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ジュニエスの戦い
62 反撃 5
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「そういえばマイエル将軍は、リードホルムでの軍歴はさほど長くないのだったな」
「とは言っても二十年近くにはなりますが、レイグラーフ様やラインフェルト将軍のような生え抜きの軍人とは異なります。かつてはカッセルで修行をしていたのだとか」
「カッセルか……あの国とは何かと縁があるようだ」
「あー、ますますどっかで聞いたことがある」
リースベットは絹のような髪をかきむしりながら、記憶の糸を手繰っていた。
その思考を地鳴りのような蹄の音が遮った。多数の騎兵が、左前方を前線に向けて駆け抜けてゆく。レイグラーフが突撃を指示した千二百の騎兵部隊が、ようやく動いたのだ。
「やっと出したか、虎の子の騎兵部隊」
「ここで形勢を逆転できれば、敵の撤退や講和も見えてくるのだ……よし、我らも続こう。ここが分水嶺だ!」
「ノア様……! このさい止めても無駄なことはわかりましたが……アネモネといったな、ノア様を頼むぞ」
「任しとけ。指一本触れさせやしねえよ」
メシュヴィツは深い溜め息をつき、祈るような気持ちを抱えつつ、前線に向かって馬を駆るノアとアネモネ――リースベットの背中を追った。
ジュニエス河谷に姿を現して以来、目の覚めるような快進撃を続けていたマイエルの重装騎馬部隊だったが、その先鋒を走り続けていたマイエル当人だけは、わずかずつではあるが失速を感じていた。
――混乱の極にあったノルドグレーン軍が、徐々に態勢を立て直しつつあるようだ。
「奴ら、対応が早いわ。風通しが悪くなってきおった」
グラスの底に沈んだ澱のような違和感が確信に変わったのは、ノルドグレーン軍ハンメルト連隊の陣を抜け、その後方に控えていたレーフクヴィスト連隊と対峙したときだった。
マイエルはノルドグレーン軍の変化を察知し、直線的な突撃から円を描くように進路を変えた。そして円弧の一点をノルドグレーンが展開する横陣に外接させる形の軌跡を描いて走り、同一箇所への波状攻撃によって、密集陣形の一辺を削り取ってゆく。
渦巻く台風のような攻撃を三度ほど繰り返したのち、ついにマイエルの重装騎馬部隊がその足を止めた。
――この陣の後方に抜けることは不可能だ。
戟塵に荒ぶる馬を諌めるマイエルのもとに、彼の部下が続々と集結してくる。
「マイエル様、次はどちらへ」
「うむ……」
猛禽のような目をぎょろつかせ、マイエルは戦況を精査しているようだ。
「主力軍の騎兵も上がってきておるか。このまま攻め続けてもよいが……」
「いかがなさいました?」
「……あの部隊は何じゃ?」
マイエルはリードホルム軍の後方を移動する、主力軍とは別の部隊に目を留めた。
「……どうやら、アルフレド・マリーツの部隊のようです。ラインフェルト将軍の弟子の」
「ほう……あれがラインフェルトの……」
騎兵と歩兵からなる総数600のマリーツ大隊は、主力騎兵部隊と同様に攻撃命令を受けており、今まさに前線に向かう途上にあった。
「奴には借りがある。奴のおかげでこの戦場に立っていられるのだからな。ひとつ、その借りを返してやるとするか」
「とは言っても二十年近くにはなりますが、レイグラーフ様やラインフェルト将軍のような生え抜きの軍人とは異なります。かつてはカッセルで修行をしていたのだとか」
「カッセルか……あの国とは何かと縁があるようだ」
「あー、ますますどっかで聞いたことがある」
リースベットは絹のような髪をかきむしりながら、記憶の糸を手繰っていた。
その思考を地鳴りのような蹄の音が遮った。多数の騎兵が、左前方を前線に向けて駆け抜けてゆく。レイグラーフが突撃を指示した千二百の騎兵部隊が、ようやく動いたのだ。
「やっと出したか、虎の子の騎兵部隊」
「ここで形勢を逆転できれば、敵の撤退や講和も見えてくるのだ……よし、我らも続こう。ここが分水嶺だ!」
「ノア様……! このさい止めても無駄なことはわかりましたが……アネモネといったな、ノア様を頼むぞ」
「任しとけ。指一本触れさせやしねえよ」
メシュヴィツは深い溜め息をつき、祈るような気持ちを抱えつつ、前線に向かって馬を駆るノアとアネモネ――リースベットの背中を追った。
ジュニエス河谷に姿を現して以来、目の覚めるような快進撃を続けていたマイエルの重装騎馬部隊だったが、その先鋒を走り続けていたマイエル当人だけは、わずかずつではあるが失速を感じていた。
――混乱の極にあったノルドグレーン軍が、徐々に態勢を立て直しつつあるようだ。
「奴ら、対応が早いわ。風通しが悪くなってきおった」
グラスの底に沈んだ澱のような違和感が確信に変わったのは、ノルドグレーン軍ハンメルト連隊の陣を抜け、その後方に控えていたレーフクヴィスト連隊と対峙したときだった。
マイエルはノルドグレーン軍の変化を察知し、直線的な突撃から円を描くように進路を変えた。そして円弧の一点をノルドグレーンが展開する横陣に外接させる形の軌跡を描いて走り、同一箇所への波状攻撃によって、密集陣形の一辺を削り取ってゆく。
渦巻く台風のような攻撃を三度ほど繰り返したのち、ついにマイエルの重装騎馬部隊がその足を止めた。
――この陣の後方に抜けることは不可能だ。
戟塵に荒ぶる馬を諌めるマイエルのもとに、彼の部下が続々と集結してくる。
「マイエル様、次はどちらへ」
「うむ……」
猛禽のような目をぎょろつかせ、マイエルは戦況を精査しているようだ。
「主力軍の騎兵も上がってきておるか。このまま攻め続けてもよいが……」
「いかがなさいました?」
「……あの部隊は何じゃ?」
マイエルはリードホルム軍の後方を移動する、主力軍とは別の部隊に目を留めた。
「……どうやら、アルフレド・マリーツの部隊のようです。ラインフェルト将軍の弟子の」
「ほう……あれがラインフェルトの……」
騎兵と歩兵からなる総数600のマリーツ大隊は、主力騎兵部隊と同様に攻撃命令を受けており、今まさに前線に向かう途上にあった。
「奴には借りがある。奴のおかげでこの戦場に立っていられるのだからな。ひとつ、その借りを返してやるとするか」
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