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絶望の檻
25 暗殺の真相
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ヘルストランド城内は騒然としていた。一夜にして地下監獄のすべての囚人が逃げ去った事件と、時を同じくしてアウグスティン・リードホルムが殺害されたことへの事後対応のためだ。
ふだんは執務室から出てこない典礼省の高官たちが慌ただしく廊下を行き来し、平時は別の庁舎で仕事をしている官僚たちも王城に集まっている。
第一王子の死はすぐには公表されず、事件から二日後になってようやく、ヴィルヘルム三世が全国民に対する一週間の服喪と国葬の布告を出した。実子の不慮の死だというのに、その弔事にはあまり情感は込められていないようだった。
死因と囚人の逃亡については伏せられたが、告示なしに追跡隊が活動したため、市中にさまざまな憶測が飛び交った。
監獄で二年前同様の暴動が起き、その混乱の最中アウグスティン王子が殺害された――
宮廷にカッセル王国の暗殺者が侵入してアウグスティン王子を殺したため、追跡隊はその行方を追っている――
いずれも当たらずとも遠からずといった内容で、共通しているのは死因が自然死だとは誰も考えていないという点だった。
そうした状況の中、真実の究明に最も血道を上げていたのは、宰相のシーグムンド・エイデシュテットだった。懇意にしていたアウグスティンを突然失い、さらにはその死因に不審な点が多いことも手伝って、狼狽の度は日増しに高まっている。彼のリードホルムにおける地位が揺らぎつつあるのだ。
エイデシュテットは足繁く内務省を訪れていた。内務省の建物は、まっすぐ切り出された大理石に覆われた堅固な造りの、国内を陰に日向に威圧する集団にふさわしい建築だ。
宝石の散りばめられたフラゴンポットや壮麗なガラス食器が飾られた長官室で、エイデシュテットはステーンハンマル内務省長官から事件の調査報告を受けていた。
「アウグスティン様の頭部は、非常に鋭利な刃物で斬り落とされていました。よほどの訓練を受けた者でなければ、ああはできないそうです」
「あやつが虐待して楽しんでいた女囚には到底できん、ということか……」
「さらには、アウグスティン様が殺害された日の夜、監獄に侵入した若い女がいたようです」
「若い女じゃと?」
「捕らえた脱獄囚によると、13~4の少女のようだったという証言が幾つかありますな。ポールソン看守長も女の声を聞いています。なんでも、例のクロンクヴィストの居場所を聞き回っていたとか」
「馬鹿な……では本当にカッセルの刺客だというのか……」
長官室のドアがノックされ、失礼いたします、と内務省の文官が姿を見せた。彼はステーンハンマルに近づき、声をひそめて耳打ちをする。不機嫌そうに聞き耳を立てるエイデシュテットだったが、さいわいステーンハンマルは報告内容を秘密にする気はないようだ。
「事件以来ゆくえ知れずだった当日の看守が、ようやく見つかりましてな。叱責を恐れるあまり身を隠しておったようです」
「愚かなことを」
「その者によると、侵入した若い女は……リースベットという名だったそうです」
「な、何?!」
「……お亡くなりになった王女と同じ名ですな」
ふだんは執務室から出てこない典礼省の高官たちが慌ただしく廊下を行き来し、平時は別の庁舎で仕事をしている官僚たちも王城に集まっている。
第一王子の死はすぐには公表されず、事件から二日後になってようやく、ヴィルヘルム三世が全国民に対する一週間の服喪と国葬の布告を出した。実子の不慮の死だというのに、その弔事にはあまり情感は込められていないようだった。
死因と囚人の逃亡については伏せられたが、告示なしに追跡隊が活動したため、市中にさまざまな憶測が飛び交った。
監獄で二年前同様の暴動が起き、その混乱の最中アウグスティン王子が殺害された――
宮廷にカッセル王国の暗殺者が侵入してアウグスティン王子を殺したため、追跡隊はその行方を追っている――
いずれも当たらずとも遠からずといった内容で、共通しているのは死因が自然死だとは誰も考えていないという点だった。
そうした状況の中、真実の究明に最も血道を上げていたのは、宰相のシーグムンド・エイデシュテットだった。懇意にしていたアウグスティンを突然失い、さらにはその死因に不審な点が多いことも手伝って、狼狽の度は日増しに高まっている。彼のリードホルムにおける地位が揺らぎつつあるのだ。
エイデシュテットは足繁く内務省を訪れていた。内務省の建物は、まっすぐ切り出された大理石に覆われた堅固な造りの、国内を陰に日向に威圧する集団にふさわしい建築だ。
宝石の散りばめられたフラゴンポットや壮麗なガラス食器が飾られた長官室で、エイデシュテットはステーンハンマル内務省長官から事件の調査報告を受けていた。
「アウグスティン様の頭部は、非常に鋭利な刃物で斬り落とされていました。よほどの訓練を受けた者でなければ、ああはできないそうです」
「あやつが虐待して楽しんでいた女囚には到底できん、ということか……」
「さらには、アウグスティン様が殺害された日の夜、監獄に侵入した若い女がいたようです」
「若い女じゃと?」
「捕らえた脱獄囚によると、13~4の少女のようだったという証言が幾つかありますな。ポールソン看守長も女の声を聞いています。なんでも、例のクロンクヴィストの居場所を聞き回っていたとか」
「馬鹿な……では本当にカッセルの刺客だというのか……」
長官室のドアがノックされ、失礼いたします、と内務省の文官が姿を見せた。彼はステーンハンマルに近づき、声をひそめて耳打ちをする。不機嫌そうに聞き耳を立てるエイデシュテットだったが、さいわいステーンハンマルは報告内容を秘密にする気はないようだ。
「事件以来ゆくえ知れずだった当日の看守が、ようやく見つかりましてな。叱責を恐れるあまり身を隠しておったようです」
「愚かなことを」
「その者によると、侵入した若い女は……リースベットという名だったそうです」
「な、何?!」
「……お亡くなりになった王女と同じ名ですな」
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