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ジュニエスの戦い
38 不羈の戦士 3
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「おのれ、この俺を愚弄しおって!」
「隊長、お待ちを」
悠然と笑うベアトリスに激昂したフリークルンドを、すぐにハセリウスが制した。
「おそらく敵の目的は、我々を主戦場から引き離す、ただそれだけです」
「なんだと?」
「我らが単独行動をとっていた昨日と比べ、主力軍とともに戦っている今日は明らかに戦況が優勢。敵はそれを変えたいのではないかと」
「たかがそのためだけに、手の込んだ真似を……!」
「前線の被害が、よほど大きかったのでしょう」
「ふん、ではこの茶番に付き合うだけ、奴らの思う壺というわけか」
フリークルンドはうんざりした顔で斧槍を肩に担いだ。
「やはり向かってきましたね」
「さあ、昨日のような対近衛兵の防御陣はございませんことよ」
「おや……?」
涼しい顔で近衛兵を眺め下ろすベアトリスとロードストレームの表情が変わった。立ち止まって話し合っていた近衛兵が、ふたたびノルドグレーン軍めがけて動き出したのだ。
「このあたりで退くと思っていたのだけれど……」
「お嬢様、退避せねば」
「ええ。頼みますわ」
近衛兵はフリークルンドを先頭に、ベアトリスが乗っていたのとは別の戦闘馬車めがけて一直線に突進している。
阻もうとするノルドグレーン兵たちを竜巻が移動するように蹴散らし、方陣をひとつ突破すると、近衛兵は二手に分かれた。半数を副隊長のハセリウスが率い、そちらの別働隊はフリークルンドとは別の戦闘馬車を狙っている。
前日の荊叢回廊陣形よりも防御力が低いと見たフリークルンドが、隊の分割を指示したのだった。
近衛兵はほぼ同時に二つの戦闘馬車に襲いかかったが、いずれにもベアトリスの姿はなかった。
そして、次の標的に向けて走り出すかとノルドグレーン軍が身構えたところで、フリークルンドは兵をまとめて撤退していった。
「ふん、あるいは敵指揮官を討てるかと思ったが……ここらが潮時だ」
「深追いしては、いたずらに兵を失うのみ。慧眼にございます」
フリークルンドは、迅速な再集結と撤退が可能な距離や部下の継戦能力を勘案し、突撃は一度だけと決め、失敗したと見るや速やかに撤退していったのだった。
遠く離れた戦闘馬車から、ベアトリスは遠ざかる近衛兵の姿を眺めていた。
「なるほど。そういう、戦場での目端は利く男のようね」
「手強いですね……」
「思ったよりは、ね」
「ですね」
「あれなら、決定的な脅威にはならないわ」
ベアトリスは亜麻色の髪をかき上げ、風に舞わせながら笑う。
「序盤の嫌がらせがラインフェルトの献策でも、それを厳守する気はない、と」
「どうやら指揮系統が統一されていないようですね」
「そう。これでわかりました。やはり陣形を所定に戻します」
ベアトリスはこの大掛かりな目くらましを用いて、近衛兵を前線から引き剥がすだけでなく、その動向を観察していたのだった。
「隊長、お待ちを」
悠然と笑うベアトリスに激昂したフリークルンドを、すぐにハセリウスが制した。
「おそらく敵の目的は、我々を主戦場から引き離す、ただそれだけです」
「なんだと?」
「我らが単独行動をとっていた昨日と比べ、主力軍とともに戦っている今日は明らかに戦況が優勢。敵はそれを変えたいのではないかと」
「たかがそのためだけに、手の込んだ真似を……!」
「前線の被害が、よほど大きかったのでしょう」
「ふん、ではこの茶番に付き合うだけ、奴らの思う壺というわけか」
フリークルンドはうんざりした顔で斧槍を肩に担いだ。
「やはり向かってきましたね」
「さあ、昨日のような対近衛兵の防御陣はございませんことよ」
「おや……?」
涼しい顔で近衛兵を眺め下ろすベアトリスとロードストレームの表情が変わった。立ち止まって話し合っていた近衛兵が、ふたたびノルドグレーン軍めがけて動き出したのだ。
「このあたりで退くと思っていたのだけれど……」
「お嬢様、退避せねば」
「ええ。頼みますわ」
近衛兵はフリークルンドを先頭に、ベアトリスが乗っていたのとは別の戦闘馬車めがけて一直線に突進している。
阻もうとするノルドグレーン兵たちを竜巻が移動するように蹴散らし、方陣をひとつ突破すると、近衛兵は二手に分かれた。半数を副隊長のハセリウスが率い、そちらの別働隊はフリークルンドとは別の戦闘馬車を狙っている。
前日の荊叢回廊陣形よりも防御力が低いと見たフリークルンドが、隊の分割を指示したのだった。
近衛兵はほぼ同時に二つの戦闘馬車に襲いかかったが、いずれにもベアトリスの姿はなかった。
そして、次の標的に向けて走り出すかとノルドグレーン軍が身構えたところで、フリークルンドは兵をまとめて撤退していった。
「ふん、あるいは敵指揮官を討てるかと思ったが……ここらが潮時だ」
「深追いしては、いたずらに兵を失うのみ。慧眼にございます」
フリークルンドは、迅速な再集結と撤退が可能な距離や部下の継戦能力を勘案し、突撃は一度だけと決め、失敗したと見るや速やかに撤退していったのだった。
遠く離れた戦闘馬車から、ベアトリスは遠ざかる近衛兵の姿を眺めていた。
「なるほど。そういう、戦場での目端は利く男のようね」
「手強いですね……」
「思ったよりは、ね」
「ですね」
「あれなら、決定的な脅威にはならないわ」
ベアトリスは亜麻色の髪をかき上げ、風に舞わせながら笑う。
「序盤の嫌がらせがラインフェルトの献策でも、それを厳守する気はない、と」
「どうやら指揮系統が統一されていないようですね」
「そう。これでわかりました。やはり陣形を所定に戻します」
ベアトリスはこの大掛かりな目くらましを用いて、近衛兵を前線から引き剥がすだけでなく、その動向を観察していたのだった。
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