上 下
34 / 50

第34話 ミューズの初陣

しおりを挟む
 馬車から出て前方を見据える。
 そこには緑色の小さな体をしたモンスター、ゴブリンが十匹ほどウロウロしていた。

「で、何がしたいんだ?」

 俺の隣に立つミューズはのんきな顔で話し出す。

「はい。私、普通に魔術を使おうとしたら力が暴走しちゃってダメなんですけど……でもこの間、フェイトさんの戦いを見てピーンってきちゃったんです」

「何に対してピーンってきたんだよ?」

「あのほら、大きな剣を投げつけたやつです」

「ああ……」

 『飛翔する大剣ツーハンデット・スロー』のことだな。
 しかしあれに対して何を感じたんだ、ミューズは。
 あれと魔術なんて……どうしたって結びつかないんだけど。

「私あれを見て思ったんです。魔術を直接しようするのは無理だけど、『投げつける』なら使えるかもって!」

「…………」

 キラキラした目で語るミューズ。
 俺は顔面蒼白となっていた。

 理屈も何も無い。
 ただ使えるかも!
 って、不安しかないんだけど。

 だがミューズはそんな俺の気持ちとは裏腹に、興奮した様子で続ける。

「ですから、何か投げる武器があればそれに魔力を込めて……ね、できるような気がしませんか?」

「まったくそんな気はしません。被害を被る気しかしません」

「き、きっと大丈夫ですよ! 私、これでも直感は優れてるほうですので!」

 彼女はやる気だった。
 俺も覚悟は決めたんだ。
 付き合ってやる覚悟を。

 俺は震える手で【空間収納】を開き、『ブーメラン』を取り出す。
 予備で購入しておいた物だったが……まさかこんな形で使用することになるとは。
 過去の自分がここまで憎いとは思ったことがない。

 『ブーメラン』を手にしたミューズはペンダントを外し、それに魔力を込めだした。
  
 警戒する俺は、ミューズから少し距離を取る。
 怯える俺であったが……意外と魔力のコントロールができているようだった。

「あれ……? 爆発しない?」

「みたいですね! 物に魔力を込めるなんて初めてでしたけど……でもやっぱりいけそうです――」

 そう思った矢先のこと。
 魔力は軽い暴走を起こす。
 周囲に稲妻が走り、温度が上昇していく。

 もう逃げられないと俺は早速自分の覚悟に後悔するが……
 しかし、『ブーメラン』が壊れるだけで爆発を起こすことなく無事にすんだ。

「ば、爆発しなかったみたいだな……」

「うーん……」

「なんで納得いっていないの!? 爆発した方が良かったんですか!? そんな破壊的思考の持ち主なんですかぁ!?」

「いえ、そうじゃなくて、イメージ通りにいかなかったなって……」

 どうやら暴走するようなイメージではないようで……
 『ブーメラン』を失った手を見下ろし、ミューズは難しい顔で思案中。

「うーん……もっとこう、投擲武器じゃなくて自分に合った武器なら……あ」

 閃いた!
 ミューズはそんな顔をして、一本の包丁を取り出す。
 それは今朝、俺に見せてくれた包丁で、彼女はそれを持ったまま俺の方を見た。

「これを投擲できれば、もしかしたら上手くいくかもです!」

「包丁を投擲ね……」

 俺は一度ため息をつき、そして再度『ブーメラン』を用意する。
 どれだけ用意してるんだよと自分で思いつつも、それと彼女の包丁を【融合】してあげた。

「これで投げられると思う。とりかえず、ミューズの気が済むまでやってみなよ」

「ありがとうございます! では!」

 ミューズは深呼吸し、包丁を握る手に力を込める。
 魔力が高まっていく。
 その膨大な魔力に、こちらを見ていた御者が怯え始める。
 俺も彼と同じで内心はビクビクしていた。
 だがそんなことは表に出さない。
 ただ整然として彼女の横に立つのみ。

