上 下
65 / 247
絶望の檻

20 逃亡者たち 3

しおりを挟む
「急ぐんでな。詳しい話は、道すがら馬車ん中でうちの副長から聞きな」
 リースベットは格子扉に合う鍵を探しながら説明し、有無を言わせず牢を開ける。エーベルゴードはまだ事態を飲み込めていないようだが、それでも扉をくぐって外へ出た。
「貴族なんざいけ好かねえが、この国に楯突いてるってのは見所がある」
「……君たちは一体何者なんだ?」
「リードホルムに喧嘩売ってる、ただの山賊だよ。とりあえず利害は一致してんだろ?」
「ただの山賊、という割には身なりがしっかりしているな。事情もよく知っている」
「へえ、なかなか目ざといな」
 リースベットたちは、山道で旅人を襲う盗賊一般と比べれば、小綺麗な上着や手入れのされた革コートなどを着ていた。この点はエーベルゴードの態度を軟化させる一因となっているようだ。
「出してくれるのは感謝するが、パルムグレンは遠い。さっき生きたままカッセルへ帰ると言ったが……」
「町外れに馬車を用意してるんです」
「てことだ。さあ、こんな場所にゃ長居はしたくねえだろ」
 リースベットが出口を顎で示し、先を急ぐよう促した。
 三人はリースベットを先頭に出口へと向かうが、エーベルゴードの脚が遅い。リーパーの二人は速度を抑えているつもりだったが、エーベルゴードは足にぼろ布を巻いただけで靴を履いていなかった。
「すまない、うまく走れないんだ」
「靴なんか用意してねえが……これじゃ先が思いやられるな。ちょっと待ってろ」
 リースベットはそう言って通路を左に曲がり、すぐに革のブーツを持って戻ってきた。
「それ、さっき縛られてた看守の……?」
「まだ寝てやがったから楽だったぜ。この際だ、多少のことは我慢しろ」
「ああ、あるだけでありがたい」
「……それと、もう一つヤボ用が残ってた。出口で待っててくれ」
 エーベルゴードがブーツを履くよりも先に、リースベットは出入り口近くの通路を左に入っていった。そこは監獄に入って最初に話を聞いた囚人の牢だ。
「よう、いい子にしてたか?」
「……本当に戻ってきやがった!」
「さて、約束通り出してやるが、ひとつ条件がある」
「な、何だ」
 囚人の男に見えるように、リースベットは鍵束を指先で回した。男は長い眉毛に隠れそうな目を丸くする。
「こいつで他の連中も出してやれ。あたしらはあんまり時間がなくてな」
「……分かった」
「口約束だけで抜け駆けしようとなんてするなよ?」
「するかよ! 俺ら盗賊の世間は狭いんだ。恨み買ったら必ず仕返しが来る」
「いい風習だ」
 リースベットは格子扉を開け、男に鍵束を投げ渡した。
「恩に着るぜ。あんた、名前は?」
「あー……悪いが名前は明かせねえ。街を縄張りにはしてねえ、ってことだけ言っとく」
「そうかい、なら安心だな。俺は“蜘蛛の同胞団”のトーシュだ。じゃあな」
 ヘルストランドに住む者の多くが耳にしたことのある盗賊組織の名を告げ、トーシュは通路の奥へと駆けてゆく。リースベットはトーシュが隣の牢を開けた姿を認めるときびすを返し、アウロラたちの待つ出口へと向かった。
 この七月二日の大脱獄事件は、ごく僅かな間、ヘルストランドで語りぐさとなった。より衝撃的な、王位継承者の変死という話題がノルドグレーンまでも席巻するまでは――
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

この争いの絶えない世界で ~魔王になって平和の為に戦いますR

ばたっちゅ
ファンタジー
相和義輝(あいわよしき)は新たな魔王として現代から召喚される。 だがその世界は、世界の殆どを支配した人類が、僅かに残る魔族を滅ぼす戦いを始めていた。 無為に死に逝く人間達、荒廃する自然……こんな無駄な争いは止めなければいけない。だが人類にもまた、戦うべき理由と、戦いを止められない事情があった。 人類を会話のテーブルまで引っ張り出すには、結局戦争に勝利するしかない。 だが魔王として用意された力は、死を予感する力と全ての文字と言葉を理解する力のみ。 自分一人の力で戦う事は出来ないが、強力な魔人や個性豊かな魔族たちの力を借りて戦う事を決意する。 殺戮の果てに、互いが共存する未来があると信じて。

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

ダブル・シャッフル~跳ね馬隊長の入れ替わり事件~

篠原 皐月
ファンタジー
 建国以来の名門、グリーバス公爵家のアルティナは、生家が保持する権益と名誉を守る為、実在しない双子の兄を名乗り国王直属の近衛騎士団に入団。順調に功績を立てて緑騎士隊隊長に昇進するも、実父の思惑により表向き死亡した事に。更に本来の名前に戻った途端、厄介払いの縁談を強制され、彼女の怒りが振り切れる。自分を都合の良い駒扱いしてきた両親に、盛大に蹴りを入れてから出奔しようと、策を巡らせ始めたアルティナだったが、事態は思わぬ方向に。飲み仲間の同僚と形ばかりの結婚、しかも王太子妃排除を目論む一派の陰謀に巻き込まれて……。稀代の名軍師の異名が霞む、アルティナの迷走っぷりをお楽しみ下さい。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

処理中です...