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逆賊討伐
22 義兄弟 3
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「そうか。では断る」
「あらま。なんで?」
「これでも僕は妻子持ちでね。妻に浮気を疑われるような真似は控えたい」
フェルディンはそう言うと長剣を鞘に収め、右手は柄にかけたまま、腰を落とした姿勢で身構えた。
リンドは呆れたように首を横に振ってせせら笑う。
「理解不能だね。リーパーなのに近衛兵にも入らず、挙げ句ひとりの女に縛られる生き方を選ぶなんて!」
三たびリンドが間合いを詰める。だが今度はフェルディンが先に仕掛けた。腰だめの体勢から剣を抜いて薙ぎ払う。しかしリンドは大きく跳躍してフェルディンの背後に着地し、そこから攻勢をかけた。フェルディンは体勢を立て直して応じ、剣舞を高速化したような苛烈な攻防が続く。
変化は不意に訪れた。リンドの薙ぎ払いを上体をそらして避けたフェルディンの右太腿に激痛が走る。フェルディンはとっさに剣を振るって反撃し、リンドはまたも宙返りで飛び退いた。
いつの間にかリンドの左手には、右のレイピアよりも短い左手用短剣が握られていた。
「惜しいねー。ちょっと浅かった」
「そのロングブーツに忍ばせていたのか……」
「さて、その傷と痛みで、今までみたいに動けるかな?!」
リンドは加虐的な笑みを浮かべて攻めかかる。フェルディンは見切りと剣による防御を組み合わせて手数の増えた猛攻に対抗するが、時間とともに戦況は劣勢に転じつつあった。
リンドのマインゴーシュが、フェルディンの腕や肩をたびたび捉えている。レイピアの攻撃は致命傷となりうるため、フェルディンは軽傷で済むマインゴーシュの突きを選択的に受けざるを得なかった。
「なんだかヤバそうだな……」
「クソッ、副隊長でもこれだけの強さか……」
「兄貴が……そんなはずはねえ……」
近衛兵の力と自身の無力に歯噛みするバックマンのそばから、カールソンがよろよろと歩き出した。
「おい、どうするつもりだ」
「兄貴!」
「カールソン、来るな!」
カールソンは血しぶきを上げながら走り出し、リンドとフェルディンの間に割って入った。
「邪魔なんだよウスノロ!」
リンドは両腕を広げたカールソンの右脇部分からマインゴーシュを突き入れた。身体を貫通した剣先が鎧の内側に当たる音がするほど深く突き刺さり、カールソンは苦悶のうめき声を上げる。
だがカールソンが脇を締めて身を縮めると、リンドの表情が変わった。
「こいつ……! 刀身を鎧で挟み込みやがった?!」
鎧の金属板で噛み合わされたマインゴーシュが折れ曲がり、鈎のように引っかかっている。カールソンは左腕を振りかぶった。
「おれはお前みたいな……へらへらした優男が大っ嫌いなんだよ!」
強力ではあっても鈍重な拳はあえなく空を切る。リンドは舌打ちしながらマインゴーシュを手放したが、その判断はわずかに、だが致命的に遅かった。
カールソンを飛び越えてリンドの背後に回ったフェルディンの剣が、リンドの振り向きざまに、眉間から垂直に切り裂いた。
振り下ろされた剣は地面を割き、針葉樹の枯れ葉を舞い上げる。
「だから……顔はやめろって……」
整った優美な顔を鮮血に染めたリンドが、膝からゆっくりと、地面に崩れ落ちた。
「あらま。なんで?」
「これでも僕は妻子持ちでね。妻に浮気を疑われるような真似は控えたい」
フェルディンはそう言うと長剣を鞘に収め、右手は柄にかけたまま、腰を落とした姿勢で身構えた。
リンドは呆れたように首を横に振ってせせら笑う。
「理解不能だね。リーパーなのに近衛兵にも入らず、挙げ句ひとりの女に縛られる生き方を選ぶなんて!」
三たびリンドが間合いを詰める。だが今度はフェルディンが先に仕掛けた。腰だめの体勢から剣を抜いて薙ぎ払う。しかしリンドは大きく跳躍してフェルディンの背後に着地し、そこから攻勢をかけた。フェルディンは体勢を立て直して応じ、剣舞を高速化したような苛烈な攻防が続く。
変化は不意に訪れた。リンドの薙ぎ払いを上体をそらして避けたフェルディンの右太腿に激痛が走る。フェルディンはとっさに剣を振るって反撃し、リンドはまたも宙返りで飛び退いた。
いつの間にかリンドの左手には、右のレイピアよりも短い左手用短剣が握られていた。
「惜しいねー。ちょっと浅かった」
「そのロングブーツに忍ばせていたのか……」
「さて、その傷と痛みで、今までみたいに動けるかな?!」
リンドは加虐的な笑みを浮かべて攻めかかる。フェルディンは見切りと剣による防御を組み合わせて手数の増えた猛攻に対抗するが、時間とともに戦況は劣勢に転じつつあった。
リンドのマインゴーシュが、フェルディンの腕や肩をたびたび捉えている。レイピアの攻撃は致命傷となりうるため、フェルディンは軽傷で済むマインゴーシュの突きを選択的に受けざるを得なかった。
「なんだかヤバそうだな……」
「クソッ、副隊長でもこれだけの強さか……」
「兄貴が……そんなはずはねえ……」
近衛兵の力と自身の無力に歯噛みするバックマンのそばから、カールソンがよろよろと歩き出した。
「おい、どうするつもりだ」
「兄貴!」
「カールソン、来るな!」
カールソンは血しぶきを上げながら走り出し、リンドとフェルディンの間に割って入った。
「邪魔なんだよウスノロ!」
リンドは両腕を広げたカールソンの右脇部分からマインゴーシュを突き入れた。身体を貫通した剣先が鎧の内側に当たる音がするほど深く突き刺さり、カールソンは苦悶のうめき声を上げる。
だがカールソンが脇を締めて身を縮めると、リンドの表情が変わった。
「こいつ……! 刀身を鎧で挟み込みやがった?!」
鎧の金属板で噛み合わされたマインゴーシュが折れ曲がり、鈎のように引っかかっている。カールソンは左腕を振りかぶった。
「おれはお前みたいな……へらへらした優男が大っ嫌いなんだよ!」
強力ではあっても鈍重な拳はあえなく空を切る。リンドは舌打ちしながらマインゴーシュを手放したが、その判断はわずかに、だが致命的に遅かった。
カールソンを飛び越えてリンドの背後に回ったフェルディンの剣が、リンドの振り向きざまに、眉間から垂直に切り裂いた。
振り下ろされた剣は地面を割き、針葉樹の枯れ葉を舞い上げる。
「だから……顔はやめろって……」
整った優美な顔を鮮血に染めたリンドが、膝からゆっくりと、地面に崩れ落ちた。
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