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逆賊討伐

15 割れた鏡 3

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 アウロラは加勢に現れたスカンツェの姿を見て、リースベットから訓練の合間に聞いた話を思い出した。
 彼女がフェルディンと戦った際に採った戦術の話だ。
「あたしがあのアホマントに勝てた理由か? 精神面を崩した……で終わらせちまうと、あんまりぼんやりし過ぎてるか」
「精神弱そうだったけど、あの人」
 リースベットは声を上げて笑った。
「まあそいつは事実だろうが……あいつはな、目で見たモンを他人より早く処理して対応する、ってたぐいのリーパーだ。で、あたしは目くらましで処理を遅れさせて、その遅れを少しずつ蓄積させていったんだ」
「遅れ?」
「気おくれ、って言うだろ。その遅れが出てねえうちは、あいつはどんな攻撃だって見切る。だが一つ処理に遅れが出ると、次の攻撃に対処するために一の遅れが出る。それが蓄積していって遅れが十溜まると、ついに見切れなくなって剣で受けるようになる」
「じゃあ、一度仕切り直すとか、いっそ相打ち覚悟で踏み込んだりしたら、状況は変わった?」
「そうだ。だがあいつには、それができなかった。処理と言ったって頭で考えてから動いてるわけじゃねえからな。だからこそ、当人が気付けないあいだに遅れは蓄積していく」
 リースベットはアウロラの肩を軽く叩いた。
「自分と同じ水準の力を持った相手と戦った経験があれば、またちょっと違ったのかも知れねえがな」
 アウロラはホード兄弟の力がそれに類するものだと仮定し、リースベットが行った不意打ちのような「目くらまし」として、スカンツェという不確定要素を呼び込んだ。極めて危険な賭けではあったが、それがホード兄弟の強固な対処能力にほころびを生み出したのだ。

「状況はどうだ?」
 アウロラの危機、と報告を受けて駆けつけたバックマンが、入り口通路の曲がり角に待機していた山賊に声をかけた。
「なんとか窮地きゅうちは脱したようです」
「そうか……」
 バックマンは安堵あんどのため息を漏らす。
 通路の先ではアウロラがスカンツェと優勢に戦い、壁際にはボリスと彼を介抱するコニーの姿があった。コニーは完全に戦意を喪失しているようで、剣を手にしていない。
 だがそのさらに先には、長髪の男を先頭にして、複数の近衛兵が待ち構えているのが見える。
「報告よりは少ないが、それでも残り六人か……もうそろそろ潮時しおどきかもな」
 他の山賊たちに目配せし、バックマンは作戦の準備をうながした。
「あの正面の男、まさか……」
「どうしました?」
「服が、他と少し違うだろ」
 バックマンは目を細めて近衛兵の姿を確認する。先頭に立つ男の胸には、翼竜と剣の紋章が縫い付けられている。その紋章の下にある剣と戦鎚せんついが交差した意匠いしょうは、他の者の胸にはないものだった。

「いいかげんに降参せんか小娘!」
 アウロラに太刀筋を見切られ、攻撃するたび体勢を崩しているスカンツェが金切り声を上げる。
「驚くわ。なんで不利な側がそんな台詞を吐けるわけ?」
「わ、わしの後ろにはまだ六人の近衛兵が控えているのだぞ!」
「ああ、そっち……」
 スカンツェの肩越しに入口の方を見ると、長髪の男が近付いてきている姿が見えた。男は両手持ちの大剣を抜き、感触を確かめるように刃先を軽く振るっている。
「確かに遊んでる暇なんて無いわね」
「遊ぶじゃと……」
 アウロラは受けた剣を右のカリ・スタブにあるに引っ掛けたまま、身体を反転させて左の鉄枴てっかいでスカンツェの左脚を打った。膝関節がほんらい動かないはずの方向に、くの字に曲がる。
 スカンツェは身をよじって倒れ、膝を押さえて悲鳴を上げた。
「次!」
 間髪入れずにスカンツェを飛び越えたアウロラは、大剣を構える長髪の男に向かって走る。
「アウロラ待て!」
 バックマンは思わず叫んだ。アウロラが挑もうとしている相手は、近衛兵の隊長だ。他とは異なった胸の隊章がそれを示している。
 アウロラは飛び上がって右側の壁を蹴り、相手の左上方から飛びかかった。
 近衛兵の隊長アムレアンは、低い天井にあわせて腰を落とし、大剣を斜め上段に構えてアウロラを迎え撃つ。低い風切り音を上げて袈裟懸けさがけに振り下ろされた大剣は、二本のカリ・スタブを持ち主ごと弾き飛ばし、体勢を崩したアウロラの右肩を切り裂いた。
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