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六月・ジューンブライド
6/14(土) アパート下、仁義なきファッションバトル
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来る夏至に備え、そろそろ地球も熱くなってくる。というよりもう既に暑い。やんなるね。吸血鬼はだらけながら狩人に問う。
「夏服買いに行こうぜ。今あるのじゃちょっと不安だし」
「どこに?」
「アパート下のとこ」
「やめときなよあそこ高いじゃん」
「まあまあまあ、見るだけならタダって言うじゃん? 気に入ったら買えばいいし、気に入らなければ買わない。お買い物ってそういうもんだろ」
箪笥の中をまた一通り見る。一月半、徹底的に着回した服だ。見慣れていないものは無い。
吸血鬼は元来お洒落なほうではないが、これでは夏は暑いだろうと思っていた。その程度の認識はできた。
「おしゃれしてどっか出てくの? どこに?」
「お前さ。俺がおしゃれしてて見ないわけ!?」
「……見ないよ? 見ると思ったの?」
「おい、俺と目と目合わせて言ってみろよ。ええ?」
「それすると君、洗脳して見たいですって言わせてくるだろ……」
「よくわかってんじゃねえか」
彼の言う通り見るだけならばタダだし、今日は一日暇だし、狩人は彼の買い物に付き合ってもいい、と思っていた。あそこの店のものは高いけれど、彼は気に入っているみたいだし、どうせ着るなら彼が気に入るものの方がいい。ファッションへの造詣が深くない割に彼はそう思っていた。
「夏用の部屋着が欲しいんだよね。外に出ていく用のも一着は欲しいな……あと靴下の涼しいやつ。パンツはいいや」
と吸血鬼は独り言ちながら、買物メモを作って表に出る。
「何してる、早く来い」
「わかった」
外に出る用意をしてから、狩人は吸血鬼に着いて行く。
「どうして僕も行くの? どうせ値段なんて見てないんだから君一人でも……」
「理人よ、お前だけは知らなかったかもしれないが、俺は実はお前に俺のことを好きになってほしいと思ってるんだ。だからどうせならお前の好みの服を着たい、と思ってね。それに俺と一緒に服見てたら、お前もファッションを楽しいって思えるんじゃない?」
「……君も大して楽しいって思ってないのに? 僕も? 変なことを言うんだな」
「バレた?」
目的の服屋は下りてすぐのところにあるので、大したお喋りはできない。
「いいのが無ければイオンにでも行くか。安く済む」
「そうしてくれると助かる」
洒落たガラス戸を開けて店内に踏み入る。しゃらしゃら音を立ててドアベルが鳴る。戦いのゴングだ。
この服屋ではいわゆるゴシック系といわれる装束を扱っていた。服飾が華美に傾いていたかつての時代に思いを馳せ、現代の感覚で額装したような服の群。それらを集め、あるいは作っているらしい。ただ一つ注意すべきは、この店で扱われている古めかしくも新しい服は全て普段着、あるいは勝負服と言うべきもので、コスプレではない。
万人が“普通の人”というコスプレをしていると言うのならば、この店で扱う服も同様にコスプレと呼んでいいだろう。店主はそう主張していた。
古めかしくも新しい。現代っ子の吸血鬼も、時代に取り残された身一つで狩人も、同様な形容詞が付く存在だった。
しかし彼らにはどうにもファッションがわからなかった。なんだかよくわからないままサイズの合いそうなものを試着し、着心地の良い大量生産品に迎合して、何の信条も無くただ服に着られている。値段を見ないところだけ唯一褒められたところであるが、店主が気に入る人種ではなかった。
「いいだろ? 吸血鬼だぜ?」
それは店主にとっては大したアピールポイントにはならない。カメラに映らない以上モデルにはなり得ないし、お安いアルバイトにもならない。
夏の期間、外に出て行けそうなシャツとパンツ(下着に非ず)を二着ほど買い、彼らは薄暗い店内から出た。
「やっぱ部屋着無いんだな」
「イオン行こうか」
彼らは服をアパートの部屋に置いた後、量販店に行って着心地が良さそうでお安い部屋着、三足千円たたき売りの靴下を買った。一足は外着にも合わせられるようなこじゃれたもので、二足は同じような靴下を買った。
「同じ靴下なら一つ穴が開いても他のやつと合わせて履ける。同じ色でもいい」
「だからお前の靴下全部あのグレーなの?」
