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逆賊討伐
12 鏡像 2
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――力を持っているのはどっち?
「わからない、って顔をしているね」
「考えてないで戦ってごらんよ。きっと」
「答えがわかるよ」
背中合わせになったホード兄弟の斉唱に急かされるように、アウロラは一気に間合いを詰めた。ラーネリードのときのような加減はせず、しかし直線的には攻めずに一旦ボリスの右脇を駆け抜け、コニーの死角から彼の後頭部めがけてカリ・スタブを振り下ろした。
ホード兄弟はその攻撃を、頭上で短剣を交差させて受け止めた。アウロラは驚き、すぐに距離を置く。
「……まるで後ろに目があるみたいに」
アウロラは思わずつぶやいた。
ボリスはともかく、視界の外から攻撃を受けたはずのコニーまでもが反応している。コニーがアウロラの動きを目で追えていた様子はなかった。
――力を持ってるのは、そっちね。
アウロラはふたたびボリスのそばを走り抜けた。同じ攻め手を採ると思わせ、さらに移動すると今度はボリスに対して左後方から打ちかかる。ホード兄弟は脚も視線もほとんど動かさず、短剣を持った腕だけを上げ、またも攻撃を受け止めた。
ホード兄弟は面妖な笑みを浮かべ、カリ・スタブを払いのけて反撃に移る。ボリスとコニーそれぞれの手数は決して多くはないが、二人分の攻撃を避けながら戦うアウロラの消耗は大きい。
それでもアウロラはすぐには引き下がらず、さまざまな方角から矢継ぎ早に打撃を繰り出した。だがそのいずれもが、ボリスとコニー、二人の短剣に阻まれていた。
「どうして……?」
アウロラの顔が困惑に曇る。攻撃は常にどちらかの死角から放っていたにも関わらず、一度として有効打とならなかった。
その様子はまるで、一人の人間が二つの体を自由自在に操っているようだった。
「そんなに動いたら、すぐに」
「疲れちゃうよ、お嬢さん」
――まったくその通りよ! こんなことやってたら、こっちの身がもたないわ。あと十一人も相手にしなきゃいけないってのに!
ほとんど動かず守りに徹しているホード兄弟に比べ、アウロラは木々を蹴って登るリスのように目まぐるしく動き回っている。誰が見ても、先に体力が尽きるのはアウロラの方だ。
次の攻撃に移るべく息を整えていたアウロラは、入り口から降りてくる複数の人影に気付いた。
「援軍? こいつらだって倒せていないのに……」
隊列の先頭に立っているのは、近衛兵隊長のアムレアンだ。副隊長のリンドと隊を二つに分け、残った六名で攻め入ってきたのだ。
通路は狭く数の有利を活かしにくいが、リーパーの機動力で背後に回られ、挟撃されれば勝ち目はない。
アウロラは覚悟を決め、ホード兄弟と一気に決着を付けるべく攻めかかる。
二人の周囲を縦横無尽に動いて撹乱し、振り下ろしたカリ・スタブを再度振り上げるなど、虚を突く軌道でたびたび打ちかかった。だが相変わらず、ホード兄弟は涼しい顔でそのすべてを受け流している。
火花を散らすアウロラとホード兄弟から十メートル以上の距離をとって、アムレアンたちが足を止めた。彼らの位置からは、アウロラの巻き起こす風で砂塵が立ち籠め、視界が悪くなっている。
「あの娘の動き……ここにはリースベット以外にもリーパーがいたのか。なるほど、ラーネリードでは勝てないわけだ」
遠目に展開される凄まじい乱打戦に、アムレアンは感心してうめき声を上げた。
「だがあの戦い方では、ホード兄弟は崩せん。絶対にな」
「隊長殿、加勢せぬのですか?」
「不要だ。かえって彼らの邪魔になるだけだ」
髭面の中年男の問いかけに対し、腕組みをしたアムレアンは余裕の表情で応えた。
アムレアンたちの参戦前に勝負を決してしまいたかったアウロラだったが、それは叶わなかった。やむを得ず一旦飛び退き、出方をうかがう。
「お嬢さん、あまり無理をしなさんな」
「ずいぶん息もあがってきてるね」
コニーの言う通りアウロラは肩で大きく息をしており、吹き出した汗が赤毛の前髪を額に貼り付かせている。
――援軍は戦いに参加しないのね。でも、このままじゃいずれ……。
アウロラにはまだ余力はあるが、そのうちに打開策を考えねばならない。その思惑を見透かしたように、ホード兄弟が前に進み出る。
「じゃあそろそろ」
「頃合いだね」
「殺してしまおうか」
ホード兄弟は口を下弦型にして不気味に笑い、ゆらりと一歩前に進み出る。
