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逆賊討伐

26 帰還 2

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「ば、バカ言ってんじゃねえ。おれは自分の足で歩いていけるぜ……」
 カールソンはそう言いながら立ち上がり、ふらついて地面に倒れた。落盤のような地響きで小鳥たちが飛び去る。
「しょうがねえなあ。おい誰か、力が余ってる奴を四人よったりも寄越してくれや」
 隻眼せきがんのヨンソンが出入り口に向かって呼びかけると、体格のよい山賊たちがいそいそと駆け出してくる。
 屈強な男たちが五人総出で、気を失ったカールソンの鎧を引き剥がしにかかった。
「旦那も治療が必要だろ。掴まれ」
「すまない。太腿の傷が深くてな……」
 ずっと片膝を付いたままの姿勢でいたフェルディンに、バックマンが肩を貸した。
「あんたが戻ってきたってことは、うちの頭領カシラも来てるんだよな?」
「ああ。リースベットは主要出入り口の方へ向かった。そちらのほうに敵の主力がいるだろうから、とな」
「てことは、あの隊長とカチ合ってるな……」
「さっきの男は副隊長だと言っていた。あれより強い、ということか」
「おい、手の開いてるやつは来てくれ。得物を持ってな」
 バックマンは険しい顔で通路の奥に呼びかけた。
「この旦那を医療室に運んでくれ。戦える奴らは、正面口に向かってるはずの頭領を探しに行くぞ」
「バックマン、その必要はねえぞ」
 ラルセンのアカマツ林に続く道の先から、ユーホルトの声がした。バックマンが振り返ると、そこには老弓師とその弟子に両肩を担がれた、血に汚れたリースベットの姿があった。
「頭領! リースベット! 無事か?!」
「ずいぶんひでえ有様だが、死んでねえ。安心しろ」
「気を失ってて、目を覚ます気配もないです。この寒空の中、発見が遅れてたら風邪までひきましたかね」
 二人の肩に力なく支えられるリースベットは、拷問でも受けたように左右の上腕に無数の傷があり、額や頬にも出血の跡がある。
 だが確かに呼吸をしており、今は安らかな眠りの中にいるようだ。
「……近衛兵の、隊長とやらは?」
 フェルディンがユーホルトに聞いた。彼らはこれがほぼ初顔合わせだ。
「それっぽい奴ともう一人、すぐとなりで死んでたよ」
「胸の隊章が違う、髪の長い奴か?」
「ああ、そいつだ」
「そうか……」
 バックマンはようやく芯から安堵あんどし、穏やかな表情になった。ユーホルトは傷だらけのフェルディンを見て、物珍しそうにしている。
「しかし何だ、今回は客人も戦ったのか」
「ラルフ・フェルディンだ。僕が倒したのは副隊長ということだったが……」
「そりゃ大したもんだ。戦勝会でも開くか。確かお前さんから、たんまりと仕事の報酬ほうしゅうをいただいてたろう。その金でな」
「あ、ああ」
 ユーホルトはそう言って笑い、リースベットの肩をバックマンに預けた。
「しかしバックマン、お前さん今回は表に出ずに、指揮に専念するんじゃなかったのか?」
 バックマンはおさまりの悪い黒髪をかきむしり、自嘲じちょうするように笑う。
「まったくだ。俺には指揮官なんて無理だな。結局いつの間にか前に出ちまった」
、近衛兵と戦う策は『刺し違える』だからな。大した軍師様だったぜ」
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