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絶望の檻
19 逃亡者たち 2
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拷問部屋を出たリースベットを、不安げな顔のアウロラが待ち受けていた。
「ああ、やっぱりここだったのね」
「悪いな。待たせたか」
「……返り血が付いてるわよ」
「ヘマやって見つかっちまってな。……もしかしたら大事になるかも知れねえ」
「大丈夫なの?」
「さてな……いっそ目くらましに、ここの連中みんな逃がすか」
アウロラは違和感を覚えた。これほど平板で抑揚のないリースベットの口調を、アウロラはこれまで聞いたことはない。何があったのか聞くべきか迷っていると、リースベットが話を先に進めた。
「それより仕事だ。どうだ、貴族様は見つかったか?」
「ええと、そう、だからリースベットを待ってたのよ。エーベルゴードって人、左側の一番奥にいるらしいわ」
「よし、とっとと終わらせちまおう。のんびりしてられる訳じゃねえしな。そっちに見張りはいたか?」
「ううん。一人そこの牢屋で縛られてたけど……」
「あたしがやった看守だ。おかげでこいつが手に入った。さあ急ごうや」
人差し指の先で回していた鍵束のリングを掴み、リースベットが走り出した。アウロラもそれに続き、まるで誰かがリースベットの言葉だけを真似ているようだ、と思いながら道案内のため前に出る。
「それ、ここの鍵?」
「ああ。おそらく牢屋から囚人の足枷まで、一通り揃ってるはずだ。時間のかかる錠前破りをしなくても済むぜ」
「……そういえばさっき、人が出ていったみたいだけど?」
「行きがかりで開放してやった。名前はラーションとか言ってたな」
牢獄内はざわつきはじめていた。多くの囚人が、異変に気付きつつあるのだ。リースベットたちはもはや足音などを気にせず、脇目も振らずに目的の牢へと急いだ。
「よう、起きろ、旅行の時間だ」
リースベットはククリナイフの柄尻で鉄格子を二度ノックし、牢屋の粗末なベッドに寝ている男に声をかける。男はゆっくり身を起こし、目をこすりながら二人の来客に顔を向けた。
「あんた、フランシス・エーベルゴードだな?」
「なぜその名を? 君たちは一体……」
「救い主だよ。あんたを故郷に連れ帰ってやる」
「何?! ……誰に雇われた?」
「あいにく依頼主はいねえ。これはあたしらが勝手にやったことだ」
エーベルゴードは右手で長めの髪をかきあげ、鉄格子の向こうにいる二人の女に不審の目を向けていた。降って湧いた都合の良い話を、無邪気に信じられるような性格ではないようだ。二人共が若く、とくにアウロラなどはまだ子供と言ってよい外見である。牢獄という場には不釣り合いな取り合わせだった。
「とりあえずあんたはここを出て、生きたままカッセルに帰ってもらう。これ以上おいしい話はねえだろ?」
「それは……願ってもないことだが……」
「ま、信用できねえのも当然だ。だがこのままそのボロベッドで寝てたら、あんたは遠からず処刑されるかノルドグレーンに送られて拷問されるか、のどっちかだぜ」
「ノルドグレーンが私を?」
「急ぐんでな。詳しい話は、道すがら馬車ん中でうちの副長から聞きな」
「ああ、やっぱりここだったのね」
「悪いな。待たせたか」
「……返り血が付いてるわよ」
「ヘマやって見つかっちまってな。……もしかしたら大事になるかも知れねえ」
「大丈夫なの?」
「さてな……いっそ目くらましに、ここの連中みんな逃がすか」
アウロラは違和感を覚えた。これほど平板で抑揚のないリースベットの口調を、アウロラはこれまで聞いたことはない。何があったのか聞くべきか迷っていると、リースベットが話を先に進めた。
「それより仕事だ。どうだ、貴族様は見つかったか?」
「ええと、そう、だからリースベットを待ってたのよ。エーベルゴードって人、左側の一番奥にいるらしいわ」
「よし、とっとと終わらせちまおう。のんびりしてられる訳じゃねえしな。そっちに見張りはいたか?」
「ううん。一人そこの牢屋で縛られてたけど……」
「あたしがやった看守だ。おかげでこいつが手に入った。さあ急ごうや」
人差し指の先で回していた鍵束のリングを掴み、リースベットが走り出した。アウロラもそれに続き、まるで誰かがリースベットの言葉だけを真似ているようだ、と思いながら道案内のため前に出る。
「それ、ここの鍵?」
「ああ。おそらく牢屋から囚人の足枷まで、一通り揃ってるはずだ。時間のかかる錠前破りをしなくても済むぜ」
「……そういえばさっき、人が出ていったみたいだけど?」
「行きがかりで開放してやった。名前はラーションとか言ってたな」
牢獄内はざわつきはじめていた。多くの囚人が、異変に気付きつつあるのだ。リースベットたちはもはや足音などを気にせず、脇目も振らずに目的の牢へと急いだ。
「よう、起きろ、旅行の時間だ」
リースベットはククリナイフの柄尻で鉄格子を二度ノックし、牢屋の粗末なベッドに寝ている男に声をかける。男はゆっくり身を起こし、目をこすりながら二人の来客に顔を向けた。
「あんた、フランシス・エーベルゴードだな?」
「なぜその名を? 君たちは一体……」
「救い主だよ。あんたを故郷に連れ帰ってやる」
「何?! ……誰に雇われた?」
「あいにく依頼主はいねえ。これはあたしらが勝手にやったことだ」
エーベルゴードは右手で長めの髪をかきあげ、鉄格子の向こうにいる二人の女に不審の目を向けていた。降って湧いた都合の良い話を、無邪気に信じられるような性格ではないようだ。二人共が若く、とくにアウロラなどはまだ子供と言ってよい外見である。牢獄という場には不釣り合いな取り合わせだった。
「とりあえずあんたはここを出て、生きたままカッセルに帰ってもらう。これ以上おいしい話はねえだろ?」
「それは……願ってもないことだが……」
「ま、信用できねえのも当然だ。だがこのままそのボロベッドで寝てたら、あんたは遠からず処刑されるかノルドグレーンに送られて拷問されるか、のどっちかだぜ」
「ノルドグレーンが私を?」
「急ぐんでな。詳しい話は、道すがら馬車ん中でうちの副長から聞きな」
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