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ジュニエスの戦い
80 終幕
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ノルドグレーン軍親衛隊長オラシオ・ロードストレームの刃が、近衛兵隊長エリオット・フリークルンドの左肩口を切り裂いた。血しぶきが上がり、降り積もる白い粉雪に赤くまだら模様を作る。
無表情のまま長大な斧槍を横薙ぎに振るうフリークルンドに対し、ロードストレームはかがんで攻撃を避けながら身を翻し、フリークルンドの右膝の外側をジャマダハルで斬り上げた。
痛みを感じていないかのようにフリークルンドがもういちど反撃し、ロードストレームは飛び退いて距離を置く。
「……」
「境界線を見誤りましたね……。怒りを帯びた身体を支えきれるだけの体力が、今の貴方には残っていなかった」
「それがどうした。まだ終わってはいないぞ」
「……仕方ない。あなたはそういう人でしたね」
血に染まりながら仁王立ちするフリークルンドに、ロードストレームが斬りかかった。
フリークルンドは二本のジャマダハルを巧みに受け止めるが、とくに右側からの攻撃を受けると体勢を保てず右膝をつき、身体を反転させて距離を取らざるを得なかった。戦いはまだ続いているが、戦局はすでに決している。
片膝立ちで上体を起こせず、何かを受容したような目で斧槍を地に突き立てるフリークルンドに、ロードストレームが追撃を加えるべく詰め寄せる。
「終わりにしましょう」
振り下ろされた二本のジャマダハルを、二本の短剣が受け止めた。
「何……」
「間一髪だったな」
ジャマダハルを振り払った短剣が閃き、十字の光跡を作った。回避したロードストレームが後方に跳び、大きく距離を開ける。
終極の一撃を止めたのは、仮面の傭兵アネモネ――リースベットだった。
ウルフ・ラインフェルトの指揮下でフリークルンドのための囮を務め終えた彼女は、近衛兵率いる第二攻撃部隊に合流すべく、ノアとともにランガス湖東側を迂回し後を追いかけていたのだ。
ロードストレームは何かを察したように頷き、ゆっくりと前に進み出た。リースベットが剣を構え直し、ロードストレームを見据える。
「悪いが、ここでこいつを殺らせるわけにはいかねえんだ」
「ほう、リードホルムには、まだこれほどの人士が……」
「今のあたしはリードホルムの人間じゃねえが、まあ理由があってな」
「あなたですね、ローセンダール様に近衛兵の所在を見誤らせたのは」
「……正確にはあたしじゃねえ。あの軍略家のじいさんだ」
「やれやれ、困ったものですね……。ウルフ・ラインフェルトはどこまでも、あの方を悩ませ続ける」
リースベットの乱入には驚いた様子のロードストレームだったが、すでに落ち着きを取り戻している。
まっすぐにロードストレームを見据えるリースベットの肩を、フリークルンドが怒りの形相で掴んだ。
無表情のまま長大な斧槍を横薙ぎに振るうフリークルンドに対し、ロードストレームはかがんで攻撃を避けながら身を翻し、フリークルンドの右膝の外側をジャマダハルで斬り上げた。
痛みを感じていないかのようにフリークルンドがもういちど反撃し、ロードストレームは飛び退いて距離を置く。
「……」
「境界線を見誤りましたね……。怒りを帯びた身体を支えきれるだけの体力が、今の貴方には残っていなかった」
「それがどうした。まだ終わってはいないぞ」
「……仕方ない。あなたはそういう人でしたね」
血に染まりながら仁王立ちするフリークルンドに、ロードストレームが斬りかかった。
フリークルンドは二本のジャマダハルを巧みに受け止めるが、とくに右側からの攻撃を受けると体勢を保てず右膝をつき、身体を反転させて距離を取らざるを得なかった。戦いはまだ続いているが、戦局はすでに決している。
片膝立ちで上体を起こせず、何かを受容したような目で斧槍を地に突き立てるフリークルンドに、ロードストレームが追撃を加えるべく詰め寄せる。
「終わりにしましょう」
振り下ろされた二本のジャマダハルを、二本の短剣が受け止めた。
「何……」
「間一髪だったな」
ジャマダハルを振り払った短剣が閃き、十字の光跡を作った。回避したロードストレームが後方に跳び、大きく距離を開ける。
終極の一撃を止めたのは、仮面の傭兵アネモネ――リースベットだった。
ウルフ・ラインフェルトの指揮下でフリークルンドのための囮を務め終えた彼女は、近衛兵率いる第二攻撃部隊に合流すべく、ノアとともにランガス湖東側を迂回し後を追いかけていたのだ。
ロードストレームは何かを察したように頷き、ゆっくりと前に進み出た。リースベットが剣を構え直し、ロードストレームを見据える。
「悪いが、ここでこいつを殺らせるわけにはいかねえんだ」
「ほう、リードホルムには、まだこれほどの人士が……」
「今のあたしはリードホルムの人間じゃねえが、まあ理由があってな」
「あなたですね、ローセンダール様に近衛兵の所在を見誤らせたのは」
「……正確にはあたしじゃねえ。あの軍略家のじいさんだ」
「やれやれ、困ったものですね……。ウルフ・ラインフェルトはどこまでも、あの方を悩ませ続ける」
リースベットの乱入には驚いた様子のロードストレームだったが、すでに落ち着きを取り戻している。
まっすぐにロードストレームを見据えるリースベットの肩を、フリークルンドが怒りの形相で掴んだ。
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