これまで合わされていた背中が離れ、四つの緑色の瞳がアウロラを捉えた。
「わからない、って顔をしているね」
「考えてないで戦ってごらんよ。きっと」
「答えがわかるよ」
背中合わせになったホード兄弟の斉唱に急かされるように、アウロラは一気に間合いを詰めた。ラーネリードのときのような加減はせず、しかし直線的には攻めずに一旦ボリスの右脇を駆け抜け、コニーの死角から彼の後頭部めがけてカリ・スタブを振り下ろした。
ホード兄弟はその攻撃を、頭上で短剣を交差させて受け止めた。アウロラは驚き、すぐに距離を置く。
「……まるで後ろに目があるみたいに」
アウロラは思わずつぶやいた。
ボリスはともかく、視界の外から攻撃を受けたはずのコニーまでもが反応している。コニーがアウロラの動きを目で追えていた様子はなかった。
――力を持ってるのは、そっちね。
アウロラはふたたびボリスのそばを走り抜けた。同じ攻め手を採ると思わせ、さらに移動すると今度はボリスに対して左後方から打ちかかる。ホード兄弟は脚も視線もほとんど動かさず、短剣を持った腕だけを上げ、またも攻撃を受け止めた。
ホード兄弟は面妖な笑みを浮かべ、カリ・スタブを払いのけて反撃に移る。ボリスとコニーそれぞれの手数は決して多くはないが、二人分の攻撃を避けながら戦うアウロラの消耗は大きい。
それでもアウロラはすぐには引き下がらず、さまざまな方角から矢継ぎ早に打撃を繰り出した。だがそのいずれもが、ボリスとコニー、二人の短剣に阻まれていた。
「どうして……?」
アウロラの顔が困惑に曇る。攻撃は常にどちらかの死角から放っていたにも関わらず、一度として有効打とならなかった。
その様子はまるで、一人の人間が二つの体を自由自在に操っているようだった。
「そんなに動いたら、すぐに」
「疲れちゃうよ、お嬢さん」
――まったくその通りよ! こんなことやってたら、こっちの身がもたないわ。あと十一人も相手にしなきゃいけないってのに!
ほとんど動かず守りに徹しているホード兄弟に比べ、アウロラは木々を蹴って登るリスのように目まぐるしく動き回っている。誰が見ても、先に体力が尽きるのはアウロラの方だ。
次の攻撃に移るべく息を整えていたアウロラは、入り口から降りてくる複数の人影に気付いた。
「援軍? こいつらだって倒せていないのに……」
隊列の先頭に立っているのは、近衛兵隊長のアムレアンだ。副隊長のリンドと隊を二つに分け、残った六名で攻め入ってきたのだ。
通路は狭く数の有利を活かしにくいが、リーパーの機動力で背後に回られ、挟撃されれば勝ち目はない。
アウロラは覚悟を決め、ホード兄弟と一気に決着を付けるべく攻めかかる。
二人の周囲を縦横無尽に動いて撹乱し、振り下ろしたカリ・スタブを再度振り上げるなど、虚を突く軌道でたびたび打ちかかった。だが相変わらず、ホード兄弟は涼しい顔でそのすべてを受け流している。
火花を散らすアウロラとホード兄弟から十メートル以上の距離をとって、アムレアンたちが足を止めた。彼らの位置からは、アウロラの巻き起こす風で砂塵が立ち籠め、視界が悪くなっている。
「あの娘の動き……ここにはリースベット以外にもリーパーがいたのか。なるほど、ラーネリードでは勝てないわけだ」
遠目に展開される凄まじい乱打戦に、アムレアンは感心してうめき声を上げた。
「だがあの戦い方では、ホード兄弟は崩せん。絶対にな」
「隊長殿、加勢せぬのですか?」
「不要だ。かえって彼らの邪魔になるだけだ」
髭面の中年男の問いかけに対し、腕組みをしたアムレアンは余裕の表情で応えた。
アムレアンたちの参戦前に勝負を決してしまいたかったアウロラだったが、それは叶わなかった。やむを得ず一旦飛び退き、出方をうかがう。
「お嬢さん、あまり無理をしなさんな」
「ずいぶん息もあがってきてるね」
コニーの言う通りアウロラは肩で大きく息をしており、吹き出した汗が赤毛の前髪を額に貼り付かせている。
――援軍は戦いに参加しないのね。でも、このままじゃいずれ……。
アウロラにはまだ余力はあるが、そのうちに打開策を考えねばならない。その思惑を見透かしたように、ホード兄弟が前に進み出る。
「じゃあそろそろ」
「頃合いだね」
「殺してしまおうか」
ホード兄弟は口を下弦型にして不気味に笑い、ゆらりと一歩前に進み出る。
これまで合わされていた背中が離れ、四つの緑色の瞳がアウロラを捉えた。
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