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逆賊討伐
18 鉄壁
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アウロラたちが戦っていた通路より西の山中には、針葉樹の落ち葉に覆われた地面に、わずかに人の歩いた痕跡が残っている場所があった。その丘陵のあいだに西向きに口を開けているのが、ティーサンリード山賊団拠点の予備出入り口だ。
付近には十人ほどの男たちが集結している。うち五人はリンド副隊長率いる近衛兵、残りの半数はテグネール隊長率いる連合部隊の者たちだ。優男のリンドは、戦場に臨んでいるようには見えないあっけらかんとした表情で、不安げな顔のテグネールと話している。
「じゃあ夜営の準備頼むよ、おじさん」
「しかし……」
「だってあんたら、戦闘に参加しろって指令は受けてないでしょ?」
「それはそうですが」
テグネールの言葉を遮り、何かを思いついたようにリンドが指を鳴らした。
「でもそうだな、道のりの要所に何人か残して、もし隊長たちがこっちに来るなら道案内してもらおうかな」
「それくらいであれば……くれぐれもお気をつけて」
「いやー、それくらい、って言えるレベルの仕事じゃないよ。オレらがここを見つけてることはもうバレてる」
リンドはそう言って、地面をのたうつ細いロープをつまみ上げた。
「奴ら、こいつで気付いてるはずさ」
「何もなかった罠で、ですか?」
「そ。おそらくこれは、部外者の接近を知らせるしかけだよ。この中に誰かが待ち受けてるのはもちろんだし……他に出入り口があれば、また奇襲を受けかねない」
「確かにその可能性はありますな……」
「だから危険な仕事だって言ったの。じゃ、そういうことでよろしくー」
リンドはにこやかな笑顔で手を振る。テグネールはその笑顔にそら恐ろしさを覚えた。
物腰が軽いリンドは、表面的には居丈高なアムレアンよりも接しやすい。だが、その実より冷酷なのはおそらく、リンドの方だ。
――この男はこの笑顔のまま、必要なくなれば誰であろうと斬り捨てるだろう。テグネールは無言で頭を下げ、近衛兵たちの前から立ち去った。
「さてさて、バカみたいに正面突破するしか手が残ってないのが悔しいね」
軽口を叩きながら、リンドは緩やかな上り坂になっている入り口を覗き込んだ。
山の斜面を掘り抜き、梁で天井を支えているだけの簡素な通路の真ん中には、銀色の板金鎧を着込んだ大男が腕組みをし、あぐらをかいて座っている。ラルフ・フェルディンの弟分、偉丈夫のクリスティアン・カールソンだ。
「あれが門番ってわけか。ずいぶん頑丈そうだこと」
「副隊長、プレートアーマーならば私にお任せください」
そう言って一人の近衛兵が進み出た。
「そうだねブランソン、あんたに頼もうか」
「承知!」
自信ありげにカールソンの相手を買って出たブランソンは、背丈はリンドよりも低い。だが軍装越しでも分かるほど腕や肩の筋肉が隆起している。近衛兵の中でも屈指の腕力の持ち主であり、幅が広く重量のある長剣で頑丈な金属鎧ごと叩き斬る、一撃必殺の剣を身上としていた。
カールソンがゆっくりと立ち上がり、左の手のひらを右の拳で叩く。呼応するようにブランソンが前に出た。
ブランソンは長剣を大きく振りかぶり、右肩を前にして突進してくるカールソンを殴りつけるように振り下ろす。岩さえ砕けそうなその一撃は、カールソンを吹き飛ばし左の壁に叩きつけた。凄まじい剛力に、分厚い鎧の肩当ては大きくへこんでいる。だがその衝撃にはブランソンの剣も耐えることができず、砕けた刀身の破片が入口の外まで弾け飛んだ。
「痛え……まったく、なんて力だよ」
「馬鹿な、この剣が砕けただと……」
ブランソンは剣の柄を取り落とした。
分厚い鎧を破壊できずに剣を通じて跳ね返ってきた衝撃は、彼の手の骨に無数のひび割れを刻んでいたのだ。呆然と立ち尽くすブランソンの左頬にカールソンの右拳がめり込み、その体を入口まで吹き飛ばした。
