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ジュニエスの戦い

76 フリークルンドとアルバレス

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 リースベットがノルドグレーン軍グスタフソン連隊と戦っていた頃、湖を挟んだジュニエス河谷かこく南側地域でも、二つのリードホルム軍攻撃部隊が激戦を繰り広げていた。
 とくに南の崖際から進軍したトールヴァルド・マイエルの第一攻撃部隊は、2000に満たない数で、5000を超えるノルドグレーン軍を相手に互角以上の戦いを展開している。その鬼気迫る勢いにノルドグレーン軍ノルランデル連隊は圧倒され、危うくマイエルに本陣突撃を許しかねないところまで追い詰められた。ハンメルト連隊の援護がなければ、それは現実のものとなっていただろう。
「トーヴァルド・マイエル……やはり戦場においては、近衛兵よりも警戒すべき存在ね」
 戦闘馬車の席上でつぶやくベアトリス・ローセンダールに、これまでのような余裕の色はない。
 ここで兵力の差配を誤れば、リードホルム軍による本陣突入、すなわちベアトリスの殺害による逆転劇を上演されかねないのだ。

 ラインフェルトとマイエルの部隊に比べ、残りの第二攻撃部隊は規模が小さい。その主要な構成兵員であるリードホルム主力軍の騎兵部隊は、前日の激戦で大きく損耗そんもうしており、すでに一個大隊600を割る程度にまで戦力を減じている。投降したアルフレド・マリーツ隊の残存兵を編入はしたが、それでも総数は1000に満たない。
 全く出自の異なる兵を統合したためか、他の攻撃部隊に比べて動きも緩慢かんまんだ。ベアトリスはその点をいち早く察知し、残数2000ほどのレーフクヴィスト連隊を差し向けて対処していた。
「どうやら勝ったようですね」
 緊張していた表情を幾分緩め、親衛隊長オラシオ・ロードストレームは言った。
「そうね……」
 ベアトリスが気のない言葉を返す。
「いえ……待って」
 亜麻あま色の髪を揺らして座席から立ち上がったベアトリスが、レーフクヴィスト連隊が配されている東方を眺めやった。その場所だけ戦況が急変している。
 防御陣が突撃に破られ始めているのだ。その先頭に立って戦っている者は、近衛兵隊長エリオット・フリークルンドだった。
 彼は湖の南岸をなぞるように移動していた騎兵部隊の中から突如として姿を現したかと思うと、猛然と長大な斧槍ハルバードを振るい、レーフクヴィスト連隊を攻撃し始めたのだ。その様子はさながら、危機を察知して眠りから覚めた獣のようだった。
 ロードストレームの浅黒い肌が、わずかに青ざめた気がした。
「あれは……馬鹿な」
「……近衛兵は、ラインフェルトに同行していたのではなかったの……?」
 近衛兵に比肩ひけんする力を持った傭兵アネモネ――リースベットの力を見込んでラインフェルトが講じた偽装工作が、見事に功を奏した。
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