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簒奪女王
後宮の使者 1
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リードホルム城の地下聖堂でのささやかな結婚式から、二ヶ月が過ぎた。貴族たちからベアトリスへのご機嫌うかがいの贈り物もほぼ途絶えたが、まだわずかな例外も残っていた。その送り主は前王の後宮である。ベアトリスに対して必ずしも友好的とは言い難い勢力だったはずが――あるいは詫びのしるしなのか――見事なサファイアのティアラが届けられた。その献呈品には、かつて後宮からの伝言を伝えに来た陶器人形のような少年、ラーシュからの手紙が添えられていた。
<なかなかよいティアラが見つかりました。サファイアの深い青色が銀の冠を薄青に染めるこの宝冠は、きっと王妃様の美しい御髪に似合うと思います。後宮の宝物庫に退蔵しておくよりもベアトリス様のもとにあるほうがふさわしいと考え、ここに献上いたします。>
このラーシュの目利きは確かに的を得たもので、サファイアの青色はベアトリスの金髪によく映える。また技工を感じさせるが華美すぎない装飾も、ベアトリスの好みに合っていた。安易なご機嫌取りとは思えない細やかな気遣いが伺える贈り物は、ベアトリスも悪い気はしなかった。
ベアトリスはリードホルム城三階にある翠雨の間に向かっていた。そこでは今日、近年増加の一途をたどる移住外国人の処遇を決める会議が予定されていた。ベアトリスはノア王の全権代理としてこの会議に参加する。これは、リードホルムの法制と国勢を学んだベアトリスに、多忙なノアが委任した最初の仕事だった。
その途中、ベアトリスは一人の若者と行き合った。それはティアラの送り主、後宮からの使者ラーシュだった。
「ベアトリス様!」
ラーシュは回廊の向こうからベアトリスを見つけ、名を呼びながら早足で駆け寄ってきた。ベアトリスは右手を上げ、腰の剣に手をかけ身構えたアリサとルーデルスを制する。ラーシュはコートの裾を軽く跳ね上げ、流麗な所作でベアトリスの前に片膝をついた。
「ふたたび拝顔の栄に浴することができ、このラーシュ、神に感謝の祈りをささげたいほどです」
「社交辞令をあまり大げさに言うものではないわ」
「そんなことはございません。……ところで、先日送ったティアラはお手元に届きましたか?」
「ええ……」
「それはよかった。あれはベアトリス様のような気高いお方にこそ相応しい逸品です」
ベアトリスはラーシュの真意を量りかねていた。少なくとも彼の口調や表情からは、策略めいたものは汲み取れない。今この場での言葉に嘘偽りはなさそうだが、年若いラーシュが後宮の宝物まで自由にできるものなのだろうか。
「私はこれから会議だけれど……ラーシュは?」
ベアトリスがそう訊くと、晴れやかだったラーシュの顔がたちまち曇る。
「私は……内務省へ外出許可を取りにゆくところです」
「外出許可?」
「はい。われら後宮の者たちが外出する際、王はかならず護衛をつけてくれるのですよ……無論その実は、われらの行動を逐一監視しているのですがね!」
<なかなかよいティアラが見つかりました。サファイアの深い青色が銀の冠を薄青に染めるこの宝冠は、きっと王妃様の美しい御髪に似合うと思います。後宮の宝物庫に退蔵しておくよりもベアトリス様のもとにあるほうがふさわしいと考え、ここに献上いたします。>
このラーシュの目利きは確かに的を得たもので、サファイアの青色はベアトリスの金髪によく映える。また技工を感じさせるが華美すぎない装飾も、ベアトリスの好みに合っていた。安易なご機嫌取りとは思えない細やかな気遣いが伺える贈り物は、ベアトリスも悪い気はしなかった。
ベアトリスはリードホルム城三階にある翠雨の間に向かっていた。そこでは今日、近年増加の一途をたどる移住外国人の処遇を決める会議が予定されていた。ベアトリスはノア王の全権代理としてこの会議に参加する。これは、リードホルムの法制と国勢を学んだベアトリスに、多忙なノアが委任した最初の仕事だった。
その途中、ベアトリスは一人の若者と行き合った。それはティアラの送り主、後宮からの使者ラーシュだった。
「ベアトリス様!」
ラーシュは回廊の向こうからベアトリスを見つけ、名を呼びながら早足で駆け寄ってきた。ベアトリスは右手を上げ、腰の剣に手をかけ身構えたアリサとルーデルスを制する。ラーシュはコートの裾を軽く跳ね上げ、流麗な所作でベアトリスの前に片膝をついた。
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ベアトリスがそう訊くと、晴れやかだったラーシュの顔がたちまち曇る。
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「外出許可?」
「はい。われら後宮の者たちが外出する際、王はかならず護衛をつけてくれるのですよ……無論その実は、われらの行動を逐一監視しているのですがね!」
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