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逆賊討伐
16 敗北
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近衛兵隊長のアムレアンは、アウロラの攻撃を大剣のひと薙ぎで払いのけた。アウロラは右肩に傷を負い、大きく弾き飛ばされ床を転がる。
「大した娘だ。近衛兵以外にこれほどの技を持つ者がいるとは、驚嘆に値する」
その言葉とは裏腹に、アムレアンの表情は固く冷たい。
「クソッ、やっぱり隊長格は桁が違うのか……」
肩を押さえて上体を起こすアウロラの背中に、バックマンは絶望感に打ちひしがれながら歯ぎしりするしかなかった。数カ月間リースベットと訓練を共にし、半年前とは見違えるほどの力をつけたアウロラだったが、近衛兵の隊長はそれを遥かに凌駕する実力を備えていたのだ。
それでもアウロラは、ふらつく膝で踏みこたえ立ち上がる。
「まだよ。ここで私が退いたら……」
「ほう、まだ向かってくるか」
「アウロラもういい!」
バックマンの制止も聞かず、アウロラはふたたび挑みかかった。
剣先を下げて構えるアムレアンに対し、持ち前の機動力で左右に撹乱する。だがその意図を見透かしたように、斜めに振り上げられた大剣がアウロラの動きを捉えた。斬撃を受け止めたカリ・スタブもろともアウロラは弾き飛ばされ、甲高い悲鳴が通路に響き渡った。
「残念だったな、娘。もう少し広い場所でなら、その速さもより活きようものを」
アムレアンは冷厳と言い放ち、ゆっくりと大剣を構え直した。アウロラはダメージが大きく、すぐには起き上がれない。
「……限界だな。援護頼む」
バックマンはそう言い残すと、アウロラのもとへ身を低くして駆け出した。気付いたアムレアンが迎撃のため前に出ようとするが、バックマンの背後から飛来する弓矢部隊の援護射撃が前進を阻んだ。
通路の狭さによって自由に身をかわせない近衛兵たちは、飛来する矢を剣で叩き落として防いでいる。
アウロラまであと半歩というところで、一瞬援護射撃が途切れた。アムレアンは前に進み出ながら剣を水平に構え、突きの姿勢を取る。バックマンは懐のホルスターから持てるだけの投げナイフを抜き、八本一気に投げつけた。至近距離からの投擲にアムレアンは反応しきれず、致命傷を避けるために体勢を崩す。
ふたたび援護射撃が始まり、バックマンはアウロラを抱きかかえて叫んだ。
「いいぞ! 引け!」
弓矢部隊のさらに後方で、数人の山賊がロープを一斉に引いた。土をかけて床に隠してあったロープが持ち上がり、通路両脇の柱が倒れる。地響きとともに天井から砂利がぱらつき始めた。
「……何だ?」
バックマンを追おうとしていたアムレアンは、警戒して足を止めた。
ロープは通路の両脇にある二本の柱に括り付けられていた。それらが倒れると、斜めに接合されていた筋交い柱や天井を支える梁が連鎖的に崩れてゆく。
地盤の支えを失い、通路はまたたく間に崩落した。
アムレアンとその背後に控えていた四人の近衛兵は出口に向かって走り、すんでのところで生き埋めを免れた。
「まさか洞穴を崩してまで抵抗してくるとは……」
入り口から湧き上がる土煙を見ながら、生き残った近衛兵がつぶやく。
「力で敵わぬと見るや、変わり身の早さも大したものだ」
言葉とは裏腹に不機嫌そうな表情で、アムレアンはティーサンリードに賛辞を送った。
「隊長、あの二人の姿が……」
ホード兄弟の姿が見当たらない。坑道から脱出できた近衛兵は、アムレアンを含め五人だけだった。
「……あの様子では、おそらくあのまま生き埋めになったのだろう。スカンツェも含めてな」
「なんということだ……二十四名いた近衛兵が、山賊ごときにたったの五人にまで……」
「待て、まだリンド副隊長たち五人も残っている」
「その通りだ。そして、さしあたり我らはリンドの後を追うぞ。そちらが内部に繋がっているなら、この入口に拘泥する必要もない」
