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ノルドグレーン分断
冬の胎動 4
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「増援はあと四日のうちには到着するはずです」
「助かったわ……ヘル・ローセンダールには、あとで御礼を申し上げなければね」
「同じ公国民としてあるべかりし力添えなれば、礼には及ばぬとローセンダール卿は仰せでした」
「それにしても、さすがはローセンダール家の宗主、というべきね。ミットファレットにほど近いギルベルガに、短期間で3000もの兵を揃えられるなんて」
「どうぞご安心を。……それではお暇を」
官吏は挨拶もそこそこに立ち去ろうとした。
「あら、少しお休みになられては?」
「いえ、急ぎ戻らねばなりませんので……」
「お忙しいこと。残念ね、もてなしの準備もさせていたというのに」
「失礼いたします」
無欲な官吏は足早に応接間から退出した。ややあって、それとは別の扉から、壮麗な応接間に似つかわしくない軍装の男が姿を現した。駐留部隊の指揮官であるグスタフソン将軍だ。エディットとはともに壮年で歳も近く、はじめは反目もあったが現在の関係は良好である。
「増援は3000か……それを合わせれば、こちらは6000以上となる。どうやら、ようやく愛着の湧いてきたミットファレットを手放さなくともよいようだな」
「いえ、所定どおり撤退の準備を」
グスタフソンが怪訝な顔でエディットに向き直った。服の下に着込んだ鎖帷子が擦れる鈴のような音が聞こえる。
「なぜだ? カッセル軍はたかだか1500程度だぞ。これだけの戦力差なら、主公様も戦って守れと仰ることは疑いなかろう」
「本当に増援が来るならね」
「……どういうことだ?」
エディットもグスタフソンに向き直った。
「軍事の専門家たるあなたなら、私よりも熟知しているでしょう。3000の兵を一日や二日で揃えられるものか、と。ベステルオースからどれほどの早馬を走らせても、ギルベルガからの増援が四日で間に合うはずがはないわ」
「……我らと同数となれば、後先考えず強引に徴集してもまず三日、そこから連隊長、5大隊、10中隊、百人隊長30人を組織して武装を配布する……しかし、事前に準備していた、ということではないのか?」
「事前には伝えていません」
「何!?」
「ミットファレット近郊のカッセル領内に関する情報について、中央は完全に私頼み。他に情報源はないの」
「では今回の使者が到着するまで、首都にはカッセルの不穏な動きは届けていなかったのか」
「そう。カッセルの侵攻開始を確認してから、私は増援を請う使者を走らせた。ちなみにギルベルガでは、ただミットファレットから緊急の連絡があるとだけ喧伝して、使者はそのまま領主に会わずベステルオースに向かったのよ」
「その使者がベステルオースにたどり着き、ギルベルガに徴集の命が下るまで最低でも六日はかかるだろう。ギルベルガ県令が『ミットファレットからの緊急の連絡』がカッセル侵攻の報であることを知っていなければ、あと四日でこの地に増援が到達することなど不可能だ。……なるほど、言われてみれば平仄の合わない話だな」
腰を据えて話す気になったか、グスタフソンは椅子を引いて斜めに腰掛けた。公邸の外から、かすかに馬のいななきが聞こえた。どうやら軍部官僚は、わき目もふらずにミットファレットを出て行く気のようだ。
「助かったわ……ヘル・ローセンダールには、あとで御礼を申し上げなければね」
「同じ公国民としてあるべかりし力添えなれば、礼には及ばぬとローセンダール卿は仰せでした」
「それにしても、さすがはローセンダール家の宗主、というべきね。ミットファレットにほど近いギルベルガに、短期間で3000もの兵を揃えられるなんて」
「どうぞご安心を。……それではお暇を」
官吏は挨拶もそこそこに立ち去ろうとした。
「あら、少しお休みになられては?」
「いえ、急ぎ戻らねばなりませんので……」
「お忙しいこと。残念ね、もてなしの準備もさせていたというのに」
「失礼いたします」
無欲な官吏は足早に応接間から退出した。ややあって、それとは別の扉から、壮麗な応接間に似つかわしくない軍装の男が姿を現した。駐留部隊の指揮官であるグスタフソン将軍だ。エディットとはともに壮年で歳も近く、はじめは反目もあったが現在の関係は良好である。
「増援は3000か……それを合わせれば、こちらは6000以上となる。どうやら、ようやく愛着の湧いてきたミットファレットを手放さなくともよいようだな」
「いえ、所定どおり撤退の準備を」
グスタフソンが怪訝な顔でエディットに向き直った。服の下に着込んだ鎖帷子が擦れる鈴のような音が聞こえる。
「なぜだ? カッセル軍はたかだか1500程度だぞ。これだけの戦力差なら、主公様も戦って守れと仰ることは疑いなかろう」
「本当に増援が来るならね」
「……どういうことだ?」
エディットもグスタフソンに向き直った。
「軍事の専門家たるあなたなら、私よりも熟知しているでしょう。3000の兵を一日や二日で揃えられるものか、と。ベステルオースからどれほどの早馬を走らせても、ギルベルガからの増援が四日で間に合うはずがはないわ」
「……我らと同数となれば、後先考えず強引に徴集してもまず三日、そこから連隊長、5大隊、10中隊、百人隊長30人を組織して武装を配布する……しかし、事前に準備していた、ということではないのか?」
「事前には伝えていません」
「何!?」
「ミットファレット近郊のカッセル領内に関する情報について、中央は完全に私頼み。他に情報源はないの」
「では今回の使者が到着するまで、首都にはカッセルの不穏な動きは届けていなかったのか」
「そう。カッセルの侵攻開始を確認してから、私は増援を請う使者を走らせた。ちなみにギルベルガでは、ただミットファレットから緊急の連絡があるとだけ喧伝して、使者はそのまま領主に会わずベステルオースに向かったのよ」
「その使者がベステルオースにたどり着き、ギルベルガに徴集の命が下るまで最低でも六日はかかるだろう。ギルベルガ県令が『ミットファレットからの緊急の連絡』がカッセル侵攻の報であることを知っていなければ、あと四日でこの地に増援が到達することなど不可能だ。……なるほど、言われてみれば平仄の合わない話だな」
腰を据えて話す気になったか、グスタフソンは椅子を引いて斜めに腰掛けた。公邸の外から、かすかに馬のいななきが聞こえた。どうやら軍部官僚は、わき目もふらずにミットファレットを出て行く気のようだ。
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