「できました……イメージ通りにできましたよ、フェイトさん!」

 包丁に集中した魔力を暴走させることなく、ミューズは完璧に操作していた。

「すごい……本当にできたな!」

「はい! 後はこれを投げつけるだけです」
 
 俺と御者はゴクリと息を呑み、ミューズの投擲を見届ける。

「【アクアボール――スロー】!」

 ミューズの魔力は水属性へと変化し、ゴブリンの集団に向かって投げつけられる。
 まさにブーメランの如く軌道で包丁は飛ぶ。
 包丁を包む水は刃となり、端のゴブリンから順番に切り裂いていく。
 計十匹のゴブリンはその一撃で壊滅し、彼女の手に包丁が戻ってくる。

「……やりました! 完全に操作できました!」

「やったな! これなら十分戦力になるし、安心だ!」

 ミューズは興奮しピョンピョン飛び跳ねている。
 そして笑顔のまま、何故か俺の胸に飛び込んできた。
 
 彼女の柔らかさと甘い香りに胸をドキンとさせる俺。
 だがしかし、次の瞬間には胸の高鳴りが別のものへとシフトする。

「……ミューズ?」

「あ……あはは……勢いでフェイトさんの胸に飛び込んじゃいました……私……私……なんて恥ずかしいことを!」

 真っ赤に顔を染めるミューズ。
 そして彼女の魔力も赤く輝く。

 巻き起こる大爆発。
 またしても彼女の魔力は暴走をしてしまった。
 
 完全に操作できたんじゃなかったのかよ……
 俺は爆発に巻き込まれながら、ミューズはまだ魔力をコントロールできていないことを悟るのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

スキルが全ての世界で無能力者と蔑まれた俺が、《殺奪》のスキルを駆使して世界最強になるまで 〜堕天使の美少女と共に十の塔を巡る冒険譚〜

石八
ファンタジー
スキルが全ての世界で、主人公──レイは、スキルを持たない無能力者であった。 そのせいでレイは周りから蔑まされ、挙句の果てにはパーティーメンバーに見限られ、パーティーを追放させられる。 そんなレイの元にある依頼が届き、その依頼を達成するべくレイは世界に十本ある塔の一本である始まりの塔に挑む。 そこで待っていた魔物に危うく殺されかけるレイだが、なんとかその魔物の討伐に成功する。 そして、そこでレイの中に眠っていた《殺奪》という『スキルを持つ者を殺すとそのスキルを自分のものにできる』という最強のスキルが開花し、レイは始まりの塔で数多のスキルを手にしていく。 この物語は、そんな《殺奪》のスキルによって最強へと駆け上がるレイと、始まりの塔の最上階で出会った謎の堕天使の美少女が力を合わせて十本の塔を巡る冒険譚である。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

修行マニアの高校生 異世界で最強になったのでスローライフを志す

佐原
ファンタジー
毎日修行を勤しむ高校生西郷努は柔道、ボクシング、レスリング、剣道、など日本の武術以外にも海外の武術を極め、世界王者を陰ながらぶっ倒した。その後、しばらくの間目標がなくなるが、努は「次は神でも倒すか」と志すが、どうやって神に会うか考えた末に死ねば良いと考え、自殺し見事転生するこができた。その世界ではステータスや魔法などが存在するゲームのような世界で、努は次に魔法を極めた末に最高神をぶっ倒し、やることがなくなったので「だらだらしながら定住先を見つけよう」ついでに伴侶も見つかるといいなとか思いながらスローライフを目指す。 誤字脱字や話のおかしな点について何か有れば教えて下さい。また感想待ってます。返信できるかわかりませんが、極力返します。 また今まで感想を却下してしまった皆さんすいません。 僕は豆腐メンタルなのでマイナスのことの感想は控えて頂きたいです。 不定期投稿になります、週に一回は投稿したいと思います。お待たせして申し訳ございません。 他作品はストックもかなり有りますので、そちらで回したいと思います

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

チートスキルで無自覚無双 ~ゴミスキルばかり入手したと思ってましたが実は最強でした~

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
北野悠人は世界に突如現れたスキルガチャを引いたが、外れスキルしか手に入らなかった……と思っていた。 が、実は彼が引いていたのは世界最強のスキルばかりだった。 災厄級魔物の討伐、その素材を用いてチートアイテムを作る錬金術、アイテムを更に規格外なものに昇華させる付与術。 何でも全て自分でできてしまう彼は、自分でも気づかないうちに圧倒的存在に成り上がってしまう。 ※小説家になろうでも連載してます(最高ジャンル別1位)

処理中です...