吸血鬼は若い吸血鬼だったので靴下にこだわりは無く、左右で別々の靴下を履くことにもためらいは無かったが、狩人のアイデアを良いと思ったのでそれに従った。
吸血鬼の夏服が、箪笥の真ん中の段の半分を占めた。
「夏服買いに行こうぜ。今あるのじゃちょっと不安だし」
「どこに?」
「アパート下のとこ」
「やめときなよあそこ高いじゃん」
「まあまあまあ、見るだけならタダって言うじゃん? 気に入ったら買えばいいし、気に入らなければ買わない。お買い物ってそういうもんだろ」
箪笥の中をまた一通り見る。一月半、徹底的に着回した服だ。見慣れていないものは無い。
吸血鬼は元来お洒落なほうではないが、これでは夏は暑いだろうと思っていた。その程度の認識はできた。
「おしゃれしてどっか出てくの? どこに?」
「お前さ。俺がおしゃれしてて見ないわけ!?」
「……見ないよ? 見ると思ったの?」
「おい、俺と目と目合わせて言ってみろよ。ええ?」
「それすると君、洗脳して見たいですって言わせてくるだろ……」
「よくわかってんじゃねえか」
彼の言う通り見るだけならばタダだし、今日は一日暇だし、狩人は彼の買い物に付き合ってもいい、と思っていた。あそこの店のものは高いけれど、彼は気に入っているみたいだし、どうせ着るなら彼が気に入るものの方がいい。ファッションへの造詣が深くない割に彼はそう思っていた。
「夏用の部屋着が欲しいんだよね。外に出ていく用のも一着は欲しいな……あと靴下の涼しいやつ。パンツはいいや」
と吸血鬼は独り言ちながら、買物メモを作って表に出る。
「何してる、早く来い」
「わかった」
外に出る用意をしてから、狩人は吸血鬼に着いて行く。
「どうして僕も行くの? どうせ値段なんて見てないんだから君一人でも……」
「理人よ、お前だけは知らなかったかもしれないが、俺は実はお前に俺のことを好きになってほしいと思ってるんだ。だからどうせならお前の好みの服を着たい、と思ってね。それに俺と一緒に服見てたら、お前もファッションを楽しいって思えるんじゃない?」
「……君も大して楽しいって思ってないのに? 僕も? 変なことを言うんだな」
「バレた?」
目的の服屋は下りてすぐのところにあるので、大したお喋りはできない。
「いいのが無ければイオンにでも行くか。安く済む」
「そうしてくれると助かる」
洒落たガラス戸を開けて店内に踏み入る。しゃらしゃら音を立ててドアベルが鳴る。戦いのゴングだ。
この服屋ではいわゆるゴシック系といわれる装束を扱っていた。服飾が華美に傾いていたかつての時代に思いを馳せ、現代の感覚で額装したような服の群。それらを集め、あるいは作っているらしい。ただ一つ注意すべきは、この店で扱われている古めかしくも新しい服は全て普段着、あるいは勝負服と言うべきもので、コスプレではない。
万人が“普通の人”というコスプレをしていると言うのならば、この店で扱う服も同様にコスプレと呼んでいいだろう。店主はそう主張していた。
古めかしくも新しい。現代っ子の吸血鬼も、時代に取り残された身一つで狩人も、同様な形容詞が付く存在だった。
しかし彼らにはどうにもファッションがわからなかった。なんだかよくわからないままサイズの合いそうなものを試着し、着心地の良い大量生産品に迎合して、何の信条も無くただ服に着られている。値段を見ないところだけ唯一褒められたところであるが、店主が気に入る人種ではなかった。
「いいだろ? 吸血鬼だぜ?」
それは店主にとっては大したアピールポイントにはならない。カメラに映らない以上モデルにはなり得ないし、お安いアルバイトにもならない。
夏の期間、外に出て行けそうなシャツとパンツ(下着に非ず)を二着ほど買い、彼らは薄暗い店内から出た。
「やっぱ部屋着無いんだな」
「イオン行こうか」
彼らは服をアパートの部屋に置いた後、量販店に行って着心地が良さそうでお安い部屋着、三足千円たたき売りの靴下を買った。一足は外着にも合わせられるようなこじゃれたもので、二足は同じような靴下を買った。
「同じ靴下なら一つ穴が開いても他のやつと合わせて履ける。同じ色でもいい」
「だからお前の靴下全部あのグレーなの?」
吸血鬼は若い吸血鬼だったので靴下にこだわりは無く、左右で別々の靴下を履くことにもためらいは無かったが、狩人のアイデアを良いと思ったのでそれに従った。
吸血鬼の夏服が、箪笥の真ん中の段の半分を占めた。
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