「ありゃ。まいったね」
リンドはそれほど動じた様子もなく、苦笑しながらつぶやいた。
付近には十人ほどの男たちが集結している。うち五人はリンド副隊長率いる近衛兵、残りの半数はテグネール隊長率いる連合部隊の者たちだ。優男のリンドは、戦場に臨んでいるようには見えないあっけらかんとした表情で、不安げな顔のテグネールと話している。
「じゃあ夜営の準備頼むよ、おじさん」
「しかし……」
「だってあんたら、戦闘に参加しろって指令は受けてないでしょ?」
「それはそうですが」
テグネールの言葉を遮り、何かを思いついたようにリンドが指を鳴らした。
「でもそうだな、道のりの要所に何人か残して、もし隊長たちがこっちに来るなら道案内してもらおうかな」
「それくらいであれば……くれぐれもお気をつけて」
「いやー、それくらい、って言えるレベルの仕事じゃないよ。オレらがここを見つけてることはもうバレてる」
リンドはそう言って、地面をのたうつ細いロープをつまみ上げた。
「奴ら、こいつで気付いてるはずさ」
「何もなかった罠で、ですか?」
「そ。おそらくこれは、部外者の接近を知らせるしかけだよ。この中に誰かが待ち受けてるのはもちろんだし……他に出入り口があれば、また奇襲を受けかねない」
「確かにその可能性はありますな……」
「だから危険な仕事だって言ったの。じゃ、そういうことでよろしくー」
リンドはにこやかな笑顔で手を振る。テグネールはその笑顔にそら恐ろしさを覚えた。
物腰が軽いリンドは、表面的には居丈高なアムレアンよりも接しやすい。だが、その実より冷酷なのはおそらく、リンドの方だ。
――この男はこの笑顔のまま、必要なくなれば誰であろうと斬り捨てるだろう。テグネールは無言で頭を下げ、近衛兵たちの前から立ち去った。
「さてさて、バカみたいに正面突破するしか手が残ってないのが悔しいね」
軽口を叩きながら、リンドは緩やかな上り坂になっている入り口を覗き込んだ。
山の斜面を掘り抜き、梁で天井を支えているだけの簡素な通路の真ん中には、銀色の板金鎧を着込んだ大男が腕組みをし、あぐらをかいて座っている。ラルフ・フェルディンの弟分、偉丈夫のクリスティアン・カールソンだ。
「あれが門番ってわけか。ずいぶん頑丈そうだこと」
「副隊長、プレートアーマーならば私にお任せください」
そう言って一人の近衛兵が進み出た。
「そうだねブランソン、あんたに頼もうか」
「承知!」
自信ありげにカールソンの相手を買って出たブランソンは、背丈はリンドよりも低い。だが軍装越しでも分かるほど腕や肩の筋肉が隆起している。近衛兵の中でも屈指の腕力の持ち主であり、幅が広く重量のある長剣で頑丈な金属鎧ごと叩き斬る、一撃必殺の剣を身上としていた。
カールソンがゆっくりと立ち上がり、左の手のひらを右の拳で叩く。呼応するようにブランソンが前に出た。
ブランソンは長剣を大きく振りかぶり、右肩を前にして突進してくるカールソンを殴りつけるように振り下ろす。岩さえ砕けそうなその一撃は、カールソンを吹き飛ばし左の壁に叩きつけた。凄まじい剛力に、分厚い鎧の肩当ては大きくへこんでいる。だがその衝撃にはブランソンの剣も耐えることができず、砕けた刀身の破片が入口の外まで弾け飛んだ。
「痛え……まったく、なんて力だよ」
「馬鹿な、この剣が砕けただと……」
ブランソンは剣の柄を取り落とした。
分厚い鎧を破壊できずに剣を通じて跳ね返ってきた衝撃は、彼の手の骨に無数のひび割れを刻んでいたのだ。呆然と立ち尽くすブランソンの左頬にカールソンの右拳がめり込み、その体を入口まで吹き飛ばした。
「ありゃ。まいったね」
リンドはそれほど動じた様子もなく、苦笑しながらつぶやいた。
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