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番外編「温かな居場所」
*
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『八雲さん、こっち!』
「え…?!」
その声の主は、隣の席の七塚 梢だった。
「どう、して――」
呆然とする凪咲の横を、誰かが素早く駆けていく。
「ちょっと!八雲さんに何してんの!」
《ゆ、ゆかぁ。おいら、はらがへったんだよぅ》
振り向くと、恐ろしかった筈の達磨が半べそをかいていた。しかも、その達磨の前には優香がちょこんと立っている。
「ちょっ、百瀬さん!危ない――」
『優香ちゃんは、大丈夫なの』
「え?」
『ほら』
梢が指差す方を見れば、優香が自分のランドセルから給食のパンの残りを取り出していた。
「パンしかないけど、いい?」
《ぱん、すき》
「ほんと?じゃあ、これ一個全部食べていいよ。だから、人間を襲うのはだめね」
《わかった。ゆか、ありがとう》
そう言うと、達磨は嬉しそうな顔でパンを口にして、風の中に溶ける様に消えていった。
*
三人で、公園のベンチに座る。
最初は三人とも黙っていたが、やがて優香が話を切り出した。
「八雲さん、怖がらせてごめんね。あの子、食いしん坊なの」
「え?」
何の話かと凪咲が小首を傾げていると、優香が平然とした顔で「さっきの達磨」と答えた。
「え…え?!ねえ、百瀬さんもあやかしが見えるの?」
「見えるよ」
「陰陽師なの?」
「陰陽師…って、何?」
今度は優香がきょとんと小首を傾げる。
『陰陽師って、あやかしを退治する人のこと…だよね』
黙って話を聞いていた梢が、おずおずと尋ねる。その梢の言葉に、凪咲は小さく頷いた。
「え?何で、あやかしを退治するの?」
「え?!じゃあ、百瀬さんはどうしてるの?」
「何を?」
「だからっ!あやかしを、だよ!」
思わず語気を荒らげて言うと、優香はけろっとして「遊んだり、話したり?」と答えた。
その答えに、凪咲はますます訳が分からなくなった。
「ねえ、あやかしは悪いものなんだよ。倒さないといけないの」
「悪い事をする事もあるけど、それにはちゃんと理由があるよ。だから、叱ってあげたらいいじゃん?」
「はぁ?!」
何だか頭が痛くなってきた様な気がして、凪咲は深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「ねぇ、百瀬さんって何なの?」
『優香ちゃんのお家の人達は、昔からあやかしに寄り添ってくれてるの』
苛立たしげに問い掛けると、代わりに梢が答えた。
「寄り添う?」
「人間も、あやかしも一緒だよ。困ってたら、助けてあげるの」
「何で」
「ご先祖さまが、そうしてきたから」
凪咲の家も、代々の御先祖が陰陽師として、あやかしを祓ってきていた。
相容れない運命にある二人を見つめながら、梢が安心した様に笑う。
「え…?!」
その声の主は、隣の席の七塚 梢だった。
「どう、して――」
呆然とする凪咲の横を、誰かが素早く駆けていく。
「ちょっと!八雲さんに何してんの!」
《ゆ、ゆかぁ。おいら、はらがへったんだよぅ》
振り向くと、恐ろしかった筈の達磨が半べそをかいていた。しかも、その達磨の前には優香がちょこんと立っている。
「ちょっ、百瀬さん!危ない――」
『優香ちゃんは、大丈夫なの』
「え?」
『ほら』
梢が指差す方を見れば、優香が自分のランドセルから給食のパンの残りを取り出していた。
「パンしかないけど、いい?」
《ぱん、すき》
「ほんと?じゃあ、これ一個全部食べていいよ。だから、人間を襲うのはだめね」
《わかった。ゆか、ありがとう》
そう言うと、達磨は嬉しそうな顔でパンを口にして、風の中に溶ける様に消えていった。
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三人で、公園のベンチに座る。
最初は三人とも黙っていたが、やがて優香が話を切り出した。
「八雲さん、怖がらせてごめんね。あの子、食いしん坊なの」
「え?」
何の話かと凪咲が小首を傾げていると、優香が平然とした顔で「さっきの達磨」と答えた。
「え…え?!ねえ、百瀬さんもあやかしが見えるの?」
「見えるよ」
「陰陽師なの?」
「陰陽師…って、何?」
今度は優香がきょとんと小首を傾げる。
『陰陽師って、あやかしを退治する人のこと…だよね』
黙って話を聞いていた梢が、おずおずと尋ねる。その梢の言葉に、凪咲は小さく頷いた。
「え?何で、あやかしを退治するの?」
「え?!じゃあ、百瀬さんはどうしてるの?」
「何を?」
「だからっ!あやかしを、だよ!」
思わず語気を荒らげて言うと、優香はけろっとして「遊んだり、話したり?」と答えた。
その答えに、凪咲はますます訳が分からなくなった。
「ねえ、あやかしは悪いものなんだよ。倒さないといけないの」
「悪い事をする事もあるけど、それにはちゃんと理由があるよ。だから、叱ってあげたらいいじゃん?」
「はぁ?!」
何だか頭が痛くなってきた様な気がして、凪咲は深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「ねぇ、百瀬さんって何なの?」
『優香ちゃんのお家の人達は、昔からあやかしに寄り添ってくれてるの』
苛立たしげに問い掛けると、代わりに梢が答えた。
「寄り添う?」
「人間も、あやかしも一緒だよ。困ってたら、助けてあげるの」
「何で」
「ご先祖さまが、そうしてきたから」
凪咲の家も、代々の御先祖が陰陽師として、あやかしを祓ってきていた。
相容れない運命にある二人を見つめながら、梢が安心した様に笑う。
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