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逆賊討伐

28 つかの間の平穏

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 近衛兵たちが去った日の夜、ティーサンリード山賊団の暮らすラルセン山には遅い初雪が降った。雪はせきを切ったように一晩中降り続き、翌朝には一面の銀世界が広がっていた。

「おう旦那、調子はどうだ?」
「ああ、もう大丈夫だ」
 杖をつきながら食堂に姿を表したフェルディンに、バックマンがやけに明るい調子で声をかけた。
 近衛兵の撃退から二日後、ようやく緊張が解けて勝利を実感しはじめたティーサンリードの面々は、ささやかな戦勝会を開いていた。
 フェルディンがテーブルに杖を立てかけて席に着くと、バックマンが木皿と飲み物を渡した。みな陽気に騒いでいるが、飲み物には酒精は入っていないようだ。
「しかし驚かされることばかりだな」
「今度は何があった?」
「傷の手当ができる者がこれほど多いとは」
「こんな稼業かぎょうだからな。一人ちゃんと医術を学んだことがある奴がいた、ってのは大きいが……弟分はどうだ?」
「問題ないだろう。あの分だと、一週間もあれば元通りだ」
「ほんとに同じ人間かよ」
 バックマンは声を上げて笑った。戦闘終結の直後はおびただしい出血でやつれていたカールソンだったが、みるみるうちに血色と食欲を取り戻している。
「リースベットの様子は? まだ目を覚まさないのか?」
「命に別状はないようだがな……よほど無理をしたんだろう」
「あの副隊長の、さらに上に立つ者と戦って、か……」
「正直俺は、頭領カシラでもあの隊長には勝てないんじゃないかと思ってた」
「それほどの力だったのか」
「ああ。うちには頭領に近い実力のリーパーがもう一人いるが、そいつが全く歯が立たなかったからな」
「かつてカールソンと戦ったという少女だな」
 そのアウロラも、この戦勝会には顔を出していない。
 アムレアンに受けた肩の傷が思いのほか深く、上腕にもひびが入っていた――という負傷の重さもあるが、年の離れた大人たちに混じって騒ぐ気になれなかったことが、理由の最たるものだ。
 フェルディンは食事をしながら木皿をもう一つもらい、あてがわれた部屋で眠っているカールソンのための食事をよそった。テーブルの上には巨大なフィンカハムや真っ赤にで上がった川海老、魚介や野菜を挟んだパンをケーキのように飾ったサンドイッチケーキなどが所狭しと並んでいる。
「しかしあんた、よく戻ってきて戦う気になれたな。仲間がいるっても、相手はあの近衛兵だぜ」
「……君も聞いていたな、僕の過去の話を」
「最初に会ったときのか?」
「そうだ。僕は今でも、本気で家に帰ろうと思っている」
「だからこそ、今度の仕事も頼みに来たんだったな」
「そうしていつか、家に帰ってきた父親が、自分をしたう者や弱者を見捨てて逃げ帰ってきた卑劣ひれつな男だったとしたら、子供はどう感じるだろうか……」
「弱者、っつーのがちと引っかかるが……父親って役割を果たしたいわけか」
「役割……そうだな。まず僕自身が、逃げなければ生きられない存在ではない。戦える力を授かっているのだから、おそらく戦うのが役割だろう」
「そんな話を昔、どっかで聞いたな」
「子供はそういうところに敏感だ。言葉で伝えなくてもな」
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