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逆賊討伐

30 つかの間の平穏 3

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 その話を聞いたフェルディンは顎に手を当ててうめき、原罪げんざいつぐないだとか、その帳尻ちょうじりとはこの世界と僕のいた世界との、などと真剣な顔でぶつぶつつぶやいている。
「あんたら義兄弟の功績を認めてねえ奴はいねえ。ゆっくりしていってくれや」
 バックマンがそう言って立ち上がると、食堂内が晴れやかな歓声に包まれた。入口にアウロラと、彼女に右肩を支えられたリースベットが姿を見せたのだ。
「よっ、俺達の英雄のお目覚めた」
「誰が英雄だ。あたしらは女だぞ」
「ノルドグレーンじゃ、最近は女でも英雄で通すらしいぜ」
 バックマンはフェルディンの向かいの椅子を引き、二人に勧めた。
「大丈夫なのか、ふたりとも」
「お腹が空く程度にはね」
「マジで弱ってると、エンドウマメのスープすら喉を通らねえからな」
 バックマンの気遣いも当然のことで、二人の顔にはまだ疲労の色が強く残っていた。その上アウロラは負傷した右腕を首にかけた麻布あさぬので吊り、リースベットは両方の手から上腕全体に包帯を巻いている。
「アウロラ、この旦那が副隊長を倒した賞金稼ぎだ」
「君か、主要出入り口を守ったという少女は」
「ああ、あんたこの前来てた……わたしはアウロラ」
「正義の守護者、ラルフ・フェルディンだ」
「……」
 アウロラは眉間みけんにしわを寄せてフェルディンを見やる。
「なんか聞くたび二つ名が変わってねえか、アホマント」
「人は移ろいゆくもの」
 席に着いたリースベットは、料理に手を出すより先に、苦痛に顔を歪めながら腕に革の水筒を当てた。水筒の中には、今朝降ったばかりの雪が詰め込まれている。
 アムレアンの剣を折るため限界を超えて酷使こくしされたリースベットの両腕は筋繊維がひどく損傷しており、ときどき冷却するようにエステルから言われていたのだ。
 テーブルを囲むように、他の山賊たちが続々と集まってくる。バックマンが切り分けたフィンカハムやサンドイッチを口にしながら、アウロラがリースベットに尋ねた。
「そういえばリースベット、この人と行った研究所って、なにか収穫があったの?」
「そいつだよ。とんでもねえ仕事だった。収穫どころか閉じ込められて火を放たれたんだからな」
 リースベットは軽い調子で言うが、食堂全体がざわめいた。
「穏やかじゃねえな」
「じゃあ、やっぱり罠だったのね」
「……おそらくは」
 フェルディンがうなずく。
「研究所の話を持ってきたのは、この少女に敗れたロブネルという男だった」
「そのロブネルってのは、裏で誰かと繋がってたのか?」
「わからない。もともとはカッセルで、虐殺まがいの狩りを繰り返していた賞金首だったのだが……」
「よくそんな奴を仲間に引き入れたもんだな」
「更生させられるかと思って……」
 リースベットは呆れたように鼻で笑った。
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