものですね……。ウルフ・ラインフェルトはどこまでも、あの方を悩ませ続ける」
リースベットの乱入には驚いた様子のロードストレームだったが、すでに落ち着きを取り戻している。
まっすぐにロードストレームを見据えるリースベットの肩を、フリークルンドが怒りの形相で掴んだ。
「貴様は大公の護衛についていた傭兵だな?! 何の故あって俺を助けた!」
リースベットはフリークルンドの胸ぐらを掴み返す。
「……なぜ助けたか、だと? 言わなきゃわからねえかよ! ラインフェルトもマイエルも、他の大勢の兵士たちもだ、お前のために捨て石になって戦ってんだ。そのお前が負けたら、リードホルムはもう終わりなんだよ」
リースベットの言葉で、フリークルンドの顔から一瞬で怒気が消え去る。
二人は互いの肩と胸ぐらから手を離した。
「遠目に見てるだけでも分かる、あたしじゃあいつには勝てねえ。勝てそうなのは、おそらくお前だけだ」
「俺が……」
二人の背後では、ノアとメシュヴィツが護衛の兵とともに、騎兵部隊を鼓舞して戦っていた。多くの者は疲弊し、思い通りに動かない身体で、それでも気力を振り絞って剣を振るっている。
「悪いがまだ戦ってもらうぞ。傷口を縛れ。もう一戦だ」
リースベットはそう言うと、フリークルンドを置いてロードストレームに向かっていった。
ふたりの二本の刃が雷光のようにぶつかり合う。フリークルンドとの戦いから一転して、けたたましい金属音が周囲に響き渡った。二人の巻き起こす風がブリザードとなり、降り積もった雪が激しく舞い散る。
「貴女は見たところ、近衛兵ではないようですね」
互いの剣を交差した状態で受け止め、鍔迫り合いで二人が向き合った。
「……傭兵だ。あんな連中と一緒にすんな」
「ほう、あの男にも引けを取らない力を持った傭兵とは珍しい」
「お前だって近衛兵じゃねえだろ」
「まあ確かに……それはともかく、いち傭兵がリードホルムの興亡に負うべきものなど無いでしょうに。仕事として割に合わないのでは?」
「……そうもいかない立場なんでね!」
合わせていた剣を跳ね除け、リースベットが攻勢に転じた。
初手の剣戟とは展開がうって変わり、ロードストレームはリースベットの攻撃をほとんど受けず、回避に専念しているように見える。
そうしてリースベットが焦りを感じ始めた刹那、彼女の眉間めがけて鋭い逆撃が放たれた。紙一重の間で回避したリースベットだったが、顔を覆っていた仮面が真っ二つに割れて落ちた。
「これは失礼を。なにか事情があって付けていた仮面でしょうに」
リースベットは舌打ちで答える。
ロードストレームは攻撃をものともせず、微笑みさえたたえながら応じていた。
リースベット自身がフリークルンドに言っていたように、ロードストレームとの間には埋めがたい実力差がある。ロードストレームは最初の手合わせの時点で、それを見抜いていたのだ。
リースベットは距離を取り、左手で顔を隠しつつ身構えている。
リースベットの乱入には驚いた様子のロードストレームだったが、すでに落ち着きを取り戻している。
まっすぐにロードストレームを見据えるリースベットの肩を、フリークルンドが怒りの形相で掴んだ。
「貴様は大公の護衛についていた傭兵だな?! 何の故あって俺を助けた!」
リースベットはフリークルンドの胸ぐらを掴み返す。
「……なぜ助けたか、だと? 言わなきゃわからねえかよ! ラインフェルトもマイエルも、他の大勢の兵士たちもだ、お前のために捨て石になって戦ってんだ。そのお前が負けたら、リードホルムはもう終わりなんだよ」
リースベットの言葉で、フリークルンドの顔から一瞬で怒気が消え去る。
二人は互いの肩と胸ぐらから手を離した。
「遠目に見てるだけでも分かる、あたしじゃあいつには勝てねえ。勝てそうなのは、おそらくお前だけだ」
「俺が……」
二人の背後では、ノアとメシュヴィツが護衛の兵とともに、騎兵部隊を鼓舞して戦っていた。多くの者は疲弊し、思い通りに動かない身体で、それでも気力を振り絞って剣を振るっている。
「悪いがまだ戦ってもらうぞ。傷口を縛れ。もう一戦だ」
リースベットはそう言うと、フリークルンドを置いてロードストレームに向かっていった。
ふたりの二本の刃が雷光のようにぶつかり合う。フリークルンドとの戦いから一転して、けたたましい金属音が周囲に響き渡った。二人の巻き起こす風がブリザードとなり、降り積もった雪が激しく舞い散る。
「貴女は見たところ、近衛兵ではないようですね」
互いの剣を交差した状態で受け止め、鍔迫り合いで二人が向き合った。
「……傭兵だ。あんな連中と一緒にすんな」
「ほう、あの男にも引けを取らない力を持った傭兵とは珍しい」
「お前だって近衛兵じゃねえだろ」
「まあ確かに……それはともかく、いち傭兵がリードホルムの興亡に負うべきものなど無いでしょうに。仕事として割に合わないのでは?」
「……そうもいかない立場なんでね!」
合わせていた剣を跳ね除け、リースベットが攻勢に転じた。
初手の剣戟とは展開がうって変わり、ロードストレームはリースベットの攻撃をほとんど受けず、回避に専念しているように見える。
そうしてリースベットが焦りを感じ始めた刹那、彼女の眉間めがけて鋭い逆撃が放たれた。紙一重の間で回避したリースベットだったが、顔を覆っていた仮面が真っ二つに割れて落ちた。
「これは失礼を。なにか事情があって付けていた仮面でしょうに」
リースベットは舌打ちで答える。
ロードストレームは攻撃をものともせず、微笑みさえたたえながら応じていた。
リースベット自身がフリークルンドに言っていたように、ロードストレームとの間には埋めがたい実力差がある。ロードストレームは最初の手合わせの時点で、それを見抜いていたのだ。
リースベットは距離を取り、左手で顔を隠しつつ身構えている。
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