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絶望の檻

3 力の源泉

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 リースベットがテーブルを離れると話が途切れたが、ドグラスは関連した話題をなにか思い出したようだ。冷めきったスープを飲み干し、ふたたび雑談を始める。
「リードホルムの監獄って言やあ、二年半ぐらい前にデカい暴動があったろう。まともに機能してんのか?」
「どうだろうな。だがそこ以外で、ヘルストランドに牢屋があるって話は聞かねえ」
「懐かしい話だ。それで逃げてきた長老を拾ったんだぜ」
 自分の顔のような大きさのライ麦パン二つとスープで満たした木の器とともに、リースベットが席に戻ってきた。まだ食べ足りないらしい。
「長老……って、あの目が見えないお爺さん?」
「ああ」
 その盲目の老人は、リードホルム監獄で暴動があった翌日にリースベットと出会った。ずいぶん長いあいだ囚人として過ごしていたらしく身なりはぼろぼろだったが、命乞いをするでもなく、山賊と出会った己の運命を堂々とした態度で受け容れている様子だったという。
 今はアウロラの連れてきた少年ミカルに古い寓話ぐうわを話すなど面倒を見てくれているらしく、彼女はしばしば長老の話をミカルから聞かされていた。自身の名前を明かさない点も含め、謎めいた人物だった。
「それにしてもよく食べるわよね、その身体で」
 リースベットの並外れた食事量に、アウロラは素直に驚いていた。
「何だ、リーパーなのに腹は減らねえのか?」
「……それ、関係あること?」
「そりゃお前、あたしらの力だって、何もねえところから湧いて出てくるわけじゃねえだろ」
「うーん、言われてみれば、孤児院にいた時よりは食べるようになったかな……たんに走り回ることが多くなったからだと思ってた」
 目を瞑って硬いパンを咀嚼そしゃくしながら、リースベットは考えをまとめているようだ。
「例えばな、この前鎧着て暴れたデカブツの腕力が10だったとして、あたしの素の力はせいぜい1だ。そこは勝負にならねえ」
「そうなの? リースベットなら勝てるんじゃないかって思ってたんだけど」
「その1や10の力ってのは、時計の振り子が1回往復する間に出せる力だ。だがあたしらは、普通の人間の振り子が一往復する間に、10も20も振れる。……そんな感じで時間を早回しすんのがリーパーの力なんだよ」
「ああ、そう言われれば、そんな気もするかな……」
「実質的に人の何倍も動いてんだから、食わなきゃ身がもたねえ」
 アウロラは何度かうなずき、広げた自分の手のひらをじっと見つめている。
「早く動くのも強い力を出すのも、原理上は大差ねえんだ」
「なるほどね」
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