西の空を見上げていたアムレアンが、土砂で埋もれた入り口に向き直る。
「もしもそうでなかった場合は仕方ない、奴隷部隊の連中にこの入口を掘らせる以外に道はないだろう。まだリースベットが出てきていないのだからな」
「大した娘だ。近衛兵以外にこれほどの技を持つ者がいるとは、驚嘆に値する」
その言葉とは裏腹に、アムレアンの表情は固く冷たい。
「クソッ、やっぱり隊長格は桁が違うのか……」
肩を押さえて上体を起こすアウロラの背中に、バックマンは絶望感に打ちひしがれながら歯ぎしりするしかなかった。数カ月間リースベットと訓練を共にし、半年前とは見違えるほどの力をつけたアウロラだったが、近衛兵の隊長はそれを遥かに凌駕する実力を備えていたのだ。
それでもアウロラは、ふらつく膝で踏みこたえ立ち上がる。
「まだよ。ここで私が退いたら……」
「ほう、まだ向かってくるか」
「アウロラもういい!」
バックマンの制止も聞かず、アウロラはふたたび挑みかかった。
剣先を下げて構えるアムレアンに対し、持ち前の機動力で左右に撹乱する。だがその意図を見透かしたように、斜めに振り上げられた大剣がアウロラの動きを捉えた。斬撃を受け止めたカリ・スタブもろともアウロラは弾き飛ばされ、甲高い悲鳴が通路に響き渡った。
「残念だったな、娘。もう少し広い場所でなら、その速さもより活きようものを」
アムレアンは冷厳と言い放ち、ゆっくりと大剣を構え直した。アウロラはダメージが大きく、すぐには起き上がれない。
「……限界だな。援護頼む」
バックマンはそう言い残すと、アウロラのもとへ身を低くして駆け出した。気付いたアムレアンが迎撃のため前に出ようとするが、バックマンの背後から飛来する弓矢部隊の援護射撃が前進を阻んだ。
通路の狭さによって自由に身をかわせない近衛兵たちは、飛来する矢を剣で叩き落として防いでいる。
アウロラまであと半歩というところで、一瞬援護射撃が途切れた。アムレアンは前に進み出ながら剣を水平に構え、突きの姿勢を取る。バックマンは懐のホルスターから持てるだけの投げナイフを抜き、八本一気に投げつけた。至近距離からの投擲にアムレアンは反応しきれず、致命傷を避けるために体勢を崩す。
ふたたび援護射撃が始まり、バックマンはアウロラを抱きかかえて叫んだ。
「いいぞ! 引け!」
弓矢部隊のさらに後方で、数人の山賊がロープを一斉に引いた。土をかけて床に隠してあったロープが持ち上がり、通路両脇の柱が倒れる。地響きとともに天井から砂利がぱらつき始めた。
「……何だ?」
バックマンを追おうとしていたアムレアンは、警戒して足を止めた。
ロープは通路の両脇にある二本の柱に括り付けられていた。それらが倒れると、斜めに接合されていた筋交い柱や天井を支える梁が連鎖的に崩れてゆく。
地盤の支えを失い、通路はまたたく間に崩落した。
アムレアンとその背後に控えていた四人の近衛兵は出口に向かって走り、すんでのところで生き埋めを免れた。
「まさか洞穴を崩してまで抵抗してくるとは……」
入り口から湧き上がる土煙を見ながら、生き残った近衛兵がつぶやく。
「力で敵わぬと見るや、変わり身の早さも大したものだ」
言葉とは裏腹に不機嫌そうな表情で、アムレアンはティーサンリードに賛辞を送った。
「隊長、あの二人の姿が……」
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「……あの様子では、おそらくあのまま生き埋めになったのだろう。スカンツェも含めてな」
「なんということだ……二十四名いた近衛兵が、山賊ごときにたったの五人にまで……」
「待て、まだリンド副隊長たち五人も残っている」
「その通りだ。そして、さしあたり我らはリンドの後を追うぞ。そちらが内部に繋がっているなら、この入口に拘泥する必要もない」
西の空を見上げていたアムレアンが、土砂で埋もれた入り口に向き直る。
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